変人?
ハルマは アキトの手で宙吊りにされたまま
苦しそうな呼吸に混ざって微かに笑った。
アキトは ハルマの負け惜しみに
愛想が尽きたような顔をする。
「そんな状態で何ができる」
「……ッ……ッ」
バチッ
ハルマの体から 火花が弾けた。
バチッ バチッ バチッ…
続けざまに火花が弾ける音がする。
だが、それはハルマからではなく
違うところから聞こえてきた。
「…!?」
アキトは 異変に気付き
火花の音が あがった場所を
眼で探した。
自分達のいる足元。
ハルマの血で染まった地面から
火花の光が見える。
アキトは すぐに理解した。
だが、遅かった。
ハルマが勝ち誇った眼でアキトを見下ろした。
次の瞬間
2人のいる位置に
雷が落ちたように 赤い光の柱が
バリバリ と音を立てて出現した。
正確には 雷が落ちたのではなく
地面に広がった ハルマの血が
ハルマに共鳴して 電気を放出した。
その電気は 血の主であるハルマを
中心に集まって 立ち昇り
赤い光の雷柱になった。
アキトは その雷柱の中に
一緒に取り込まれた。
トールは 激しいスパーク音と閃光で
目を閉じるしかなかったが
2人が雷柱に取り込まれた一瞬を
目に焼き付けていた。
激しい雷音 に 眼の眩む閃光
衝撃波で気流が乱れている。
トールの予想どおりだった。
雷柱が消えた後
眼をゆっくり開けたトールの視界には
完全に静止して倒れているアキトと
フラフラで立っているハルマがいた。
「……ハッ……ハハハ」
ハルマが笑いだした。
「オレの勝ちぃぃぃぃぃぃぃぃッ!!」
ハルマは両手を空に掲げて
ガッツポーズをして 雄叫びを上げた。
そして そのまま 仰向けに倒れて気絶した。
「……あー…」
トールが呆れた…と思った時
新校舎から午後4時を報せるチャイムが鳴った。
~ ~ ~ ~ ~
「…………ん」
「桐谷君!」
アキトが目を覚ました。
トールは若干 アキトを警戒しているが
目を覚ました事に安心した。
「……あれ……まさか俺…」
アキトは起き上がって屋上の様子を見た。
「あぁ、全部元通りにしちゃった」
「樋村……」
アキトの顔からは 不気味な戦闘狂の顔は消え
元の 桐谷アキト の顔に戻っていた。
トールはそれを見てようやく安心した。
「…負けたのか 俺」
「ううん、引き分け」
「えっ」
「ハルマも倒れちゃったし
最後の一撃で地面に穴開けたし」
「……」
周りを見渡すと
屋上は元に戻り、ハルマはまだ目を覚まさず
横になっていた。
ハルマの体もアキトがつけた斬り傷が
なくなっていて、制服も元に戻ってた。
「…樋村がやったのか?」
「そうだよ。詳しい説明は省くけど」
「そうか……よかった…」
アキトは胸を撫で下ろした。
そしてトールを見た。
「お前ら、いつもこんな事してたのか?」
「火曜日の放課後だけね…
僕は君らみたいな戦闘狂じゃないから」
「戦闘狂か…あはは」
アキトは 苦笑いをしたように見えた。
「知らなかったな…
てか、俺以外に変わった体質持ってる奴が
いたなんてな」
「僕も。毎週 委員会で会ってたのにね…。
ハルマに言われるまで気づかなかった」
「コイツ すげーな」
「ただの馬鹿だよ」
トールは皮肉を込めて笑った。
「なぁ、なんでこんな事してるんだ?」
「ハルマの戦闘中毒に付き合わされて。
あと、世間への抵抗」
「…世間への抵抗?」
「そう…僕らは人間離れしてるから」
トールは空を見て話を続けた。
「最初は 普通の学校生活を送りたいって思ってたよ。
でも、それはこの能力を周りに知られないように
自分を偽って過ごさなくちゃいけないって事だよね。
そう思えば思うほど 自分の能力を意識しちゃうんだ。
『あーなんで僕は普通じゃないんだ』って。
それを3年間やってかなきゃいけない」
アキトはトールを見つめた。
「誰にも本当の自分を理解してもらえないって
すごく辛い事だよね」
「………」
「だからハルマが言ったんだ。
振り回されるぐらいなら利用しようって」
「……!」
「もちろん、公には出来ないけど
こうやって本当の自分を出せる場所を
ハルマが作ったんだ」
トールは無意識に笑っていた。
「『僕らは ここにいるんだ』って。
これが僕らなりの世間への抵抗」
「…そうか 面白いな、お前ら」
アキトが笑った。
「桐谷君 僕が言うのも…変だけど
よかったら またここに来て」
本当はハルマの言うセリフだが
まだ気絶してるのでトールが代わりに言った。
「そうだな……
引き分けじゃ悔しいから また来るかもな。
でも バスケもあるし」
「来れる時でいーよ」
空が少しずつ夕焼け色に変わりはじめた。
「いやぁ…俺 最初は告られるんじゃないかって
思ったんだよね」
「…………ん??」
トールは アキトの言ってる意味がわからなかった。
「俺、女子から2回 告白された事があるんだ。
断ったけどな」
「……それが??」
「樋村さ、俺に声かけて来た時
すげー モジモジしてただろ?」
「えっ…………あぁ、あれね」
「告白を決意してる女子みたいだったから」
「えぇ!!違うよ!!
僕 男だよ!?そんなワケないじゃない!!」
トールは妙に焦った。
「わかってるよ」
「……………え ちょっと待って。
じゃあ桐谷君は……僕にその ケ があるかも
しれないって思っていながら……
誘いに のってきたの……?」
「うん」
「!!?」
「来るもの拒まずっていうだろ?」
「えっ いや 断ってるじゃん 女子2人…」
「お前 可愛いよな」
トールの悲鳴が
新校舎の方まで響いたとか
響かなかったとか。
この物語は
健全な学園バトルファンタジーです