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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆見えない敵 編◆
151/228

果ての選び方

2月の初旬。

まだ寒さの厳しい寒空の放課後。


トールは旧校舎の屋上から外の景色を眺めていた。


その隣にはハルマが 寒さに(こら)える険しい顔をしながら

柵にもたれかかっている。


「なんだよ、話って」


ハルマは トールに呼び出されて屋上に来ていた。

バトルなら喜んで張り切るのだが

ただ話を聞くために呼び出されたので退屈そうな顔をして言った。


「ハルマって命 狙われてるんだよね?」


「………なんだよ突然」


「ハルマが死んだらどうなるのかな」


「い、いや知らねーし!勝手に殺すな!!

……………どうしたんだよ、お前」


いつもと様子の違うトールに

ハルマは顔をしかめた。


伊丹村(いたむら)先生に僕の処分の仕方を

自分で考えろって言われてるんだ」


「ああ、それか……。

なんだよ、この前の事まだ気にしてんのか?」


トールは『白虎』の暴走でハルマの頭に怪我を負わせた。

ハルマは特に気にせず いつもどおりの態度だったが

トールは深く悩んでいた。


「『死んでも止めろ』って、お前が言ったろ?」


「あの時は冗談で言ったのに……。

本当になっちゃうなんて思ってなかったよ」


「いや、だからオレ死んでねーし」


「どうしたら、そうすぐに覚悟を決めて動けるの?」


「は?」


「桐谷君も自分が死んでもいい覚悟をすぐに決めてた。

僕には………………………できない」


アキトは自分が誤って暴走した時

サキに 自分の息の根を止めさせる方法と覚悟を

すぐに言うことができていた。


「ハルマが命を狙われる前に

自分が殺されるかもしれないなんてさ。

しかも敵じゃなくて味方にだよ。

自分の殺され方を自分で考えるなんて…………わかんないよ。

そんな世界なの?ハルマが過ごしてきた世界って」


トールは 胸の内をハルマにぶつけた。

以前、ハルマには自分の不安を知られたくないと思い

アキトに胸の内を吐いていた。


だが、今回の出来事でトールは自信を無くしていた。


ハルマを守って死ぬどころか

自分が味方に殺されてしまう場面があるなんて。

能力者の生きていく世界がこんなにも過酷なものなのか。


トールは外の景色を見るのをやめて

地面に目線を向けていた。

ハルマはしばらく黙ってトールへの答えを頭の中で探した。


沈黙が続く。

二人の吐く白い息が風に乗ってすぐ消える。

重たい空気の中、ハルマが口を開いた。


「少なくとも、オレは死ぬなら味方の手がいいから」


「…………?」


「それが例えば お前の暴走を止めるために

命を投げ出すことになるなら

敵に奪われるよりマシだからな」


トールは地面からハルマに目線を移した。


「桐谷も同じ事思ったんじゃねーか?

オレはお前ほどアイツと仲良いわけじゃないけど

アイツの考えてる事はなんとなくわかる気がする」


「どうして?」


「オレも桐谷も家族がいないから。自分のルーツがないんだよ。

ずっと迷子みたいなもんでよ、生きてても死んでても

どっちでもいいって感じになるっていうのかな」


「そんな事言うなよ!それに僕だって家族は……」


「お前は一緒に暮らしてないだけだろ?

存在してるのと してないのとじゃ全然違うんだぜ」


「……………」


「だからオレも桐谷もいつ、どこで自分が死んでもいいって

感覚で過ごしてきたんだ。けど、仲間が出来た。

それも生死を共にするような仲間とな。

そこでもし、『死に方』を選ぶなら

敵にやられるか味方にやられるか、って考えたら

味方が良いに決まってる。それだけのこった」


トールは ハルマの話を聞いて理解しがたい顔をしていた。

ハルマが軽くため息をつく。


「オレと桐谷が特殊なだけだ。

普通は自分の殺され方なんか、すぐに答えられねえって」


「でも、伊丹村(いたむら)先生に言わなきゃ……。

言わないと僕はハルマについていけなくなる………」


トールは また下をうつむくと

ハルマは 今度はしっかりとため息をついた。


「お前はクソ真面目だな。んなもんテキトーに言っとけ」


「できないよ!そんな事!!」


「あの女が本気で仲間を殺すわけねーだろ」


「え!?」


「そーやって悩ませて覚悟決めさせて

暴走させないための答えを自分で見つけさせてんだよ。

それが、桐谷が本気で即答したから

あの女も一本取られたって笑ってやがった」


「なんで桐谷君の話を……」


「そりゃ あの女から聞いたから。

とりあえず、あの女が納得する答え方をしておけよ」


「………な、なんか余計難しいんだけど」


「お前の能力(チカラ)の弱点を言っとけばいいんじゃねえ?」


「弱点………」


トールは 自分の能力(チカラ)の弱点を考え始めた。

だが、今まで考えた事がなかったのですぐに思い付かなかった。


「うっ、さみぃ。じゃ、オレもう帰るから」


「え、あ、……………ハルマ!」


「んだよ」


「………ありがとう」


「おう」


ハルマは トールに背を向けて屋上から出ていこうと歩き出した。

屋上の出入り口の所まで来て、立ち止まると

ハルマはトールの方へ振り向いた。


「どうせ死ぬなら味方の手が良いけど

さらに言うなら お前の手で死にてえな」


「……!? ば、馬鹿じゃないの。

そんな事……………させるかよ」


「じゃあオレもお前は死なせねえ」


「!」


ハルマは ニヤッと笑って屋上から出ていった。


「………………………………変な奴」


トールは そう(つぶや)きながらも

その変な奴についていくと決めた

自分も変なんだと思い、知らずに はにかんでいた。

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