アツシ VS カズミ
「テッド!」
アキトはテッドの体を起こして支えた。
テッドは二の腕から下の腕を両方とも無くし
応急処置が施されていた。
タオルが巻かれ、傷口のある所からは血がにじみ出ていた。
テッドは苦痛で顔を歪ませ汗だくになっていた。
半開きの目でアキトを見る。
だが、言葉が出ずテッドは口元だけ笑って見せた。
テッドはアキトのように
腕を再生させる力は持っていない。
トールは死闘をしていたであろう
ボロボロのアキトとテッドの姿を見て怒りを込み上げた。
飛びかかりそうになったが
アツシに押さえられ その場で初めての敵を目に焼き付ける。
「全く……初めから お前らの仲間だってわかってりゃ
生け捕りにしてたんだがな」
「そちらこそ、相変わらず隠れるのが上手っスね。
今までどこにいたんスか」
カズミとアツシが いがみ合いながら会話をする。
トールはその光景を黙ってみていた。
「ずいぶんと仲間を増やしたみたいだな、アツシ。
おっと………一人脱落したか」
カズミは テッドを見て冷ややかに言った。
この言葉にトールもアキトも怒りをあらわにする。
だが、アツシは飛び出しそうな2人を抑えるかのように
前に出て壁を張っていた。
カズミは そんなアツシの姿を見てほくそ笑む。
「1人で戦うつもりか?強くなったんだなぁ、アツシ」
「いやぁ、お陰さまで。
でも、出来ればこの場を見逃してくんないかなぁ……なんて」
「……できると思うか?」
アツシの顔から冷や汗が流れる。
カズミがアツシ達に向かって歩き出した。
「オルグ、手を出すなよ」
「はぁい」
オルグは変形を解き、元の姿に戻る。
カズミは煙草に火を付けてくわえ、すぐに煙を吹き出した。
「『煙色』」
煙がアツシ達4人の元へと迫る。
実際に『煙色』をくらったアキトは叫んだ。
「アレに捕まったら動けなくなる!」
「わかってるよっと」
アツシは煙が近付いてきても冷静だった。
ペンライトを手にして 素早くある記号を宙に描いた。
「『風速記号』」
アツシの描いた記号から風が起こり
カズミの煙を押し返した。
その間にアツシは自分のケータイをトールに渡し
カズミに聞き取られないよう小さな声で話した。
「コールが鳴ったら俺の名前を呼んで。
その瞬間に逃げるよ」
「逃げるって……どうやって!?」
「ケータイが鳴ればわかる。今まだ準備が出来てないんだ。
俺が時間を稼ぐから3人とも動かないで」
それだけ言うとアツシは再びカズミの方へ向いた。
宙に記号を描いていく。
「『雨記号』」
廃墟の室内にいるはずだがポツポツと雨が降りだし
次第に雨足が強くなる。
雨はカズミやオルグの周辺だけに降り落ち
カズミは火の消えた煙草を捨てた。
「チッ、しゃーねえ。お前の雨を利用させてもらうか」
カズミは しゃがみ込み、右手を地面に当てた。
「『灰水色』」
カズミの周辺に出来ていた水溜まりが
ブルブルと震えて動き出した。
廃墟に溜まっていた埃が混ざり
水は煤けた色をしている。
その水が 命を得たように動いてアツシ達の方へ向かってきた。
アツシも負けじと次の記号を描き出す。
「『氷結注意記号』」
アツシに近付いてきた水がみるみる凍っていく。
凍った水は その場で止まり砕け落ちた。
押しては返すの攻防を続けるアツシとカズミ。
互いに力量を計り合ってるようにも見えた。
「前は『記号』を見なきゃ発動しないはずだったよなぁ?アツシ」
「ちょっと前に戦った子から教訓してね。
もうそれカンケーないんスよ」
「チッ、厄介な野郎だ」
緊迫する状況の中、トールはアツシから
預かったケータイを握って
早くコールが鳴らないかと待っていた。
その時だった。
アツシのケータイが鳴り出した。
トールは画面を見るなり、電話をかけてきた人の名前を見て
すぐに理解が出来た。
「アツシさん!!」
「! ―――オッケー!」
アツシは急いで記号を宙に描く。
カズミはアツシ達の様子が変わったのを見て駆け出した。
「逃がすか!!」
「もう遅いっスよ!」
アツシの描いた記号から
濃い霧が現れて、カズミの目からアツシ達を隠した。
「くそッ」
カズミは霧に巻かれてアツシ達を見失う。
その頃アツシ達はすでに地上にはいなかった。
「―――――ここは?」
突然真っ暗な空間に引き込まれたアキトは
何が起きたかわからない顔をして
辺りをキョロキョロ見回した。
近くにはアツシもトールもテッドも同じ空間にいて
そしてもう一人の仲間がいた。
「遅くなってごめんね~」
影の中を自在に移動できる元・生徒会の影井イズミが
4人を助けるために駆け付け
アツシがカズミから目をくらませた瞬間に
4人をイズミの影の世界『不明』へ引きずり込んだ。
「もう大丈夫だよー、早く病院に戻ろー」
4人はイズミの後に付いて影の中を移動する。
初めての『敵』との接触は
一人の仲間の能力を失わせるという大きな痛みを与えた。
テッドの肩を担ぎながら
アキトもトールも沈痛な面持ちで
真っ暗な空間を歩き続けた。