オルグとカズミの能力
オルグはみるみる姿を変えていく。
始めは手。そこから腕、肩、と
まるで大きくて強堅な鎧を身にまとうかのように
姿形を変えていく。
次第に顔や頭部も変形した皮膚や骨に覆われ
眼だけが覗き込むような形になる。
やがて変形は脚までおよび
オルグはアキトとテッドよりも大きく
凶暴な『怪物』へと変貌を遂げた。
あどけない青年の姿など微塵も残っておらず
大きな体と禍々(まがまが)しい狂気を放ち
なぜ『檻』と呼ばれた部屋で鎖に繋がれていたのか
嫌でも理解してしまった。
アキトはテッドの『巨砕躯』の手で
腕や脚を潰されたことから
テッドと同じか もしくは上の強堅さを持つ怪物に捕まれば
ひとたまりもない、と感じた。
アキトは初めて感じる自分よりも
強い殺気を放つオルグに竦み上がる。
オルグの右腕が上がる。
テッドは『巨砕躯』の両腕を前でクロスして
防御姿勢を取った。
オルグの右腕は気流を乱す程の速さでテッドを殴った。
ゴッと堅いモノ同士が当たる鈍い音が一瞬響き
テッドは後方へ激しく吹き飛ばれた。
吹き飛ばれたテッドを見て、アキトはテッドの名前を叫びかけた瞬間
ふとアキトの周辺が暗くなる。
手の形をした影がアキトの頭上から落ちてくる。
オルグの左手がアキトを地面に潰した。
テッドの名前も、痛みを上げる声も出す隙もなく
アキトは一瞬のうちに叩き伏せられる。
吹き飛ばれたテッドも
転がって止まった所で うつ伏せに倒れていた。
『巨砕躯』で甲殻化した右腕は
ほぼ半壊状態になっている。
オルグが『怪物』へと変貌を遂げてから
5分も満たない間にアキトもテッドも地面に横たわった。
「あ~あ、2人とも弱いじゃん。ホントに同じ人間兵器??」
オルグはつまらなそうに ため息をついた。
煙草をくわえて見物していたカズミはフゥっと煙を吐いた。
「お前と一緒にしてやるな。それに、まだ油断できないぞ」
「ん?」
オルグは左手に違和感を感じて下を見た。
左手の下から 押し上がる力を感じる。
するとオルグの左手の指の間から
斬り込みが走り、オルグは地面から左手を離した。
押し潰していたはずのアキトは無事で
背中から翼のような刃を生えさせ
オルグの左手を傷つけた。
だが、押し潰されたダメージも受けていて
頭から血を流している。
「テッドがいなきゃ今ごろ死んでたぜ……」
テッドに教えてもらった
『兵器躯』特有の自己生産能力を使い
一旦は押し潰されたが、すぐに体を再生させ
さらに背中から刃を生やして反撃に出る事が出来た。
「くっ……」
だが、まだ頭の傷が修復出来てないのと
背中から生やした刃が過度な体形変形で自制がしにくくなり
苦しい表情をしていた。
アキトは意識の中にいる主人格のアキトに言う。
「悪いな、もうちょっと暴れたいから抑えててくれよ」
そう言って、アキトは両手から肩までを刃化させた。
背中の刃と同時に両手を構えてオルグに立ち向かった。
「なんだぁ、まだイケるじゃない♪」
余裕で笑うオルグはアキトの攻撃を
全身甲殻化した体で受け止める。
オルグの体のどこを当ててもギィンッと
金属を引っ掻いたような音が響き
オルグ自身まで傷はつかない。
「いくらやっても無駄だよッ!!」
攻撃を続けてくるアキトを、オルグは右手で凪ぎ払う。
アキトは吹き飛ばされ、壁に激突したが
すぐに立ち上がって再び斬りかかった。
「バカなの? 君」
何度やっても同じ、とオルグは呆れて今度は右足を上げて蹴りかかった。
だがアキトはオルグの足をかわすと
宙に浮いた右足の後ろに入り込み
膝の裏に刃を食い込ませて斬った。
スパッと斬り込みが走り、そこから血が出て
オルグは右側に倒れ込むように傾いた。
「むっ!やるじゃん。でも関係ないね♪」
「!!」
オルグの右足の膝裏についた傷が
ボコボコッと脈打って、あっという間に修復してしまう。
「君に出来て、ボクに出来ないワケないでしょー」
オルグの体はアキトと同じ『兵器躯』の能力を持っているので
傷がついても自分で回復ができてしまう。
「くそッ!」
それでもアキトは攻め続けた。
「キャハハハハッ!」
無駄だと思い知らせようとオルグは
守備体制も取らず、アキトにいいように体を斬らせた。
オルグは高らかに笑う。
アキトに夢中になっていたオルグは
もう一人と人間をすっかり忘れていた。
オルグの右側の頭部に鉄球を当てたような強い衝撃が走る。
「――――テッド!!」
オルグに吹き飛ばされていたテッドが
まだ使える左手の『巨砕躯』で
オルグの右顔面を思いきり殴った。
オルグは殴られた衝撃で
巨大な体ごと地面に倒れる。
ズシィンっと地鳴りが響き、床は重みで砕ける。
「テッド……お前、右手……」
助けにきたテッドだが右手は
半壊状態で使えそうに見えなかった。
アキトが心配そうに右手を見て
テッドは 無理に笑顔を作って言った。
「心配してる場合じゃない。このまま一気にたたみかけるぞ!」
「―――ああ!」
倒れているオルグに2人は飛びかかった。
テッドは使える左手を思いきり振り上げてはオルグの体に落とす。
アキトはオルグの体の甲殻化しにくい
膝の裏や脇の下、肘、など
体の間接の付け根部分を狙って斬り込んでいく。
「ああッ!ちょっ!待って!待ってってばあ!!」
オルグは二人に猛反撃されて
立ち上がれず、焦りの声を上げる。
「耳を貸すなよ、アキト!」
「わかってるっつーの!!!」
形勢逆転したアキトとテッド。
このまま回復させる間を与えず、仕留めてしまおうと
アキトが オルグの両目を狙って斬ろうとした瞬間だった。
「『煙色』」
突然、アキトの体が何かに拘束されたように動けなくなる。
「なっ!?」
「アキト?!――ッ!!」
テッドは アキトを拘束したモノ(・・)に気付いて
その場を急いで離れる。
ハァーッと呆れたように ため息をしながら煙草の煙を吐く
カズミの姿が飛び込んできた。
「油断するなといっただろう。早く再生しなおせ、オルグ」
「ごめんなさーい」
動けなくなったアキトの側でオルグは
2人に付けられた傷を自己再生していく。
「ちくしょう!!離せ!!」
せっかく傷つけた傷を修復させられ
しかも拘束され身動きがとれないアキト。
よく見るとアキトの周りに
カズミが吐き出した煙草の煙がまとっている。
このせいでテッドはアキトを助けたくても近寄れなかった。
アキトはカズミを睨む。
「お前の能力か!!」
「フッ、面白いだろ?
俺は『才色法師』」
カズミは煙草を地面に捨てる。
「知ったところで消えてもらうがな」
カズミは煙草の吸い殻をジリジリと踏みにじった。