モモに会わす10秒間の作戦
~ 翌日・放課後 ~
トールとアキトは 旧校舎にある
モモの花壇に向かって歩いていた。
アキトは 不安そうな顔を浮かべている。
「………上手くいくかな」
「たぶん大丈夫だよ」
昨日、トールは別人格アキトとの戦いの後、
モモに10秒間会わせるための作戦を打ち立てた。
主人格のアキトは 不安を抱えながらも
トールの作戦に合意した。
そして モモの花壇にやってきた。
モモは すでに花壇の所にいて
トールとアキトに気付くと
目に涙を浮かべてアキトを見た。
「先輩!」
アキトは モモの側に駆けつけモモの手を取って握った。
「先輩、すみませんでした……。会いたかったです」
モモは アキトに再会できた事で
すでに しゃくり上げて泣いていた。
トールは アキトとモモの姿を
花壇の端から眺めて とりあえず安堵した。
だが、本題はこれからだった。
これから別人格のアキトの入れ替わり
10秒間だけモモに会わせる作戦を実行する。
トールは、この作戦に必要な人物を呼び出していて
その人物を待っていた。
そして その人物がやってくる。
「なんだよ、トール。呼び出したりして」
ハルマが 気だるそうに のそのそ歩いてくる。
ハルマが苦手なモモは
ハルマの姿に気づくと目が合う前に アキトの背中に隠れた。
アキトの腰のシャツをギュッと掴んで
アキトから離れないようにしている。
「花壇の手伝いならしねーぞ」
ハルマは トールに悪態をつく。
つまらなそうな表情で あくびをしたハルマを横目に
トールとアキトは目を合わせて互いにうなずいた。
――――――――――
~ 回想 ~
「ちょっと先輩には怖い思いをさせちゃうけど……
それはハルマが背負うから大丈夫」
「……なるほど。赤嶺を悪役にさせるのか。
なんか申し訳ないな」
「大丈夫だよ、普段から態度悪いんだから。
じゃあ目で合図を送ったら
僕がハルマを怒らせるから、そのタイミングで
もうひとりの君と入れ替わって」
「わかった」
――――――――――
そして目を合わせたトールとアキトは
それぞれ行動始めた。
アキトはモモの 視界に
トールとハルマが入らないよう
モモを自分の背中に完全に隠す。
そしてトールは ハルマの尻に
強烈なキックをかました。
「イッッ!!!?」
突然の攻撃に不意をうたれたハルマは
尻を押さえて痛がり、そしてトールを睨んだ。
「テメェッ!!なにすんだコラァァッ!!!」
ハルマが トールに向かって ものすごい勢いで怒る。
「ひッ!!」
モモは ハルマの叫び声とトールへ向けた殺気でビビり
アキトの背中に顔を付けてピッタリくっついた。
その瞬間にアキトは 別人格のもうひとりに入れ替わる。
モモは 気付いていない。
別人格のアキトの殺気をハルマのものと勘違いしている。
作戦が成功した。
別人格に入れ替わったアキトに
モモは気付いておらず、
別人格のアキトを恐がらずに 背中にしっかりしがみついている。
互いに顔を見せ合う事までは出来ないが
それでも別人格のアキトは
自分が「外」にいる時に、初めてモモに会う事が出来た。
自分の目で、自分の感触で、モモに触れている。
別人格のアキトは 自分の背中にピッタリくっついているモモを
嬉しそうに見つめていた。
「待てコラァッ トール!!」
ハルマは 怒鳴りながらトールを追いかけ回した。
いつまでも花壇の所にいられないと思い、
トールはアキトの様子を見届けると
花壇から離れて旧校舎の中へ走っていった。
トールを追い掛けてハルマも離れていくのを見て
別人格のアキトは主人格のアキトに体を返した。
ハルマと追いかけっこをする事になったトールは
走りながら携帯電話を手に取りアキトに電話をかけた。
「桐谷君、上手くいった?」
『あぁ、あれで満足してくれたよ。一応な。
樋村の説教も効いたみたいで大人しくしてるよ』
「そっか、良かった」
『いろいろありがとな。そっちは……』
「大丈夫、屋上行ってハルマの相手してから帰るよ」
『悪いな』
「そうだ、もうひとりの君に言わなきゃいけない事があったんだ」
『何?』
「昨日、僕が勝ったら僕の言う事聞いてもらうってやつ。
まだ何も伝えてなかったんだ。
『もう自分を傷つけるな』って言ってくれる?」
『……………「わかった」だってさ』
トールは アキトの返事を聞いて ひと安心した。
「待てコラァ!!!」
ハルマは 2人の作戦に知らずに付き合わされて
トールを追い掛ける。
トールは 何も言わずに笑顔を作って
屋上まで走り続けた。