3人の共通点
「共通してるもの……?」
トールはサキに
ハルマとアキトと自分に共通点があると指摘された。
サキの表情を見る限り、良いことではないのは感じ取れた。
「お前ら 3人は見境なく人を襲う事が出来る」
「!」
トールは アツシとの戦いで気を失い
『白虎』が暴れたのをサキに見せてしまった。
「冬休み中に 桐谷アキトは私の所に来て
『暴走を止める方法を手に入れたい』と言ってきた」
「え!」
「ハルマは興奮すると我を失って
自分に近付くものを全て破壊しようとする」
「……!?」
トールは ハルマが暴走する姿をしっかり見たことはないが
その片鱗なら見たことがあった。
夏休みでの薄野ソウタとの対戦で
一方的にやられたハルマが怒りで興奮して
瓦礫を粉砕したり、ソウタへの猛攻をしたり
いつもと違う様子だったのをトールは思い出した。
「桐谷アキトの体は 私の力で どうこうできる代物ではない。
器具や薬で暴走を抑えるのは不可能だ。
ハルマに至っては アイツの体質が解明できれば
対処できるかもしれんが
『血液を電気に変換する』体質など どこにも文献がない。
それに破壊衝動は体質ではなくアイツの心の問題だ」
ハルマとアキトの
自分では抑えられない力の対処法がないことに
トールは胸を締め付けれる思いをした。
「お前もだ、樋村トール」
「!!」
「今日のように封印が解かれたまま お前が気を失ったら
それを止められる方法はあるのか?」
「……………………」
トールは 黙ったまま サキの質問に答えられる方法を探した。
だが、見つからなかった。
「味方が体を張って 止めるしかないのなら
お前にハルマを守らせる事はできない」
「え!?」
サキは 表情ひとつ変えずトールに言った。
「戦闘中に気絶しないと保証できるものなんてないだろう。
ましてや仲間に危害が及ぶ能力の持ち主を
前線に出すこともできん。
今回のように暴走されたら、本来の目的を失うどころか
仲間まで失う可能性があるんだぞ」
トールは ハルマの額の怪我を思い出して心を痛めた。
今まで屋上で戦って傷つけたモノなら
自分の『青龍』の力で元に戻していた。
それに合意の上だから
対戦の後で治してあげればいい、と安直な思いだったので
命の危機に繋がるほど大げさな考え方をしていなかった。
だが、今回は違う。
ハルマは自分の身を挺して仲間とトールを守った。
これが、もし『ウォンバッド』との
戦いの最中で起きた事だったら……
トールは 深くショックを受ける。
「『大丈夫だ』と思う人間ほど信用できない人間はいない」
「………!」
「『自分に限ってそんな事はない』と
過信している人間が起こす過失ほど
怖いものなどない。
それも含めて お前はこの組織の中で1番だ」
トールは サキの信頼を損ねてしまった、と落胆した。
目をギュッと瞑り 悔しさと情けなさで
涙が出そうになる。
サキは トールの顔を見て フゥッと息をついた。
「…………覚悟を決めてこい」
「…………え?」
「組織に入れてしまった以上、脱退させられん。
お前からハルマの記憶を消そうにも
多大な労力を使うことになるから面倒だしな。
それに引き入れたのは 私だ。
私が責任を持ってお前の『処分』をする」
「しょっ…………処分!?」
「今回のような場合になった時の『処分の仕方』を
考えて私に提示しろ。
だが、提示したら私は 容赦なくそれを実行する。
だから覚悟を決めてくるんだ」
サキは トールに背を向けて部屋から出ていこうとした。
「あ、あの!……桐谷君にも同じ事を!?」
「ああ、言った」
「桐谷君は何と………」
「本人に聞け。
だが、奴は すぐその場で私に『処分の仕方』を言ってきたぞ」
「ええっ!?」
「処分されたくないから、今ごろ必死になって
暴走を抑える方法を探してることだろうな」
サキは フッと笑った。
「動けるようになったら そのまま帰れ。
『処分の仕方』が決まったらまた来い」
サキは トールのいる病室から出ていった。
トールは 病室の無機質な白い天井を見上げて
深いため息をついた。