星座使い(アストロマスター)・武藤 ユエ
「バレてるって どーゆー事!?」
「………」
トールは焦った。
今まで内緒にしていた この活動が
その女子生徒に バレていた事に。
ハルマは目線が泳いでいた。
「桐谷の……名前は出てこなかった……
でもオレと トールはバレてる……
ここの事も………」
「嘘でしょ…そんな…なんで!?」
「何者だ その女子」
「それで…言われたんだ…
黙っててやるから 私に近付くなって…」
ハルマの顔はまだ青ざめたままで
トールは冷や汗をかいた。
アキトは眉間にシワを寄せている。
「その人 まだいる!?」
「わかんねぇ…いるとしたら図書室」
トールは屋上の出入り口に向かって
走り出した。
「おい、樋村 まさか行くのか?」
「確かめなきゃ!
どーやって僕達の事を知ったのか!!」
「でも、関わらなきゃバラさないって
言ってんだろ?
下手に刺激しない方がいいよ」
「そうかもしれないけど…
やっぱり話を聞きたいから」
そう言ってトールは
アキトとハルマを屋上に残して新校舎へ戻った。
駆け足で図書室へと向かう。
ちょうど図書室の出入り口に差し掛かった所で
一人の女子生徒と すれ違った。
真っ直ぐなストレートヘアが揺れる。
トールは気づいて足を止め
すれ違った女子生徒の方へ振り返った。
女子生徒も足を止めている。
だが振り返らずトールに背後を見せたままだ。
「あの…武藤さん…だよね?」
「………私に近寄らないよう言ったはずです」
決然とした態度で武藤ユエが答えた。
「…どうして僕達の事を知ってるの?」
「……」
「いつから気づいてたの?」
「……」
「僕や…ハルマの能力も知ってるの?」
「……」
トールの質問に 武藤ユエは答えない。
ようやく振り返ってトールと顔を合わせた。
少しつり目の目元が 怒っているかの
様に見える。
その目でトールを見据えた。
トールは少したじろいだが
武藤ユエの目を真っ直ぐ見た。
「………あなたは水星」
「…?」
「見方次第で 吉星にも凶星にもなる」
武藤ユエが突然 不思議な語りを始めた。
「その傍らに冥王星……あの男よ
………恐ろしい凶星。
…近くに土星もいるわね…誰かしら」
「あの…よくわからないんだけど…」
「あなたたちが 何をしてるかは 知らない。
でも 逸脱してる……
私はあなたたちが怖いの。それだけよ」
武藤ユエは ひとしきり話すと
トールに背を向けて歩きだした。
「まっ 待って!」
「凶星たちの宴に 私は行けない」
「僕達がやってる事は
……その……確かに…普通じゃないよ!でも!!」
トールの言葉尻の力強さに
何かを感じた 武藤ユエは足を止めた。
「……僕らの力は そこでしか生きていけないから」
トールは 武藤ユエに自分達の存在を
否定されたような気がして
思わず反発してしまった。
アキトの言う通り
このまま ほうっておけばいいことではあったが
自分達が普通の人間じゃないことを
知っていながら ただ一言『怖い』だけで
片付けられたくないと思った。
だって、武藤ユエだって自分達と同じなのに。
「……失言…だったようね。ごめんなさい」
「…いや…ごめん…熱くなっちゃって」
「………次の満月の夜」
「…?」
「その夜で良ければお相手いたします」
「えっ!!?」
武藤ユエの突然の参加意志に
トールは驚いた。
「満月の夜が一番 私の力が発揮できるので」
そう言って武藤ユエは 立ち去っていった。
トールは 武藤ユエを
勧誘しに来たわけではなく
ただ、自分達の存在をどうやって
知ったのか話を聞きに来ただけなのに
結果的に勧誘する形になって
ただただ驚愕して呆然としてしまった。
「えっ…満月の…夜??」
まさか放課後以外に
なるとは思いもしなかった。