『危険』を掲げる組織
トールは伊丹村サキのいる病院へ訪れた。
サキに『処分の仕方』を提示するように言われてから
2週間が経っていた。
サキの部屋で 2人きりになり
サキはトールの顔を鋭い目付きで見る。
「考えてきたんだな。言ってみろ」
トールはこの2週間、自信を無くして
悩んだり落ち込んだりしたが
ハルマの言葉を聞いて、気を持ち直した。
そして自分の能力の欠点を見つけて
ある方法を思い付いた。
「もし、僕がこの間のように妖怪を暴れさせてしまったら………
この両腕の封印札を全部剥がしてください」
「……それは妖怪の力を全て解放するという事か?」
「そうです」
「馬鹿を言うな。そんな事したら余計に被害が出るじゃないか!」
「いえ、出ません。僕の体で留まります」
「……!?詳しく説明しろ」
「僕の体にいる妖怪は、僕の体を乗っ取ろうとしています。
この間は『白虎』だけを解放させた状態だったので
『白虎』が単体で暴れましたが
他の妖怪も解放させれば僕の体の『取り合い』を始めます。
だから周りにいる人達を襲う前に
妖怪達が僕の体を巡って争いを始めるんです。
その隙に僕の首を斬るなり何なりしてください。
僕が死ねば、妖怪達も死にます」
「………………」
サキはトールの話を聞いて黙りこんだ。
その間でもトールから目を離さなかった。
「それは憶測なんじゃないのか?
実際に妖怪を全部解放させたことはあるのか?」
「もともと解放状態で僕は産まれてきました。
話によれば、その時から僕の体に自由はなかったから
それで思い付いたんです。
単体で解放するよりも、全て解放させれば
僕は身動きが取れなくなる、って」
「…………なるほどな」
サキは 納得したような顔付きに変わった。
「わかった。もし、この間のような事が起きたら
お前の両腕の封印札を取ろう」
「……………お願いします」
「しかし、不思議だな」
「何がですか?」
「強大な力を解き放つ方が被害が出ないというのがな。
不思議だと思わないか?」
「……………そうですね」
トールは 少し うつむく。
「封印して自由を得た僕は周りにとって『危険』だと
いうことがわかりました。
この組織の名前にピッタリの人間だと思いますよ」
「――――――」
トールは 皮肉で言ったつもりはなかったが
思わず出てしまった言葉を自分で聞いて
自嘲気味に笑った。
サキはトールの自嘲に 少し間をおいて
それから話し出した。
「確かに『スクリーマー』には『注意・危険』の意味がある。
だが、組織の名は我々の行動理念や思想ではない。
そこだけは勘違いするな」
「………なんで『スクリーマー』と名付けたんですか?」
「お前には関係ない」
サキはトールに背を向けた。
「お前の処分の仕方は受け取った。話は終わりだ」
直接言われなかったが「出ていけ」という圧力を感じて
トールは サキに一礼して部屋を出ていった。
――――――――
その日の夕方頃。
サキは自室で携帯電話を片手に
電話の相手と会話をする。
『そんな事言われたんだ、さっちゃん』
「ああ、返答に困ったよ。変わった奴らだ。
まぁ、アイツの友達になるくらいだから
そもそもが変わってるんだな」
『ふふっ、面白い事言うね』
「お前の妹もだがな」
『え?』
「お前の妹もアイツと友達だぞ」
『え、え?待って、それ初耳』
「そりゃそうだ。ちっとも連絡をよこさんから
今 初めて言ったんだ」
『ちょ、そ、それじゃユエは………!?』
「仲間に入れた」
『えーーーーーーッ!!!
ちょっと待ってよ!!なんで勝手に』
「勝手ではない。偶然だ」
『う、嘘だぁーーッ!!』
「うるさいな、仕方ないだろう」
『今からそっち帰る!!――――ブツッ』
「………………忙しい奴だ」
サキは携帯の画面に手を触れた。
待受の画面には学生服を着た男女5人が
カメラに向かって笑っている写真。
その内の一人はサキ本人。
サキの隣には電話の相手 武藤ツカサ。
武藤ツカサの後ろから
ひょっこり顔を出してピースをしているのは葉山アツシ。
残りの2人は………
サキは その2人の顔を見て
画面の電源を切った。