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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆異文化バトルコミュニケーション編◆
176/228

ユエ VS サラ 3

「………何が大丈夫なんだ?樋村」


別人格のアキトはトールの言った意味がわからなかった。


「お前、今の状況わかってんのか?

武藤が攻撃したら お前にダメージがいくんだぞ。

いや………もう武藤はお前の姿になったあの女を攻撃できねえ。

この勝負に武藤の勝ちはもうない。敗けか引き分けだ」


アキトは腹立たしそうに言った。

さっさと自分の姿の時にサラを仕留めておけば

勝ちは見えていたのに、と言いたそうな顔をしていた。


トールは そんなアキトを見てフッと苦笑いをした。


「何がおかしいんだ?」


「あのね………もうなんとなくわかってたんだ。

武藤さんがこの対決に勝てない事は」


「はあッ!?お前……味方の勝負に何言ってやがんだ!!」


「武藤さんが『自分』になったサラさんの攻撃した時に………。

薄々だけどそう感じてたよ」


「ほとんど初めからじゃねぇか」


「そうだね……」


「わかんねぇな。どういう事だ?」


「武藤さんは……自分自身を傷付ける事が出来るってことは

自分を犠牲に出来る人なんだ。

本当はそんな事してもらいたくない事だけど………。

自分を犠牲に出来るって事は、自分より大切なものを

傷付ける事が出来ないって事なんだよ」


「自分より大切なもの……?」


仲間(ぼくたち)


「って、アイツ、俺の事 攻撃してたじゃねえか」


「それは桐谷君の思いを汲み取りたかったから。

応えようと頑張って攻めていたけど、やっぱり無理だったんだ。

君を攻撃して傷付ける事に抵抗して本気で攻めていなかったもの」


「バッ……バカかよ!構うことなかっのに!!

何のために入れ替わったと思ってるんだ!!」


「わかってるよ。だから応えようとしたけど出来なかった。

だからもう サラさんが僕になろうとハルマになろうと

清水さんになろうと結果は同じなんだよ」


トールは ユエの対決の序盤から

すでにユエの勝機がないことを感じていた。


「武藤さんは……気付いてたかもしれない。

けど、負けず嫌いだから立ち向かっていったんだ」


「お前……最初からわかってて黙って見てたのか」


「……………うん」


「……言ってやるべきだったんじゃないのか?

『勝ち目はないからやめろ』って悟らせてやれば

戦わせる必要なかったじゃねえか。

無駄に戦わせて辛い思いさせてたのは

俺達のせいじゃんかよ」


「………そうかもね。でも、戦う前から

『勝ち目がないからやめろ』って言われたら

君は素直に受け入れられる?」


「……………!」


「負けず嫌いの人なら尚更(なおさら)

素直にそんな言葉を受け入れられないよ。

だから言えなかったんだ………」


トールは うつむいた。


「言ってあげるべきだったのかな……」


「………チッ」


答えのないトールの思いに

アキトは やりきれなさを感じて舌打ちした。


「もういいじゃねえか。終わりにさせてやろうぜ」


「そうだね。………いいよね?ハルマ、清水さん」


トールとアキトの話を黙って聞いていたハルマとレミ。


レミは黙ってコクンと(うなず)

ハルマは「好きにしろよ」とボソっとつぶやいた。

2人の同意を得ると、トールはアキトを見て言った。


「桐谷君、協力してくれる?」




――――――――




ユエは『トール』になったサラを

どう攻めるべきか考えて立ち尽くしていた。


サラは 仕掛けてこれないユエを見て不敵に笑っていた。


「(攻撃してもいいのよ?反射能力は使わないわ。

その代わりに この人も傷付いちゃうけどね)」


サラは ユエが攻撃できないことをわかっていて

わざとらしく言った。


「(貴女が敗けを認めないなら

この人の体のまま、体に傷を付けてもいいけど)」


「(ダメよ!!やめてッ!!)」


ユエは焦って叫んだ。

サラは必死そうなユエを見てクスクスと笑う。

その時だった。


「終わりだ!2人とも!!」


トールの声に気付いたユエとサラはトールの方を見た。


トールの隣に立つアキトが

手を鋭く尖らせた状態で その手をトールの胸に突き立てていた。


「(なっ何をしているの!?)」


「樋村君!?」


「サラさん、この勝負は僕たちの敗けでいい。

今すぐ元の姿に戻ってくれないかな」


トールの言葉を 留学生側の仲間のクリフが通訳してサラに伝えた。


「もし、続行するというなら

僕の体を桐谷君に斬ってもらう。

そうすると、君の体も傷つくだろ?」


「なんで!?樋村君!!私はまだ戦えるわ!!」


「もういいよ、武藤さん。無理をしてほしくないんだ」


「無理なんて……そんなっ」


「いいんだ……辛い思いをさせてごめんね」


「…………!!」


ユエはガクンと肩の力を抜かした。

サラはトールの姿のまま固まっていたが

胸に突き立てられているアキトの(やいば)の手と

本気の顔のトールを見て、元の姿に戻った。


「(イカれてるわ、あなた達……!)」


トールの申し出を受け、対決には勝ったサラだったが

スッキリしない後味を残した感じで

屋上を去っていった。



トール達は力を抜かしたまま立ち尽くしているユエの元へ行く。


すかさずレミがユエの肩に手を触れた。


ユエは下を向いていた。

トールは左腕をまくってユエの正面に立つ。


「武藤さん、顔の傷を治すよ」


トールがそう言うと ユエは両手で顔を覆い隠して

小刻みに震え始めた。


「ごめんなさい…………(みんな)………ごめんなさい」


「ユエちゃんが謝る事じゃないわ」


レミがユエの背中を(さす)って涙を流すユエをなだめた。


「違うの………私は………また同じ事を」


「同じ事?」


「あの子が私の姿になっていた時に

さっさと攻撃して気絶させてしまえば良かったの。

勝てなくても引き分けに出来たのに……。

けど………勝ちたかったから……負けたくなかったから……」


ユエの負けず嫌いは 初めてトールと戦った時にも表れていた。


トールに追い詰められたユエは降参をせず、

無理に立ち向かい、屋上から落ちてしまうという事をしてしまった。


今回の自分の戦いも 負けず嫌いのせいで

勝ち目の薄い勝負を長引かせたうえに

勝敗に黒星をつけてしまったことを

ユエは後悔して涙を流していた。


ユエの思いを聞いたトールは

顔を覆い隠すユエの手を掴んで頬の傷を治し始める。


「ありがとう、武藤さん」


望まない戦いに立ち向かい、仲間を傷付けたくない思いと

勝負に勝ちたい思いに葛藤して戦ったユエを

誰も責める事は出来なかった。


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