留学生の詳細
その日の放課後、
5人は 2年A組の教室に集まった。
他に生徒の姿はないが なるべく『能力』の事については
口にしないよう注意して ユエの机を囲んだ。
ユエは 生徒会が発行している広報紙の最新版を
全員に見えるように広げた。
交換留学生の5人の顔写真と名前が載っている。
「この子が壇上でスピーチしたクリフ君。
日本の文化に興味があって一番日本語が上手よ」
留学生を代表して挨拶をしたアメリカ人の1人、
クリフォード・ローヤーは レミ曰く
トールに似ていると言うが、どことなく雰囲気は似ていた。
「それからサラ・カミラさんと テッド・フォスカー君。
2人とも 簡単な日本語なら 話せるくらいね。
クリフ君が通訳してくれてるの」
ブロンドのミディアムヘアーに ややグレーの入った緑色の瞳の
アメリカから来た女の子の留学生、サラ・カミラは
全体的に顔のパーツが小さく、アメリカ人特有の堀の深い顔ではなく
印象に残りにくい、薄い顔立ちをしている。
反対に3人目のアメリカ人留学生、テッド・フォスカーは
ガタイが良く、茶髪でアメリカ人特有の堀の深い顔している。
「ブラジル出身のパウロ・アミーニア君と
中国出身のメイ・シンツーさん」
茶褐色の肌色にドレッドヘアーのパウロ・アミーニアは
歯を見せてニカッと笑っている写真だった。
陽気そうな性格なのが見て取れる。
逆に白肌に、黒くて長めの髪をポニーテールにしているメイ・シンツーは
淑やかに微笑んでいる。
生徒会の広報紙を広げて見て思ったのは
昨年の1学年の時に 元・生徒会だった薄野ソウタ達を
能力者だと知って 名前と顔を確認するために
同じ様な事をした、ということ。
またもや繰り返されるかもしれない
5対5の対決にハルマはウキウキしている。
だがユエは おもしろくなさそうな顔をしている。
明らかに不機嫌だった。
「私は戦いたくないわ。初めての生徒会の仕事で
留学生との交流を任せられているのに……」
「じゃあハルマんが代わりに戦ったら?」
「お、いいのか?やりぃ!」
「好きにして」
ユエは ため息をついた。
「でも、あくまでハルマとの顔合わせだから
僕らは関係ないよね?」
「武藤のお兄さんが どこまで話をしてるかがわからないな。
『スクリーマー』の事はまだ内緒にしてるかもしれないし……」
留学生の5人は ユエの兄・ツカサのスカウトで
日本への留学を決めて来日していた。
その際、ツカサは5人にどう説明したのかが不確かだった。
『スクリーマー』の事は言わずにいるかもしれない。
だが、ハルマの事は話しているらしい。
だが、それもハルマのような能力者が「日本にもいる」と
言っただけで、実際にハルマの事はまだ知らないかもしれない。
「…………ってこともあるから
俺たちが でしゃばる事じゃないかもしれないしな」
「そうだね。じゃあハルマに全部任せようよ」
「えッ!全員オレが相手していいの!?よっしゃあーー!…………って
ちょっと待て。またオレだけ独りじゃねーか!!」
「独りって………何が?」
「クラスも昼休みもバトルも みんなオレを独りにしやがって!!
さみしーだろコラッ!!」
「僕らは別に戦いたいわけじゃないもの」
「きっ桐谷、アイツ出せ!!アイツなら戦いたいって言うだろ!?」
「『お前の呼び出しには応えねぇ』って言ってる」
「何でだよチクショーッ!!」
ハルマは何もかも仲間外れにされてる気分になり大声で嘆いた。
「憐れな男ね」
ユエは ハルマを憐れんだ目で見ると広報紙をたたんだ。
「仮にも………戦う事になるなら
貴方は『日本代表』の能力者になるのよ?
そんな情けない態度を取らないでちょうだい」
「んだとコラッ!このオカルト女!!」
「本当に野蛮な人」
ユエは 机にかけていたバッグを手に取り
ハルマに背を向けて教室から出ていこうと歩き出した。
「ユ、ユエちゃん待って!」
レミが慌ててユエの後を追って行く。
一瞬だけ教室に残る3人に手を振って
レミも教室を出ていった。
「チッ!どいつもこいつも腰抜けだな!!
オレが『日本代表』になって外人ども全員ぶっ倒してやる!」
ハルマは独りでいきり立つ。
アキトは手でアゴを支えて思った事を口にした。
「…………武藤って負けず嫌いだよな。
戦いたくはなくても負けは許さないって感じがした」
「う、うん……そうだね」
「なんだかんだで遠回しに応援してるんじゃないか?武藤のやつ」
「………………けっ」
ハルマは 聞こえなかったフリをして そっぽを向いた。
国境を超えた異能力バトルが始まる。