レミ VS メイ 2 ~ レミ、絶叫する~
「兄さん、レミが虫を苦手なの知ってたでしょ?
それなのに、わざとメイさんと当てたの?」
ユエは ツカサに少し怒りをぶつけるように言った。
「い、いや、知ってたとも……!
でも、あそこまで嫌だったとは……」
ツカサはユエに攻められて たじろいだ。
「レミは 病気の症状が落ち着かない時に
石の代わりに土とかを食べてた時があったのよ。
その時に 土に混ざってた虫をうっかり食べちゃって……それで……」
レミは精神面での病気により
『石』を食べないといけない症状におかされていた。
『石』で抑えられない時は
隠れて土や砂を食べるという過去があった。
その時に誤って虫を食べてしまった事があり
虫への苦手意識がより一層強まってしまった。
この時、ツカサはすでに実家から離れ消息を絶っていたので
レミの虫嫌いの進行が強くなってた事を知らなかった。
「中断しましょうよ、あれじゃレミが不利すぎるわ」
ユエは ツカサの腕を引っ張って
この対決の一時中断を訴えた。
ツカサは ユエの懇願に気持ちを揺らがせたが
目をキュッとさせて厳しい顔をした。
「それじゃ駄目なんだ、ユエ。
戦いというのは自分の思う通りにいかないものなんだ。
もし、本当の敵にメイと同じ様な『虫使い』がいたらどうする?
仲間が近くにいれば仲間に助けを求めればいいかもしれないが
独りの時はどうしたらいい?戦うしかないんだよ」
ツカサは ハルマやトール達の5人には
より実践的な方法で戦ってほしいと思っていた。
「け、けど、レミが可哀想よ……!」
「耐えてくれ、ユエ……!レミちゃんのためなんだ」
―――――――――――
「もうイヤァーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!」
ツカサがユエを説得している間に
レミとメイは 屋上を飛び出し
旧校舎の中で対決を繰り広げていた。
が、レミは逃げる一方で
ただの鬼ごっこになっている状態だった。
「蜘蛛」を食べたメイは 口から蜘蛛の糸を吐き出し
レミに当てて レミの動きを捕らえようとしていたが
レミは 混乱しながらもメイの糸に素早く気付いて
避けながら逃げていた。
旧校舎の3階の廊下は メイの吐き出した
蜘蛛の糸だらけになり通り道がなくなっていた。
レミは2階に降りると 少し広い教室の中に慌てて入って身を隠した。
逃げ回って走り続けたため
息を切らせ、汗だくになっていた。
「このままじゃダメだわッ………でも、あんなの無理よぉ!」
レミはカタカタ震えながら
虫への嫌悪感を拭いとろうとしていたが、やはりダメなのに気付く。
頭では理解しているが
体と心が思うように動いてくれない。
「な、なんでよ………なんであたしは心ばっかり弱いのよ………」
レミは 天性の格闘センスを持ち、体力に自信はあるが
目の前に現れた大嫌いな虫に立ち向かえず葛藤していた。
降参するのは簡単だが
自分だけの戦いではなかった。
あっさり敗けを認めれば、仲間に迷惑をかけてしまう。
それに、これが実際に起こりうる戦いならば
「敗け」とは「死」に直結する。
レミは ツカサが5人に与えている意図をしっかり理解していた。
だからこそ敗けたくないのだが
大嫌いな「虫」の使い手に背を向けて逃げ続けてしまう自分を
レミは情けなく思い、震える体を必死で抑えていた。
メイの気配がない。
どうやら、自分を探して 遠くへ行ったらしい。
だが、それも時間の問題だった。
いずれ見つかってしまう。
今のうちになんとかできる方法を見つけようと
レミはポーチの口をガバっと開いた。
「虫に対抗できる石………何かないかしら」
メイの気配に注意しながら
レミはポーチの中を探り始めた。
―――――――――
「うわっ、なんだコレ!」
観戦側のハルマ達とツカサは
レミとメイの後を追っていこうと屋上を出たら
屋上から階下に繋がる通路が蜘蛛の巣だらけになっていた。
メイが レミを捕まえるために吐き出した蜘蛛の糸が
あちこちに引っ掛かっていて通路を塞いでいた。
「これじゃ通れねぇじゃんか」
ハルマは 文句を言いながら
手に赤色の電気をまとわせて糸を焼き切った。
だが、広域に糸が掛かっているため
ハルマの電気だけでは対処ができない。
「電気球 投げりゃ あんな糸カンタンに消せるんだけど
階段壊しちまうからダメだな……。
あ、おい、桐谷。アイツに入れ替わって この糸斬れよ」
「……『後でお前を斬らせてくれるなら出てきてやってもいい』
だってさ」
「ふざけんなバカ野郎!返り討ちにしてやるよ!!」
「ちょっと、ケンカしないでよ……しょうがないな………」
トールは ハルマをなだめた後、
張り巡らされた蜘蛛の巣の状態を確認して
左手の袖をまくった。
「加減できるかな……」
トールが左手の封印札をほどこうとした時だった。
「ボクにマカセテくだサイ!」
「え?」
トールの後ろから クリフが胸を張って全員の前に出てきた。
「アブナイので少ーし下がってテ」
クリフの言う通りに 全員が後ろに下がると
クリフは右手を口に当てた。
そのまま目を閉じて再び目を開けると
クリフの瞳が真っ赤に輝き始めた。
口を抑えていた右手を放すと
クリフの吐息と共に 張り巡らされていた蜘蛛の糸が
ジュワッと溶けて消えていった。
その光景を見ていたハルマやトール達は驚いていた。
「今の……それがクリフ君の能力?」
「Yes!デモ、まだナイショのことたくさんデス。
今はナイショ デス!」
クリフは トールにニッコリ笑いかけた。
糸がなくなり、通路が出来ると
全員はレミとメイの跡を追って走り出した。
――――――――
「あったーッ!!これならイケるかも!!」
レミは ポーチから 『虫』に対抗できる石を見つけて思わず叫んだ。
「あっ、やば……」
慌てて口を塞いだが遅かった。
メイの足音が近付いてきた。
足音と一緒にブゥーンと 空気を鈍く響かせる音までする。
レミの隠れていた教室の扉が
一気に吹き飛ばされ、レミはメイに見つかった。
メイは大量の「蜂」を従え、メイの背中やお尻からも
蜂 特有の羽や針が生えていた。
「ギャアーーーーーーーーーーーーーーーーッッ!!!」
レミは自分が女であることを
忘れてしまうくらい大きなダミ声を上げて叫んだ。