星座使い(アストロマスター)・武藤 ユエ 2
「お前 どーすんだよ それ…」
「さすが樋村 すげーな」
「成り行きで決まっちゃったんだよ…」
武藤ユエとの やりとりを
ハルマとアキトに伝えるため
トールは屋上に戻り一部始終を話した。
「そーいや…
冥王星がどうとか言ってたな、オレの事。
オカルト過ぎて話がわからなかったんだよ…」
ハルマは自分達の事がバレていた事と
武藤ユエの『惑星の語り』のオカルトさに
苦手意識を抱いて 青ざめていたらしい。
「僕が水星で、ハルマが冥王星。
桐谷君は…たぶん土星」
「俺の事も言ってたのか?」
「でも、名前は出なかったよ」
「冥王星も土星も不吉な惑星って知られてるよな。
よく漫画とかでもそんなネタで使われてるし」
「僕達を不吉扱いしてたからね」
「まぁ…否定できないな」
アキトが苦笑いをした。
「で、次の満月の夜だろ?いつ?」
「…調べたら7月12日の火曜日」
「ちょうど火曜日か…
そしたら放課後集まって そのまま
夜まで ここにいた方がいいな」
「僕達……一応 風紀委員なのに」
トールも苦笑いをした。
「で、誰が相手すんだよ」
ハルマが ムッツリと言い出した。
「オレは嫌だぞ…あの女 なんかヤダ」
「ハルマが誘うって言ったんじゃないか!
僕だって女子と戦うなんて嫌だよ」
「俺も 女子を斬り裂く趣味はない」
3人は同じ意見を主張した。
「……じゃあ仕方ない。
武藤って娘に指名してもらおう」
「んー…それなら…まぁ」
「えっ…もう嫌な予感しかしないんだけど」
~7月12日 火曜日・放課後~
季節は夏に入り、セミの鳴き声がする。
陽が落ちる時間が遅く
夕方6時になっても まだ空は明るかった。
ハルマは夏服の制服で
半袖のYシャツをだらしなく着こなし
アキトは部活があったので
Tシャツにジャージ姿、
トールは 腕の封印札があるため
夏でも長袖のシャツを着ていた。
「樋村 プールの授業はどうしてるの?」
「許可もらって入らない事にしてる」
「へー…残念」
「いやいや 何が残念なの?」
トールとアキトが くだらない会話をしていると
屋上の扉がカチャンと音を立てた。
3人が扉の方へ顔を向けると
武藤ユエ がツカツカとやってきた。
まったく疑ったり驚いたりしていない。
凛とした姿勢を崩さなかった。
「武藤さん…よ、ようこそ」
トールは 何て言ったらいいのか迷って
挨拶を噛んでしまった。
「……それで、何をするの?」
「えっ…えーと…」
トールはハルマとアキトの顔を
チラッと見た。
ハルマは お前が説明しろと目線で訴え
アキトは涼しげな顔で成り行き任せを決めている。
トールは2人に助けを求めるのをやめて
武藤ユエに 説明を始めた。
「僕達は…ここで自分の能力を出して
競いあってるんだ。
桐谷君は最近来てくれるようになって…。
この学校には能力者が多いみたいなんだ」
武藤ユエは黙って話を聞いている。
「それで、能力者の人たちを誘ってたんだ。
武藤さんの事は ハルマから聞いて…」
ハルマが一瞬ピクッと動いたが
無視して話を続けた。
「これから 1対1 で戦うんだけど…」
「わかったわ」
「えっ!あ…そう」
武藤ユエの即答にトールは驚いた。
「誰と戦えばいいのかしら?」
「あ…あの、武藤さんが選んでくれていいんだ」
「私が選ぶの?」
「うん…みんな女子と相手するの初めてだから
迷っちゃって」
「そう」
武藤ユエは 3人の顔を1人ずつ
しっかり眺めた。
「ハルマは体から電気を出す能力を持ってる…
桐谷君は体を武器に変形させる能力を持ってて…
僕は……この身に妖怪を宿してる」
「オイ!いきなりバラすのかよ!」
「言うよ!だって女性だよ!?」
「……優しいのね 樋村くん」
武藤ユエが 初めてクスッと笑った。
「そうね、じゃあ あなたが良い」
武藤ユエはトールを見て言った。
あぁ、やっぱり…という空気が
3人の間で漂った。
トールは肩が落ちた。
「僕か…」
「がんばれー トールー!」
「うるさい!黙れ!」
「ルールはあるの?」
武藤ユエは淡々と話を進めようとするので
トールは調子が狂わされた。
いつもと同じルールを説明した。
少し違うのは、夜は新校舎からのチャイムが鳴らないので
アキトがタイムキーパーをする事になった。
「相手を気絶させたら勝ちだけど…
武藤さん、僕はあなたを気絶させたくないから
『参った』って言わせるよ」
「優しいのね」
空が暗くなりはじめて
少しずつ星や月の光が目立ってきた。
「制限時間は19時30分まで」
アキトがケータイのアラームをセットした。
もう、いつでも開始していい状態になり
トールと武藤ユエは 距離を取って対峙した。
「樋村くん、誕生日はいつなの?」
「誕生日?…11月28日だけど」
「そう、『サジタリウス』ね」
「…?」
武藤ユエの手から キラキラと
煌めくオーラが出てきた。
それは ある形へと変わっていく。
月の光のような輝きを放つ弓矢へ。
「!!」
「私は『星座使い』」
武藤ユエは弓矢をトールに向けて
右手を後ろに引いた。
「全ての星座が 私の配下」