初対面
次の日の朝、ユエは浮かない顔をしていた。
一緒に登校中のレミがユエの機嫌を伺いながら話しかけた。
「ユエちゃん、まだ気にしてるの?
バトルの事ならハルマんにやらせなよ」
「ちがうわ。それはいいの。
昨日、兄さん 家には帰ってこなかったのよ」
「え?なんで!?」
昨日の昼休みに、6年ぶりの再会を果たしたツカサは
しばらく日本にいると言っていたが実家には姿を現さなかった。
「どこにいるのかしら……」
「伊丹村先生のとこじゃない?」
「…………………」
ユエは 変な想像をした。
「やだ、ユエちゃん、そーゆー意味で言ったんじゃないよ」
「そういえば兄さん、伊丹村先生の事を
『さっちゃん』って言ってたわよね」
「あ…………そういえば」
「やっぱり そういう関係なのかしら……………
どうしよう、レミ。あの人が私のお義姉さんになったら………」
「ユ、ユエちゃん、想像いきすぎ。落ち着いて」
ユエが 変な想像を膨らませてしまい
レミはユエをなだめようとする。
その足取りのまま学校へ着き校舎へ入ると
2学年の職員室の前に女子生徒達が
キャーキャーと黄色い声を上げて群がっていた。
ユエとレミは顔をしかめる。
「何かしら?」
「クリフ君じゃない?昨日も女子からの人気すごかったしさ」
アメリカ人の留学生の1人、クリフォード・ローヤーは
モデル並みの美貌を持つ美少年で
女子生徒からの人気を集めていた。
「でも、職員室よ?クリフ君がいるなんて………」
ユエが 言いかけた時に
前からトールとアキトが歩いてきた。
ユエとレミは2人に気付いて合流する。
「なんか新任の先生がいるんだけど、めっちゃ格好いいぞ」
背の高いアキトは群がる女子生徒の山をもろともせず
職員室の中の様子を見てから2人の所へ来た。
「それであんなに……」
「イケメンのアッキーが言うくらいだから相当カッコいいのね!
どんな人だった?」
「なんかテレビとか雑誌とかに出てそうな。
顔は……………あっ、目元が武藤にそっくりだった」
「へぇー!ユエちゃんに目元がそっくりなんだ!ユエちゃんに………」
「………………………」
「………………今………なんて?」
「だから目元が武藤に似てるって」
アキトの言葉を聞いた途端、ユエとレミは
職員室に向かって走り出した。
群がる女子生徒達の間から職員室を覗こうと必死になる。
小柄なユエの代わりに 長身のレミが職員室の中の様子をとらえた。
「ツカサ兄だッ!」
「えっ!?」
「ウソだろ」
濃紫色のスーツをピシッと着こなしたスレンダーな男性。
髪は艶やかに輝き、清潔感に溢れていて
背景にキラキラな星を背負っているようなオーラさえ見える。
ややつり目の二重まぶたの瞳は ユエに瓜二つ。
間違いなく 武藤ツカサだった。
「マジかよ!昨日のあの姿からアレはないだろッ」
アキトは ビックリしていた。
昨日トールとアキトと初見したツカサは
ボロボロの服に ボサボサの髪に 無精髭と
どこから見ても浮浪者だった。
それが一変しての姿をしているので
アキトは信じられない、という顔をしている。
「あれがホントのツカサ兄なのよ!
ほら、言った通り めっちゃイケメンでしょ?」
長身コンビのアキトとレミがツカサを眺めている側で
トールはユエに話しかけた。
「武藤さんのお兄さん、この学校の先生になるって知ってたの?」
「知らないわ。なんで教員に……」
「………留学生を連れてきたからじゃないかな」
「に、兄さん………」
ユエは ひさびさに会ったツカサの行動が読めなくて
不安と心配と戸惑いを同時に抱いた。
――――――――
その日の放課後。
旧校舎の屋上にハルマ達5人は
ツカサに呼び出されて集まった。
「おーおー、いいのかよ 先生サマが立入禁止の屋上なんかに
入ったりしてよ」
ハルマが意地悪っぽくツカサをなじる。
「ふふっ、どうだい?ユエ。
新調してもらったスーツなんだよ」
「聞けやコラッ!!」
「兄さん……まさか留学生の人達の面倒を見るために?」
「そうだよ。もうすぐみんな来るはずなんだけど………」
ちょうどその時、屋上の扉が開き
5人の留学生達がやってきた。
「ハーイ、ツカサ!」
5人の先頭を切って挨拶をしてきたのは
クリフォード・ローヤーだった。
「Oh?」
クリフは ハルマ達5人を見ると不思議そうな顔をした。
クリフは 近くにいたトールと目が合い 手を伸ばして握手をした。
「初めマシテ!」
「えーと…………初めまして」
ニコニコ笑うクリフ達に
やや戸惑いの顔を浮かべるトール。
これから何が行われるのか。
果たして5人の留学生達は知っているのだろうか。