まさかの暴走
△のマークの中に縦の波線が3つ。
トールは アツシにこの『記号』を見せられた。
「一応、威力は弱めるけど注意しろよー」
アツシがそう言うと『記号』の力を発動させた。
トールの足元から突然 熱気が上がる。
「ッ!!熱ッ!!」
トールは突然の熱気に怯んでアツシから離れた。
それでも まだ熱気が続く。
トールは熱の感じない所へ逃げようともがいているが意味がなかった。
ヒリヒリと肌を刺す熱がトールを襲い続ける。
ハルマが トールのうろたえる姿を見て
心配そうな顔をした。
サキは トールの苦戦する姿を見ても動じない。
「アツシ!お前、トールに何したんだよ!!」
ハルマが叫ぶ。
「『高温注意』の記号を使ったんだよ」
トールは熱さに体をやられて
冷静になれずジタバタ動き回っている。
アツシはトールの様子を見て
単語帳をめくり、動き回るトールを捕まえて
目の前に最後の『記号』を見せた。
「はい、『終止符』」
熱がるトールの目に『.』が入る。
するとトールの頭を見えない弾のようなモノが
パンッと撃ち当り トールはそのまま気絶してしまった。
アツシはトールの体から手を離すと
トールは そのまま地面に力なく倒れた。
トールが敗けた姿を見てハルマが叫んだ。
「てめぇ!やりすぎだろコラッ!」
「何言ってんだ、やらなきゃやられる世界にいる奴の
セリフじゃねーぞ」
アツシとハルマが もめ出す。
サキは倒れたままのトールを見て
何か おかしい事に気付いた。
「ハルマ、あれはなんだ?」
「え?」
サキはトールの右腕を指さして
ハルマがそれを見た。
トールの右腕がビクビクと小刻みに震えている。
ハルマがそれに気付いた瞬間
再びアツシに向かって叫んだ。
「右腕の封印をしろ!!」
「封印?」
アツシは なんの事かわからずトールを見た。
するとトールは気絶しているはずなのに
右手の爪が床をガリガリ引っ掻き始めている。
「なっ!?」
「アツシ離れろッ!!」
ハルマが叫んだ瞬間、トールの右腕が動きだし
アツシを襲い始めた。
トールは依然として気を失ったままだが
奇妙な事に右腕の『白虎』がトールの体を操っているように見える。
アツシは ペンライトで『←』や『→』の記号や
即興の『通行止め』や『立入禁止』の記号を書き
トールの『白虎』の攻撃を防ごうとしたが
主体のトール自身が気絶してしまっているので
記号の力が発動しなかった。
アツシは追い詰められ、万事休すのところで
ハルマが二人の間に飛び出した。
自身の赤色の電気を放出させ
トールの体にしがみつく。
アツシを守り、ハルマはそのままトールの『白虎』の相手をする。
右腕に巻かれている封印札の端が
腕からヒラヒラ垂れている。
あれを結び直せば『白虎』を再びトールの体の中へ封印できるはず。
ハルマは なんとかトールの体を止めて
右腕の封印を試みようとした。
しがみついたままハルマは電流を強く放出した。
トールの体に感電している。
だが右腕の『白虎』は動き続け、しがみついてるハルマを攻撃した。
ハルマは顔を殴られ頭から血を流す。
それでもトールを抑えるため
我慢してしがみついていた。
他にトールの『白虎』を抑える方法はないのか。
そこへ 銀色に輝く細い棒を
何本も両手の指に抱えたサキが飛び込んできた。
「地面に叩き付けろ!!」
「え!?」
「早くしろ!!」
ハルマは サキに言われるがまま
トールを地面に強く叩き付けておさえた。
その上から サキがハルマの体の隙間を
すり抜けさせるように
銀色の棒をトールに向けて投げる。
銀色の棒はトールの衣服全体を床に刺して
トールを磔の状態にさせた。
トールの体は床に同化したように動かず
『白虎』の右腕だけがバタバタと動いている。
ハルマはトールの右腕から垂れていた封印札の端をつかんで
トールの腕に簡易的に巻き直す。
すると『白虎』の姿が消えトール本来の右腕に戻った。
地下室が静まりかえる。
アツシは放心し、
ハルマは 荒い呼吸をして その場に座り込んだ。
サキは 険しい顔で気絶しているトールを見ている。
トールの突然の暴走に誰もが肝を冷やすしかなかった。