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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆異文化バトルコミュニケーション編◆
181/228

失敗作なんかじゃない

「いっ……………………ぐっ………………!!」


「いっぺんにやろうとするな。まずは骨と神経から」


アキトは苦悶の表情を浮かべ、痛みをこらえながら

左腕の再生を試みていた。

テッドはアキトの正面に座り、アキトの腕の再生を助言する。


「クソッこんな事のために腕 千切りやがって…………ッ!」


「生半可な傷じゃ意味がないって言っただろう」


「この野郎ッ!腕が戻ったら ぶっだ斬ってやるからなッ!!」


「…………ああ、楽しみにしてるよ」


痛みと怒りで荒々しく息をたて、テッドを(にら)むアキト。

テッドはアキトの怒りを フッと笑って受け止めた。




――――――――――




「…………ここで桐谷くんとテッドくんの消息が掴めなくなった」


元・生徒会会長の『空掌握者(エンプティ・パーマー)薄野(すすきの)ソウタと

トール、レミ、ツカサの4人が

自分達の住んでいる市の境目(さかいめ)にやってきた。


ソウタは現在、市内にある大学に通う大学生でありながら

自分の能力(チカラ)で市内に『空間』を張り

市内に異変が起きた時、すぐに伊丹村(いたむら)サキへと

報告できるようレーダー的な役目を担っていた。


今回、アキトとテッドが

市内から消えたのに気付いたのもソウタであり

それをサキに報告して事態が発展した。


ソウタと共にトール達はアキトとテッドが

向かっていった道の方角まで足を運び

隣の市との境目で立ち止まっていた。


「ここから先はどこへ向かったか俺にもわからない……

役に立てなくて申し訳ない」


ソウタは申し訳なさそうに謝る。


「大丈夫さ、ありがとう。

ここからは俺がなんとかしよう」


ツカサは全員の前に立ち、胸ポケットから

タロットカードを取り出した。

ツカサは 22枚のタロットカードをおもむろに宙へ投げ出した。


カードは空中でバラバラになるも

地面には落ちず、その場で浮いていた。

トール達は宙に浮かぶタロットを不思議そうに見る。


すると3枚のタロットカードだけが空中に残り

残りのカードはツカサの手に戻った。

3枚のカードは同じ方向に傾き、微動だに動かなかった。

今度はツカサが不思議そうな顔をした。


「『力』『節制』『吊るされた男』………。

『力』はテッド君で、『節制』は桐谷くんだが………

この『吊るされた男』はなんだ?」


「………あっ、ツカサさん、たぶん もうひとりの桐谷君です。

桐谷君は二重人格なので、もうひとりを現しているんだと思います」


「そうなのか!」


「それでツカサ(にぃ)、二人の居場所はわかったの?」


「おおまかな方角と距離だけだが……。

だいぶ離れた所に行ってるな……

直線距離で2時間弱はかかるぞ」


「とりあえず早く行こうよ、ツカサ(にぃ)!」


レミが二人の向かった方向へ歩き出そうとしたとき

トール達の後方からブォンブォンッと

バイクの噴かす音が近付いてきた。


トール達は気付いて振り向くと

バイクのライダーがトール達のすぐ隣で止まった。

ライダーがヘルメットを外して全員に顔を見せる。


葉山(はやま)さん!」


「ア、アツシ!!」


トールとツカサはライダーが

記号印師(リングルマーカー)』の葉山アツシだとすぐわかった。


「ツカサさーん!久しぶりっす!!」


アツシは満面の笑みでツカサに抱き付いた。


「会いたかったー!!ツカサさん、ちょっとフケたんじゃない?」


「何を!?いや、待てアツシ、再会の喜びは後にしよう。

もしかして助けに来てくれのか?」


「そうそう!(あね)さんに言われて かっ飛ばしてきたよ。

行方不明のコ、追いかければいいんでしょ?」


「ああ、今カードが示した所の地図を渡そう」


「葉山さん、僕もつれてってくれませんか!?」


トールはアツシの元へ一歩前に出た。


「桐谷君は友達です!能力(チカラ)の事もよく知っています!

もし、桐谷君に何か起きていたら助けられると思うんです!」


トールはアキトを思い、必死で訴えた。

アツシはトールの真剣な目を見て

バイクのシートからヘルメットを取りだし

トールの頭にバスッと乗せた。


「オーケー、そんじゃ後ろに股がって。

ツカサさん、行ってきます!」


「ああ、頼むよ」


アツシはバイクに股がりトールは

アツシの背中にしがみつく。

アツシとトールはアキトとテッドがいるであろう場所へと向かった。




―――――――




「……………よし」


「だいぶ戻ったな」


アキトの左腕の再生は かなり時間をかけたが

元の形を取り戻していた。

普通ならば千切れた体の再生など出来はしない。

だがアキトの体はそれを可能にしていた。


「上手く………動かねえ」


「…………腕が冷たいな。血液を送ってないだろう?」


「――ッ忘れてたんだよ!今からやる!!」


「素直な男だな」


アキトを見てテッドは笑った。


アキトは左腕に血液を巡らせ体温を上げると

左腕が徐々に動くようになる。

手を握りしめたりクルクル回したりして動作の確認をする。


こうしてアキトはようやく体の全部の回復に成功した。

テッドに手足を潰され、倒れていたのが嘘のようだった。


「おそらく『兵器躯(エレメルト)』は戦闘の際、武器化した体を壊されたり

失っても、その場で回復できるようにと造られたんだ。

お前の体は、必要以上に細胞を生産できるようになっているんだよ」


「……………………なるほどな。

けど、それがなんで『暴走』になるんだ?」


「本来なら必要ない組織を増やしてしまう事で

体内のエネルギーが調節できなくなる。

許容量を超えてしまうわけだ。

行き場のないエネルギーが体内で暴れまわった(のち)

内部暴発を起こして死ぬ。

兵器躯(エレメルト)』として生まれた者達は皆 暴走した後、破裂して死んだ」


テッドは淡々と語り、アキトは身に覚えのある事を思い出していた。


「体の細胞を増やしすぎたら今みたいに切り落としてしまえばいい」


「……………すげえ応急措置」


「だが、お前には他に暴走を抑えてくれるものがある。

それが もうひとりのお前だ」


テッドはアキトの目の奥を見る。

今は別人格に体を譲り、

意識の中から話を聞いているだろう主人格のアキトを見るように。


「研究者たちはお前を二重人格だからと言って切り捨てたが

暴走しても戻ってこれる唯一の『兵器躯(エレメルト)』だったんだ。

お前は『失敗作』なんかじゃない」


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