『スクリーマー』の意味
アツシとの対戦後、ベッドで横になっていたトールは
サキとの話の後、数時間ほどして体の感覚を取り戻して
動けるようになった。
病室を出ると近くのソファにハルマと アツシが座っている。
トールの姿を確認するなり 2人とも立ち上がった。
「大丈夫か?」
アツシが トールに駆け寄る。
「はい、大丈夫です」
「あぁ~ホントに良かったぁー」
アツシは 胸を撫で下ろした。
「俺、反省したよ………
それと、君のおかげで俺の能力の
欠点がまた見つかったからさ、君には感謝してるんだ!」
「オレがいなきゃ、死んでたもんなぁ?アツシ」
ハルマとアツシは 明るく振る舞っているが
トールは まだ気分が沈んでいた。
アツシは トールの表情を察して トールの肩に手を置いた。
「姐さんに何か言われたんだろ?
でも、姐さんが相手してくれてるって事は
気にかけられてるって事だから、そんなに落ち込むなよ」
「………!」
「態度や口調がアレだから厳しく感じるだろうけどさ」
アツシは トールに微笑むと
脱いでいたジャケットを着なおして、
自前のヘルメットを手に取った。
「そんじゃ俺 帰るわ。
あ、そうそう コレ、俺のケータイの番号とメアドだから。
困った事があったら いつでも連絡してくれよ」
アツシは トールに自分のケータイの番号とメールアドレスが
書いてある名刺を渡した。
ハルマも トールの横で その名刺を覗き込んで見る。
名刺の右下の端に『!(ビックリマーク)』の記号が描いてあった。
アツシは その記号に指をさす。
「一般的に このマークは『ビックリマーク』って呼ばれてるけど
他にもいくつか呼び方があるんだ」
「へぇ……?」
「『雨垂れ』『エクスクラメーション』『バン』
そして…………『スクリーマー』」
「え!?」
「俺らの組織の名前。ビックリしただろ。
俺らの組織の一員なら この記号が仲間の印だってわかるから」
アツシは『スクリーマー』の意味を話すと
ハルマとトールに背を向けて離れていく。
「………………あ」
トールは 何かに気付いて一歩後ろに下がった。
「えっ何だよ?」
ハルマは そのまま立ち止まっていた。
次の瞬間、ハルマの足元に突然ポッカリと穴が空いた。
ハルマは 落とし穴に見事にハマる。
「だははははッ!!」
アツシが 穴に落ちたハルマを見て爆笑した。
トールは穴の外からハルマを覗き込む。
「葉山さんから出してきた名刺の
『!』見たでしょ?『注意』しないと」
「ち………ちくしょー………」
アツシは自分の能力で最後にトールを試した。
引っ掛からなかったトールを見て笑顔を向ける。
「やっぱ君は賢いね。それじゃ、また!」
アツシはトールに手を振って去っていった。
――――――――――――
次の日。
学校の昼休みにトールはアキトと会って
昨日、病院で起きた出来事を全て話した。
葉山アツシの事や自分の能力の暴走、
そして サキに提示する『処分の仕方』について
アキトに全て打ち明けた。
「樋村まで暴走するとはな………。
完全に俺や赤嶺を抑えてくれる側だと思ってたよ」
「うん………僕も自分は大丈夫だって思ってた。
でも、それが一番危険だって伊丹村先生に怒られて……」
「それで『処分の仕方』を言い渡されたのか」
「うん………。
ねえ、桐谷君は自分の『処分の仕方』を何て言ったの?」
「殺してください、って言ったら
『それは当たり前だから具体的なやり方を言え』って言われて……」
「……具体的なやり方…………」
「それで、口を爆発してください、って言った」
「………………………………え?」
トールはアキトの答えが冗談に聞こえた。
「俺の体で変形させられないところが3つあって、
心臓と脳と舌なんだけど……
心臓や脳を狙うより舌を狙って仕止めてもらった方が確実だから」
「な、なんで爆発っ…………」
「脳や心臓は 頭蓋骨や肋骨が守っちゃうだろうから
口を空けた瞬間に爆弾でも投げ込んでもらえれば……、って感じ」
アキトの突拍子のない答え方に
トールは開いた口が塞がらなかった。
「いやぁ、なんか咄嗟に これしか思い浮かばなくてさ。
そしたら伊丹村先生も今の樋村みたいに口あけて
それから爆笑したよ」
「あの人が爆笑!?」
「だから、具体的なやり方で言わないと また怒られるぞ」
「そ………そう」
トールは アキトの会話で冷や汗をかいていた。
「自分の殺され方………か。考えた事もないよ。
…………それだけ僕らの体は危険って事なんだね………」
トールは そう呟くなり
頭に あの記号が浮かび上がってきた。
「『!(スクリーマー)』ってさ、
『注意』の他に『危険』って意味も含まれてるんだって。
それって、やっぱり自分達の事を指して名付けたのかな……」
組織の名前『スクリーマー』の由来は
『注意・危険』を表す記号から来ていたことを知ったトールは
複雑な思いになった。
敵対する組織『ウォンバッド』の話を聞かされ
敵意を抱き、危険な存在だと思っていたが
自分が入った組織の名前自体が『危険』という意味だと知る。
今更だが、トールは
『自分は普通の人間ではないんだ』という事を
深く心に刻み付けた。