トール VS アツシ 2
頭に血が昇ったトールは
アツシに 思いきり飛びかかった。
トールの動きが獣染みている。
観戦側にいる ハルマがサキに呟いた。
「あれトールがマジギレしてる時だ」
何度もトールと戦っているハルマは
トールの動き方を見て、トールの心境を把握していた。
トールは怒りに身を任せると
『白虎』本来の獰猛な躍動をする。
現に、今 3人の目の前にいるトールは人間というよりも
外敵を倒すために牙を剥いている獣に近かった。
サキは トールの状態を見ても
表情を変えず、瞬きもせずに見つめている。
「うわッ!ちょっ!!恐い恐い!!」
アツシは トールに追いかけられ地下室内を逃げ回る。
逃げ回りながら手に持っている『記号』が描かれた単語帳をめくり
めくったページの『記号』をトールに見せた。
トールは先ほどの『∞(無限)』の攻撃により
アツシの発信してくる『記号』を無視する事ができない。
トールの目に 単語帳に描かれた『記号』が入ってくる。
『←』
「―――ッ!?」
左向きの矢印を見た途端、
トールは 自分の意思に関わらず
強制的に左側へ体勢を変えてアツシから離れていった。
トールの猛攻を阻止したアツシは
冷や汗をかいている。
「ふぅーっ あぶねー!」
見せられた『←』の記号により
アツシのいる所から左に反れたトールは
再び地面を蹴ってアツシに向かって飛び込む。
アツシが手にしている単語帳を
『記号』を見せられる前に奪うか、
手から落とせば勝ち目があると思った。
トールは真っ直ぐにアツシの手に爪を降り下ろす。
アツシは 避けたが トールの爪の先が腕をかすり
その弾みで単語帳を床に落としてしまった。
「あっ!!!」
アツシが しまった!という顔をしたのを見て
トールは勝機を感じ、そのままアツシをねじ伏せようとした。
「――――――なんちゃって」
「!?」
アツシは単語帳を持っていた手とは反対の手に
ペンライトを隠し持っていた。
ペンを光らせると
その場で空中に『記号』を素早く描く。
『‡‡‡‡‡‡‡‡‡‡』
連続した『‡』がトールの目に入る。
見たことのない記号。
次の瞬間
空中に描いた『‡』から短いナイフのような物体が
光を放ちながら一斉に出てきて
トールに向かって飛んできた。
「うわッ!!!」
トールは反射的に両手で頭を守る。
飛んできた光のナイフは
トールの肩や腕や脚などをかすって消えた。
「馴染みのない記号だから教えてあげるよ。
今のは『二重短剣符』って言うんだ」
アツシは トールが怯んでいた 隙に
落とした単語帳を拾いに行った。
「俺の能力って描ける物がないと
何にもできないっていうリスクがあるからさ、
今みたいに単語帳 失っても
次の手段をちゃんと用意してるワケ。
伊達に修羅場くぐっちゃいないよ」
アツシは 自慢げに話す。
そして単語帳のあるページをトールにつきだした。
両手で顔を覆っていたが
体が勝手に反応してアツシの単語帳に目が行く。
丸い円の上半分が白色、下半分が黒色の記号。
単純な記号だが何の記号か わからない。
トールの頭の中で考えが巡っている時だった。
バチバチッ
トールの真上で 弾ける音がする。
トールは 音に気づいて すぐその場を離れようとした。
それと同時にトールのいた上から稲妻が落ちた。
直撃はしなかったが 衣服の端が当たってしまい
トールの体に 電流がビリビリ流れる。
トールは電流の衝撃を受けて そのまま地面に倒れた。
意識はあるが体が痺れて上手く起き上がれない。
アツシは 地面に倒れたトールに近づいて
次なる『記号』を見せようとしている。
「今のは天気記号で『雷』ね。ハルマみたいっしょ?
まぁ、連続して出せないけど……」
近付いてくるアツシに トールは立ち向かおうとするが
体の痺れが まだ残っていて
腕で顔を上げるのが精一杯だった。
トールはアツシを睨む。
アツシはトールの表情を見てため息をついた。
「君ねぇ、俺が味方だからいいけど本当の敵だったらどうするの?」
「…………!」
「こんなに悠長に構えてないし
そもそも自分の能力の説明なんかしないよ」
その通りだ、とトールは思った。
今まで屋上でハルマと戦うことに慣れてしまって
自分に危機感が足りないことに気付かされた。
「すっげー能力持ってるけど、まだまだだねぇ~。
姐さーん、俺って『スクリーマー』の中で何番目に強いー?」
アツシは サキに向かって叫んだ。
「知るか」
「ぶっ」
そっけないサキの返事に ハルマが隣で吹いた。
「知るかって言われた……………。
まぁいいや、俺が思うに俺の能力って そんなに強くないよ。
リスクだらけだし」
アツシは 自分自身の力について語りだした。
まるでトールの体の痺れがなくなるのを
待っているように見える。
「けど俺がこうして『スクリーマー』の一員にいられるのは
応用力とか対応力とか………まぁ要は経験だよね。
場慣れしてるっていうか」
トールはアツシの話を聞きながら立ち上がり始めた。
「だから敵に怒りを感じて足元すくわれる、なんて
一番やっちゃいけないことだよ」
「…………っ」
トールは図星をうける。
「それじゃ、勉強になったところで
そろそろ『終止符』を打とうかな」
「!!」
トールはアツシの『終止符』という言葉を聞いて
すぐさまアツシに飛びかかった。
『終止符』の記号を見せられたら
おそらく何らかの形で自分の敗けが決まってしまう気がして
記号を見せられる前に攻め始めた。
アツシは再びため息をつく。
「おいおい、勉強になってないじゃんか」
アツシは単語帳ではなく
ペンライトで『記号』を空中に描いた。
素早く描かれたペン先の光の跡がトールの目に入る。
△のマークの中に縦の波線が3つ。
「なんの『記号』だと思う?」
アツシは描いた『記号』が発動する前に
トールに問いかけた。