恋の在り方
~ 学校・6時限目 ~
留学生が来てから創設された、週に1回行われる特別学級。
留学生を中心に、会話やレクリエーションなどを行い
親交を深めたり、異文化に触れ合う授業の一環。
生徒会員であるユエは これに毎回出席する。
ユエと5人の留学生の間には
『能力者』という共通点があるので
それを隠して普通に振る舞わなければならない。
ユエは気を遣いながら特別学級に参加していた。
その中でも特に気を遣っているのがクリフに対してだった。
女子生徒に人気の高いクリフだが
何かとユエに声をかけたり ジェスチャーを送ってくる。
旧校舎の屋上で対面した際、クリフはユエの手にキスをした。
あれからクリフは ユエがお気に入りになり
挨拶がわりのハグをしにきたり
遠くにいるときは投げキッスしたりと
愛情表現が凄かった。
当然、これを見ている他の女子生徒は面白くないわけであり
いろんなウワサが立ってしまう。
オマケに ユエを溺愛している兄、ツカサの監視がとても痛い。
顔はニコニコしているが、明らかに鬼が潜んでいる。
ユエは クリフの行動をなだめつつ、
変なウワサが立たないよう周りに気を配り、
ツカサにも気を遣っていた。
――――――――
あくる日の昼休み。
「はぁ…………」
ユエは 疲れたような ため息をついた。
毎日の昼休みはハルマ、トール、アキト、レミと
5人で団らんを過ごす時間。
ユエにとっては 憩いの場でもある………はずだった。
「ユエちゃん、大丈夫?」
「ええ……」
「ちょっと、トール君!ちゃんとユエちゃん守らなきゃダメでしょ!」
「ぶっ」
トールは 含んでた飲み物を吹き出してむせこんだ。
「レミ!変な事言わないでよ……そういうのは いいの」
むせこんでノドを押さえていたトールが話し出す。
「そんな事言われても……日本じゃハグする習慣ないから
されるとビックリしちゃうけど……。
クリフ君が武藤さんにハグする回数は確かに多いかも……」
「よく見てるじゃない、トール君」
「だ、誰だって見るよ!め、珍しいし……」
「ふーん?それでなんとも思わないの??」
トールは レミに睨まれ、ジリジリ攻められる。
「だんだん露骨になってきてるよな、清水のやつ」
「トールと武藤の関係が煮えきらねえのが嫌なんだろ」
ハルマとアキトはボソボソと話し、成り行き任せに傍観していたら
ユエが急に立ち上がり怒り始めた。
「やめてってば!私は普通に過ごしたいのよ!」
そう言うとユエは 輪から外れて飛び出していった。
「ユエちゃん!!」
レミは「やっちゃった」というような顔をして
慌ててユエを追いかけていった。
残されたトールとハルマとアキトは2人の背中を黙って見送る。
気まずい雰囲気が残った中、トールはハルマとアキトの顔を見た。
「………今の……僕のせい………?」
「さぁ……樋村のせいじゃないと思うけど……」
「ところで、お前 武藤の事どう思ってんだよ?」
「えっ」
トールはハルマの質問に答えを詰まらせる。
ハルマはトールの様子を見てフンッと鼻息を立てて言った。
「すぐに答えられねぇって事は気があるって事だな」
「なっ、なんでそんな事……!」
「じゃあ お前さ、ゴリ(レミ)の事はどう思ってんだよ」
「清水さん?………友達だよ」
「なんで同じ質問したのに、ゴリはすぐに『友達』って言えて
武藤はすぐに言えないんだよ。
『どう思ってんだ?』しか言ってねえだろ?
『友達』って すぐに言えなかったって事は意識してんじゃねぇか」
「……っ」
トールは顔を赤くして冷や汗をたらした。
「赤嶺、お前すごいな」
「てか、見てりゃわかるだろうが」
アキトはハルマに感心の眼差しを向けた。
トールは 黙ったまま自分の体にこもった熱が引くのを待つ。
「トールさぁ、わざと疎いフリしてんだろ?」
「……………」
「え、どういう事?」
ハルマの質問に押し黙るトール。
話がわからないアキトは ハルマの顔を見て聞いた。
「だからよ……未来を気にして
自分の気持ち言わねえようにしてんだよ。
クソ下手な芝居してまでな」
ハルマは まるでトールの代弁をするかのように話し出した。
「『妖怪を体に飼ってる人間が、人を幸せになんか出来ない』って
ところか?随分と気の早い事考えてんなぁ……トール」
「ちがっ……そーゆー事じゃ……」
「まっ、いいんじゃねえの?
武藤の奴も『普通に過ごしたい』って言ってたしな」
ハルマは ワザとらしく言って立ち上がり、去っていった。
トールは ハルマが去り際に言った言葉を気にして少しうつむく。
隣にいるアキトは 眉間にシワを寄せて頭をかしげた。
「恋愛って……難しいんだな」
「……はは、そうだね」
トールは アキトの言葉に笑顔を向けた。
アキトは無理矢理 笑っているトールを見て心配そうな顔をする。
「それでいいのか?樋村は」
「………いいんだよ」
トールは 笑顔で答えた。
その笑顔には明らかに本位ではない気持ちがこめられていた。
―――――――――
~ 放課後 ~
ハルマが先鋒、レミが次鋒と続いた留学生との対決。
今日は中堅戦となる3回目の対決の日。
残っているのは ユエとサラ、アキトとテッド、トールとクリフ。
この日も全員が集まった。
ユエとレミは 前の昼休みの出来事でケンカをしたように思えたが
いつもどおりに戻っていた。
ツカサは全員の中央に立ち
今回の対決の組を決めるタロットカードを胸ポケットから取り出した。
「さて…………誰のカードかな……………………嗚呼!!」
ツカサはカードを見た途端、クラクラッと倒れこんだ。
ツカサの手から落ちたカードが表向きになり、全員に見える。
髪の長い女性が月を見上げて眺めている絵。
ハルマ達はその絵を見るなり
すぐに誰を現すカードかわかった。
「武藤か」
「ユエちゃんね」
「いちいちオーバーリアクションなんだよ、ツカサ」
ツカサは ユエを現す『月』のタロットカードを見ただけで
よろめいて倒れた。
ユエは そんな兄を見て
深いため息をついて屋上の真ん中へと歩いていった。