Trace Rifleyker サラ・カミラ
サラは自分の能力により『ユエ』になった。
屋上の真ん中には ユエが2人いるという不思議な光景になっている。
それを見たハルマ達はサラの能力に驚くと同時に
感涙しているツカサを見て呆れた。
「ツカサ兄……サラさんの能力知ってて
わざとユエちゃんとやらせたんでしょ?」
「な、何を言ってるんだい!そんな事しないよ」
ツカサは慌てて 涙を拭いた。
「ご覧のとおり、サラの能力は自分を『鏡』にして
眼に映した人間になれる能力を持ってるんだよ」
ツカサは誤魔化すように サラの能力の説明を始めた。
「ユエの『射手座』の弓矢……
6年前に見た時よりも強くなっている。
昔は満月の夜しか出来なかったのに素晴らしい成長ぶりだよ……。
ただ、サラの能力に気づかなければ
いくら攻撃をしても全部弾かれてしまうだろう」
「ってことは、変身能力と他に別の能力があるってこと?」
「ああ」
―――――――
ユエは自分に変身したサラに警戒しながら問いかけた。
「(貴女が自分以外の誰かに変われる事はわかったわ。
でも、それが私の矢を消したのと何か関係あるのかしら?)」
「(そうね。もう一度 その弓矢を私に向ければわかるかもね)」
『ユエ』になったサラが挑発的な笑みをする。
ユエは自分自身の笑みを見て顔をしかめた。
「(………貴女がいくら『私』に化けようとも
星座の加護を受けたのは私だけよ。真似できるはずないわ)」
ユエはサラの挑発に乗った。
至近距離にも関わらず、ユエは弓矢を強く引き
間髪置かずに矢を放った。
矢はサラの手前まで来る。
至近距離から射たれたので
右手を前に出す間を与えられず、矢はサラの左肩をかすめた。
「ッ!?」
ユエの右肩に突然 痛みが走った。
見てみると右肩に何かが かすって服と皮膚を傷付けていた。
「まさか!」
ユエはすぐに サラを見た。
『ユエ』になっているサラの左肩に
自分の右肩に出来た傷と同じモノがある。
ユエは冷や汗を流し、サラを睨んだ。
サラはユエの攻撃をかすったのにも関わらず
まだ笑みを浮かべた状態でユエに言った。
「(右胸を狙わなくて良かったわね。
貴女の心臓に穴を開けてしまうもの)」
「(…………貴女は私の『鏡』なのね。
『自分』を傷付ければ自分も傷付くって事かしら)」
「(そうよ。感謝してね。最初に貴女の攻撃を『反射』しなければ
貴女は傷ついていたのよ?)」
ユエは最初に放った攻撃をサラに消された事を思い出した。
あの時、もしサラが攻撃を受けていたら自分も傷ついていた事になる。
「(私は貴女の顔が好きよ、ユエ。
ずっと貴女でいたいとさえ思うわ)」
「…………………」
ユエは サラの言葉に寒気を感じた。
『ユエ』になっているサラは
まるでナルシストのように自分を褒め称え、陶酔している。
「(だから これ以上傷をつけたくないの。わかる?
だから攻撃しないでほしいのよ)」
サラを傷付ければ自分も傷付く
サラの『鏡』による変身能力と反射能力。
これによりユエは自分の体が傷付くのを恐れて
攻撃をしてこないと思った。
「(………甘いわね。私がそんな事で怖気つくと思う?)」
「(何?)」
ユエは弓矢を構え直しサラに向けて矢を射た。
矢はサラの右頬をかすり、そこから血が出る。
するとユエの左頬からも同じ傷ができ血が出た。
「(なっ、なんてことを!自分の顔よ!?
自分の顔に傷を付けるなんて!!)」
サラは右頬を押さえて叫んだ。
ユエが自分を傷付けても構わないと判断して攻撃してきた事もだが
サラは 気に入っていたユエの顔を傷付けられ動揺した。
「(傷付くのが嫌なら元の自分に戻りなさい。
貴女が私になることに何もメリットはないのよ)」
ユエは 弓矢を引いてサラを脅した。
サラはユエの顔のまま 表情を激しく歪ませた。
「(メリットならあるわ。貴女は美しい。
誰からも見られて注目を浴びてるし
男にだってモテる……。
私は貴女になることで 皆から好かれる力を得るの)」
「(………何を言ってるの?サラ。
貴女が私になっても、そんな力は手に入らないわ。
戻らなければ射つわよ)」
ユエの威嚇に対してもサラは元に戻らなかった。
ユエは矢を放った。
サラは右手を前に出し、ユエの矢を『反射』させて弾いた。
「(せっかく手に入れたと思ったのに!)」
サラは『ユエ』のまま、悔しそうな顔をする。
「(いいわ。これ以上 貴女の顔を傷付けさせてしまうのは
私も本意じゃないからね)」
そう言うと、サラの体がパッと光って
一瞬で元の自分の姿に戻った。
「(けど、これならどうかしら?)」
サラは ツカサの方へ顔を向けた。
ツカサとサラの眼が合う。
するとサラの体が再び光り、そこには『ツカサ』が現れた。
「兄さんっ!!」
ユエは驚いて『ツカサ』になったサラを見た。
「(貴女のお兄様よ。さぁ、射てるものならやってみなさい)」
サラは『ツカサ』になり、ユエを挑発した。
先程と同様で 『ツカサ』になったサラを攻撃すれば
ツカサが傷ついてしまうことが、すぐに理解できた。
本物のツカサは 自分の胸に手を当て
嘆かわしそうな声を上げる。
「ユエ!俺が大事な兄であろうと構うことはない!
非常になるのも戦いの掟だ!
苦しいかもしれないが乗り越えるんだユエ!!」
「わかったわ」
「あぁ……………ん? エェッ!!?」
「(えッ!?)」
ユエは全くうろたえることなく弓矢を引いた。
ツカサも『ツカサ』になったサラも仰天する。
「(ちょっと!貴女の兄よ!?肉親よ!?
攻撃なんてしたらどうなるか わかってるわよね!?)」
サラの思いには目もくれずユエは矢を放った。
サラは動揺して『反射』を忘れてしまい
矢の攻撃を右肩にくらう。
同時にツカサの左肩に痛みが走り、
ツカサは いろんなショックを受けてクラクラと地面に倒れこんだ。
肉体的なダメージより精神的なダメージが目に見えてわかる。
「な………なぜだい、ユエ……」
ツカサはポロポロと涙を流す。
「(あ、貴女!兄を嫌っていたの!?愛していないの!?)」
右肩を押さえたサラが激しく動揺して叫んだ。
まさか『自分』はおろか『自分の兄』ですら攻撃できてしまうユエを
恐ろしい目で見た。
「(いいえ、愛しているわよ)」
ユエは サラの質問に普通に答える。
「(ただね、愛され過ぎるのも疲れるなって思っていたの)」
ここ最近、ツカサのユエを学校で監視する目が
ずっと痛々しいと感じていた。
次第にそれはストレスになり、ユエを苦しめていたのだ。
つまり今の攻撃はユエの『鬱憤晴らし』であった。
「(たまには非常にならないと、って
たった今 兄が教えてくれたばかりなの)」