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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆見えない敵 編◆
137/228

トール、一肌脱ぐ

「ひ、ひ樋村さぁん」


「若林先輩!」


ある日の昼休み、突然 モモがトールのクラスに来て

声をかけてきた。


人見知りの激しいモモは

トールのクラスに顔を出しに来ただけで

かなり勇気のいる行動だったのか

かなりビクビクしている。

トールはモモの様子を察してすぐに駆け付けた。


「どうしたんですか?」


「………………………ふっ……」


「ふ?」


「ふぇっ」


モモが 今にも泣き出しそうな顔なのに気付いたトールは

ギョッとする。


「せ、先輩!!ここ、こっちに来て!」


トールは慌てて教室を飛び出た。

モモの手を引っ張り、階段の踊り場で足を止めた。

再びモモの顔を見ると目から涙が流れている。

モモが しゃくり上げて泣き始めてしまったので

トールは モモが落ち着くまで 側にいるしかなかった。


通りすがっていく生徒達の目線が気になる……

自分がモモを泣かせてしまったような感じがして気まずかった。


しばらくすると、モモが口を開きだした。


「うっ………うぅ……きっ桐谷さんがっ……」


「桐谷君がどうしたんですか!?」


トールは 嫌な予感がした。

まさか別人格の事がバレてしまったのだろうか。

トールは そう思った。


「さ、最近……花壇にきっ来てくれないんですっ…………ひぐっ……

こ、この間もっ、わ、私を………さ、さ、避けるように………ふぇぇ」


「あ…………そ、それは……」


トールは だいたい読めた。


アキトは今、別人格の自分と話し合いをしている。

その中で、別人格のアキトが

「自分が入れ替わっている時にモモに会いたい」と言ってきたが

別人格の放つ殺気で モモを脅えさせてしまうからダメだ、と

主人格のアキトが許さないでいる。


たぶんだが、主人格のアキトがモモに会いに行こうとすると

別人格の方が なんらかの腹いせや嫌がらせを

体の内側から仕掛けてくるのだろう。


そのせいで会おうにも会えない状態になってしまっている。


と、トールは推測した。


だが、モモから見れば

アキトがそんな状態な事など知らないので

花壇に来なくなった事や避けられてしまっている事で

自分が嫌われてしまったんだ、とショックを受けて

泣いてしまっていた。


「大丈夫ですよ、先輩。

桐谷君……今ちょっと悩み事を抱えてて……

先輩に迷惑かけたくないから

会いにいけないだけなんです。本当ですよ」


「うっ……うっ……」


「明日………桐谷君と一緒に花壇へ行きますから……ね?」



トールは モモを安心させるため

とりあえず この場を取り繕った。



―――――――――



その日の放課後。

トールはアキトを旧校舎の屋上に呼び出して

今日のモモの話をした。


「はぁ…………先輩が泣いてるなんて……。

お前のせいだぞ、ちくしょう!」


アキトは 独り言のように叫んだ。

よく見るとアキトの目にクマが出来ている。


「桐谷君……大丈夫?」


「いや……もう ずっとコイツと話し合ってて……

ろくに睡眠も取れてないんだ。

俺だって先輩に会いに行きたいのに……

そのたびにコイツが 耳鳴りさせたり

嫌がらせばっかするから……」


今度はアキトが まるでベソをかくように嘆きだした。


「困ったなぁ……。

先輩に明日会いに行くって言っちゃったよ………」


「あぁーもう、どうしたらいいんだよー………」


アキトが 頭を引っ掻きはじめた。

精神的にも参ってきてるのか、いつものアキトらしくない。


トールは ふたりのアキトも モモも

いい形で話が収まるようにしたかった。


トールも頭を抱えて考える………。



ひとつだけ、別人格の気持ちを抑えさせる方法があった。


だがトールにとって非常に気の進まない方法だったので

やりたくなかったが、モモやアキトの様子を見て

トールは ついに心を折った。



「桐谷君、もうひとりの君と入れ替わって」


「えっ?」


「僕が 話をつけるよ…………

話っていうか…………話になればいいけどね」


トールは 苦笑いをした。

アキトは 心配そうな表情をする。

その顔が 疲れているように見えて

トールはアキトの肩をポンッと叩いて言った。


「ちょっとだけだけど、ゆっくり寝ておいでよ」


「樋村…………いいのか?

コイツ………今、めっちゃ張り切ってるぞ」


「えっ、そ、そう………まぁいいよ。仕方ないな」


「ありがとう、樋村。

…………おい、調子に乗るなよ!いいな?」


アキトは トールにお礼を言い

自分の胸元に向かって怒る。


そしてそのまま別人格に入れ替わった。


あっという間に顔つきが変わり

トールを見るなりニヤニヤしている。




「出来れば話し合いで済ませたいんだけどな………ダメ?」


「散々コイツと話し合ってて、お前とも話し合えってか?

体を動かしたいっていう俺のキモチが伝わらない?」


「……………はぁ、仕方ないな」



トールは 右腕の袖をまくり上げた。

そしてアキトに向かって指をさした。


「いい?僕が勝ったら

僕の言うことを聞いてもらうからね」


アキトは 不気味に微笑むと

両手の形を変形させはじめた。



トールとアキトが 互いに構えはじめた。

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