エレメルトとギガディウス
ツカサからテッド・フォスカーが
アキトと同じ境遇の人間であることを知ったトール。
アキトを連れてこようとした時
アキトが学校に来ていない事をレミから聞き立ち止まっていた。
トールの行動をいぶかしげに思ったツカサが前に出る。
「どうしたんだい、樋村くん。
なんで桐谷くんを呼ぶ必要が………」
ツカサが問いかけた途端、ツカサのポケットから
ケータイの着信音が鳴った。
画面を見るとツカサはすかさずケータイを耳に当てた。
「さっちゃん、どうしたの?……え?」
ツカサの顔が深刻そうな表情に変わる。
「なっ、ちょ……ウソだろ?なんでそれを教えてくれな……
い、いや、俺も内緒にしてたわけじゃ」
「ツカサ兄、何を慌ててるのかしら?」
「………」
電話口で慌てるツカサをレミとトールが
心配そうに見ていた。
「わかった、すぐ探すよ!
………レミちゃん、樋村くん、桐谷くんとテッドくんが
市内からいなくなった……一緒に探してほしい」
「えっ!?なんで!?てかなんでテッドくんも!?」
「俺も今初めて さっちゃんから聞いたんだ、桐谷くんの事を……。
おそらく、桐谷くんもテッドくんがいた
その施設の生き残りだったんだ……!」
「えっ、『ウォンバッド』が目をつけてたってとこの……?
ウソでしょ!?アッキーって……それじゃあ!!」
「人体兵器の実験で造られた体だよ……。
桐谷君から聞いたんだ。ハルマも知ってる」
「トール君!!知ってたの!?」
レミが仰天する隣でツカサは
口に手を当て、何かを考えるポーズをした。
「そうか、それで俺がテッドくんの話をしたから
桐谷くんを連れてこようとしたんだね。
まさか……こんな偶然があるなんて」
「けど、桐谷君の話じゃ 桐谷君は5才になる前に
施設から捨てられたと言ってました。
『ウォンバッド』の事は全く知らないって」
「……………そうか」
「じゃあ、なんでアッキーとテッドくんは
一緒にどっか行っちゃったの!?」
「わからないよ!でも、きっと何かあったんだ……!
とにかく探しに行こう!」
「そうだな。桐谷くんの消えた方角にまず向かっていこう」
ツカサとトールとレミは教室を飛び出した。
―――――――
「『兵器躯』?」
「そうだ」
アキトはテッドから 自分の造られた能力の名前を知る。
「身体の組織を変形させて武器化するを人間を『兵器躯』、
身体の一部、もしくは全体を巨大化させて
破壊力を得る人間を『巨砕躯』と
呼び分けて人体実験が行われていたんだ。
俺は『巨砕躯』だ」
テッドは自分の能力をアキトに明かす。
「君は人格を埋め込まれてないのか?」
「ああ、俺は5才の時に施設へ来た。
すでに人格が出来ていたし『巨砕躯』は
別人格を埋め込む洗脳はしないんだ」
「……………?
さっき言ってた交通事故と
君の身体はどう話がつながってるんだ?」
「………俺は事故で両腕を失う大ケガをした」
テッドは自身が幼い時に事故で両腕を無くした事を言う。
だが、目の前のテッドの両腕は普通にある。
義手でもなく、生身の腕だった。
アキトはテッドの手に視線を向けていた。
「両親にも医者にも あらゆる手を尽くしてもらったけど
俺の手は永遠に戻らないと診断された。
ひどく辛かったな……手が無くなったこともだけど
両親が毎日悲しんで、元気を無くしていく姿を見るのが辛かった」
テッドは過去を思い出して うつ向いた。
「そんな時だった。身体の一部を無くした者に
無くした部位をクローンで造り、移植する手術方法があると言われた。
俺も両親も迷わず受け入れたよ。
そして俺だけ この施設に連れて来られた。
手術の時は麻酔で眠っていたから覚えてないが……
目が覚めたら俺の両手が生えるように元に戻っていた。
すごく嬉しかったんだがな………それが
すでに間違った道だったんだ」
テッドは両手に力を入れて握りしめた。
「俺の手はクローンで移植されたモノなんかじゃない。
研究者達が造った、巨大化させることが出来る
『巨砕躯』の手だったんだ。
俺は手を無くした事で研究者達に都合よく扱われただけだった。
この手にされて……操作が出来なければ
両親の元には帰さないと言われて
仕方なく従い……1年ほど施設に監禁された。
その時に『兵器躯』の事も知ったんだ。
『巨砕躯』と『兵器躯』は成り立ちが違う。
『巨砕躯』は研究者達が造った部位に付け替える物だから
変な話、誰でも『巨砕躯』になれる。
だが『兵器躯』は身体の組織から
造り上げるから、生まれる前の胎児の状態からでないと
『兵器躯』は造れない。
それと兵器として人を殺せる人格にしなくちゃいけないから
別人格の洗脳教育をさせる。
それが 俺とお前の違いだ、アキト」
アキトは黙ったままテッドの目を見つめた。
テッドもアキトが自分の事を知りたくて
真剣になっているのを感じとった。
「俺は自分の『巨砕躯』の手を訓練させられた。
その時に、お前と同じ『兵器躯』で生まれた
子供たちの姿を見た………。
体を変形させて物を壊す所までは上手くいく。
だが、体を過剰に変形させすぎて暴れだし
そのまま命を落とす奴がほとんどだった」
「――――ッ!!」
アキトは他人事ではない話をテッドから聞かされた。
実際に別人格のアキトは体を過剰に変形させて暴走したことがある。
命が助かったのはただの幸運に過ぎなかったのか?と
アキトは焦りの表情を浮かばせた。
「アキト……お前は自分の事を『失敗作』と言ってたな。
過剰変形の失敗は『死』だ。
ということは、お前は過剰変形以外の問題点が見つかって
処分されかけたわけだな?」
「ああ。俺ともうひとりの自分がひとつの体を共有する
二重人格の人間になったからだけど……」
「なら、お前は『兵器躯』の本当の力を知ることができる。
死んだ者達は本当の力を理解できなかったから死んだんだ」
「教えてくれ。そのために君に付いてきたんだ」
アキトは力を込めてテッドに言った
テッドはニッと笑うと立ち上がった。
「今から『巨砕躯』の手を見せる。少し離れてくれ」
「なんで そんな必要が!?」
「言葉じゃ伝えられない」
テッドの両腕の血管が浮き上がる。
次第にメキメキと音を立て始めたので
アキトはすぐにテッドから離れて
テッドの両腕が変わっていくのを見た。
テッドの両腕は 人間のものとは思えないほど
赤黒い鉄のような皮膚と質感に変わり
見た目だけで片腕 数百キロの重量はあるだろうと感じるほど
重厚さをかもしだしていた。
「何をする気なんだ、テッド!
まさか……戦うなんて事はしないよな!?」
アキトはテッドに問いかけた。
テッドはアキトの問いに答えず、両腕をズシンッと
前に出しアキトに向けた。
「言葉じゃ伝えられない…………。
お前を一度、傷付けなければならない。来てくれ、アキト」