◆小休止◆日曜日の朝にやるアレ的な……
レミのバトルが来る前のアキトのお話です。
旧校舎の裏にひっそりとたたずむ小さな箱庭。
様々な花と植物が咲きほこり、彩り鮮やかになっていた。
この箱庭の存在を知っているのは
ハルマ、トール、アキト、レミ、ユエと
箱庭の主人で 3年生になった若林モモの6人。
モモとの出会いは昨年の夏の終わり。
アキトが部活中にモモの花壇を見付けた時から始まった。
モモの花壇を気に入ったアキトが密かにモモと交流をしていた。
その時、モモはまだ能力者ではなかった。
だが、モモの花壇が壊される事件が起き
そこでモモはショックから能力者へと目覚めてしまう。
それからしばらくは薄野ソウタが
モモの能力のコントロールを教え、
普段の生活に支障が出ないようにさせていた。
箱庭は旧校舎の使われなくなった
花壇を利用して立て直し、モモは学校のある日は
ほぼ毎日 箱庭に通って植物の世話をしている。
アキトは部活や委員会がなければモモの手伝いに来ていた。
―――――――
「い、い、良い天気ですねー」
「そうですねー」
春の暖かな陽気の中、ほのぼのと会話をするモモとアキト。
「み、みんなも、気持ちいいっていってますー」
「そうなんですねー」
ここで言う モモの「みんな」とは植物たちの事である。
モモは能力者になってから植物の気持ちを読み取れるようになった。
「と、とと、ところで桐谷さん……
な、なぜ火曜日は旧校舎に来ては行けないのですか?」
モモは アキトに尋ねた。
アキトは この間のハルマとパウロの対決の際、
モモの事を心配して花壇から連れ出していた。
その時に「火曜日の放課後は旧校舎に来ては行けない」と
言ったきりで詳しい説明をしていなかった。
「あ、えーと……それはですね……」
モモの性格上、バトル倶楽部の事は内緒にしたいアキトは
なんとかして それらしい理由を考えた。
考えた結果、アキトが話したのはこれだった。
「先輩………実は この旧校舎には
火曜日になるとお化けが出るんです」
かなりの苦し紛れだった。
言ったアキト自身すら顔をひきつらせている。
「ひっ!!」
モモは なんの疑いもなくアキトの話を信じて
お化けの存在を怖がった。
「偶然、この間見てしまったんです……。
だから火曜日だけは近づいたらダメなんです」
ウソを言ってモモを怖がらせるという罪悪感を持ちながら
アキトは言い切った。
純粋なモモなら この話を信じて火曜日だけは
旧校舎に来ないだろうと思った。
「こ、怖いです………そそそういえばこの間も
建物の中から変な音がしてましたぁ」
モモが聞いた変な音とは ハルマとパウロが旧校舎内で
バトルをしていた時の音である。
「きき、桐谷さんは お化けと戦ってるんですか……?」
「えっ!?……あ、えーと?」
「みんな言ってます……き、桐谷さんが
変身して何かと戦っている姿を見たことがあるって………」
「!!!?」
アキトはビックリした。
モモの箱庭の植物達がアキトの正体を知っていることに。
ただ、植物達がハッキリと二重人格の事やバトル倶楽部の事を
説明してないのを感じる限り、
人並みの知能はないのだろうと思った。
そこが救いだった。
アキトは ハッと思い出す。
以前、もうひとりのアキトが
モモに会いたいから、という事で
作戦を立てて会わせた事があったが、それは この花壇の中で行っていた。
モモにはバレなかったが
植物達はしっかり見ていたのである。
かなりの盲点だった。
それが、今のアキトの苦し紛れのウソ話と混ざってしまい
モモは アキトが「火曜日に出るお化けと戦っている」と
解釈していた。
「えーとですね…………それは………」
「か、か、かっこいいですー」
「えっ」
モモの目がキラキラしていた。
「せ、せ、戦隊ヒーロー……好きなんですー。
も、もももしかしてトールさん達もですかぁ?」
「え、え、あ、はい」
「うわあーー!!」
アキトはモモのキラキラした目に流されて「はい」と言ってしまった。
「ほ、ほほ本当にあったんですねー!!
戦隊のお名前はなんて言うんですかぁー?」
――――――――――
「『放課後戦隊バトレンジャー』………………?」
「……………あぁ」
アキトは 両手で顔を隠した。
「……………桐谷君、頑張ったね」
「なんも言わないでくれ………」
アキトは恥ずかしさのあまり、顔を隠していたが
耳が真っ赤になっていた。
こうして、モモは火曜日だけ旧校舎に来なくなったが
アキトに会うたびに、放課後戦隊バトレンジャーの話を
聞いてくるので、アキトは毎回 頭を悩ませる事になっていた。