記号印師(リングルマーカー)・葉山アツシ
『スクリーマー』の一員、葉山アツシは
自身の能力により、転ばせたトールに手を出して起き上がらせた。
その手のまま、握手を交わす。
ハルマは 鼻を押さえたままアツシを睨み、立ち上がった。
「『!(ビックリマーク)』って、そーゆー事か!」
「気づくのが遅いお前が悪いね!
姐さんも見たけどちゃんと『注意』したじゃんか」
「貴様、私も巻き込むとはいい度胸だな」
ハルマと サキと アツシの会話が
理解できないトールは 茫然としている。
アツシはトールを見て 改めて挨拶をした。
「悪かったね。初対面の人じゃないと『!』に
ひっかかる人いないからさ。
あ、ハルマは ひっかかったけど。
まぁ自己紹介の代わりだと思ってくれよ」
「はあ………えーと」
「コイツは『記号』を操る能力を持ってんだよ」
トールの隣でハルマが答えた。
「記号?」
「えーと、なんだっけ。ハルマが付けてくれた俺の名前………」
「『記号印師』!
トール、コイツから発信した『記号』は見るなよ。現実になるから」
「『!(エクスクラメーション)』って何が起こるかわからないから面白いんだよなー、だはは」
「パル○ンテかッ!!」
ハルマとアツシの会話を聞いて
トールは まだ呆気に取られている。
トールはサキのような堅物が来るのかと思っていたが
逆に軽快なノリで明るい人物が来たので拍子抜けしていた。
それと同時に緊張が解けていた。
「よろしくお願いします」
トールは アツシに挨拶をする。
「おー。見た目はひ弱そうだけど、強いんだろ、君」
「弱っ………」
「そうじゃなきゃ姐さんが
仲間に入れようなんて思わないからなー」
トールはサキを見た。
アツシの言葉を聞いてトールの強さを
遠回しに認めているということをトールは知った。
「姐さん、試しに手合わせしてみたいんだけど、ダメっすか?」
「えっ!僕とですか!?」
「派手に暴れなければ構わん」
「えぇっ!?ここ病院ですよ!!?」
「地下に移動する。付いてこい」
サキは スタスタ歩いて部屋を出ていく。
トールは またもや呆気に取られていた。
「ハルマ………ここ病院だよね?
伊丹村先生って医者だよね?」
「とりあえず、常識は通じないと
思って過ごした方がいいぞ、トール」
ハルマが他の人より考え方が突拍子ないのは
サキのせいなんだな、と トールは思った。
ついでに言葉使いが悪いのも。
―――――――
サキの後を付いていくハルマとトールは
病院の地下室に初めて入る。
人気は全く無く、ゴゥンゴゥンと
機械的な音が小さく響いてくる。
むき出しのパイプ管に 壁はコンクリートで塗り固められている。
この部屋を知っている人間は
病院内では ただ一人。サキだけだった。
「私が改造した部屋だ。多少は暴れても大丈夫だ」
サキは地下室の扉を閉めて鍵をかけた。
「ハルマ、伊丹村先生って何者?」
「とりあえず逆らわなきゃ問題ねえ」
「答えになってないんだけど……」
トールは 不安な顔つきのままアツシを見た。
アツシは ヘルメットを置き、ジャケットを脱いだ。
長袖のシャツを腕まで捲って
ストレッチを始める。
「は、葉山さん。本当に戦うんですか……?」
「うん!腕試し!」
トールは サキをチラッと見た。
サキはトールに目を合わさず、室内の中心を黙って見ている。
「ほら、早く!!大丈夫、手加減するから」
アツシは朗らかに笑ってトールに手招きをした。
無意識に「手加減する」と言ったことに気づいていない。
トールは 先ほども「ひ弱そう」と言われ
完全に格下扱いされていることに少し気分を害していた。
「やるなら とっととやれ。私はこれから仕事があるんだ」
サキは 腕組をして アツシとトールを睨んだ。
「…………はぁ」
トールは ため息をついて アツシと対峙する。
「一応、手加減します」
「おっ?手加減なんていらないよ、だはは」
「死なれると困るんで」
「……………あれ、怒ってる?」
トールは 右手の封印札をほどいた。
ハルマと戦う習慣が付いてしまったせいだろうか。
トールは 自分の力の強さに自信を持つようになっていた。