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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆見えない敵 編◆
132/228

それぞれの思い その5

伊丹村(いたむら)サキは病院の自室で脚を組んで座り

その横で薄野(すすきの)ソウタは立ったまま目を閉じ

眉間に少しシワを寄せていた。


サキは ソウタの様子を伺いながら問いかけた。


「どうだ?」


「現時点での この市の人口は134398人………

男性が64027人、女性が70371人………

今のところ事故、事件など大きな騒動はありません……」


「ふむ、よし、解いていいぞ」


「はい」


ソウタは 目を開けた。

(ひたい)から汗が吹き出し

グラッと よろけて体勢を崩しかけた。


「3日間でここまで出来るとはな」


サキは ソウタの『空間』能力を褒めた。


「でも………欠点がまだあります。

『空間』を広域にするには 本来なら2つ使える『空間』能力を

1つにまとめなければできません。

それと 集中力を激しく使います。今のままでは 5分が限界です。

とても戦うには ほど遠い………」


「戦う事は考えなくていい。

一般人への被害減少と人命救助が第一だ。

お前の能力(チカラ)は一般人も仲間も救える。裏方に徹しろ」


「…………はい」


「裏方は嫌か?」


「いえ、そんなことは………」


ソウタは普通に返事を返したつもりだったが

サキに 本心を見抜かれた。


ソウタは『ウォンバッド』に関わる人間と戦いたいと思っていた。

だが、今のままでは情報収集や敵索、保護や救助など

戦闘以外の事に力を使うことになる。

決して それが嫌なのではないが

自分の能力(チカラ)で『ウォンバッド』をねじ伏せたい、と

思っていた。


「お前も上を目指す人間なら皆を支えろ」


「…………!」


「仲間を支えられる人間こそが上に立つべき者なのだ」


サキは ソウタの目を強く見つめる。

ソウタはサキの言葉を理解して

見つめ返して コクッとうなずいた。



「会長~、迎えにきたよ~」


サキの部屋で 影井(かげい)イズミの声が響いた。

サキの部屋に置いてあるデスクの影から

ひょっこりと 上半身を乗り出してイズミが現れた。


「ありがとう、イズミ」


ソウタは サキに一礼すると

イズミと一緒に影の中へと消えていった。




―――――――――




イズミの能力(チカラ)による

影の世界『不明(アンノウン)』の中には

美作(みまさか)エナ、布施(ふせ)リュウ、時任(ときとう)エイジ、

そして ユエとレミがいた。


「遅くなってすまない」


イズミと共に ソウタは全員の前へやってきた。


今、ここにいる全員は

能力(チカラ)の向上を目指すために集まった。


「この暗い空間でも、人がいっぱいいれば

そんなに怖くないわね」


「それに、周りの目を気にすることもないし集中できるわ」


ユエとレミは 『不明(アンノウン)』の世界を ありがたく思った。


「ねー、ボクのチカラ役にたってるー?」


「ああ、役に立ってるよ、イズミ」


「いつ来ても静かやなぁ………

そや、ワイが歌ったろか?なんかリクエストあるかいな♪」


「耳障りなのでやめてください、エイジさん」


「なんやと!この変態がッ!!」


「やめなさい、下級生の前でみっともないわね あなた達」


ユエとレミは 生徒会の5人が

和気あいあいとしている姿を見て親近感がわいてきた。


「なんか……『生徒会』って枠組みがないと、あたし達みたいだね」


レミは 口に手を当ててクスクス笑う。


その言葉が聞こえたのか、ソウタが全員の注目を集めた。


「みんな、始める前に言っておきたい事がある」


全員がソウタに視線を向ける。


「俺はもう『会長』じゃない」


「!」


「3学期から、次の世代に役目を引き継ぐ」


冬休みが明けると、生徒会の交代が行われる。

ここにいる5人は全員『生徒会』の役割を

次の一般の生徒へ引き継ぐ形になる。


「そうやったな………。

ついクセで『会長』って呼ぶけど、ワイらももう

生徒会やなくなるんやな」


「ああ、だから これからは『会長』じゃなくて『薄野ソウタ』だ」



ソウタは1年半、学生の総括を行い 取り締まってきた。

いずれ求める世界の創造のため、ソウタは進んで

上に立つ事をしてきた。


ちょうど世代交代の時期に『ウォンバッド』という存在を知り

それに立ち向かう『スクリーマー』の一員になった。


自分は そこでは戦うどころか

仲間を支える力すら不足していたことを知り

自信喪失を味わう。


『会長』などと呼ばれていた事が

自分の小さな世界で陶酔していただけだった、と

身のほどを知ることになった。



上には上がいる。



ソウタは 『生徒会の世代交代だから』ではなく

『一個人の人間として力をつけ直していきたい』と思い

『会長』という名前を捨てた。



「……………それじゃ、私も『副会長』じゃなくて『美作エナ』ね」


「ソウタくんって呼んでいいのー?」


「おー、あの頃に戻ったみたいやなぁ」


「まぁ、呼び方はなんであれ

貴方への信服は変わりませんよ、ソウタさん」



今、ここで5人の『生徒会』はなくなった。

それでも5人の間に築かれた絆は変わらない。

ユエとレミは そんな5人の姿を垣間見て羨望(せんぼう)した。


「いいわねぇ、あーゆーの。

あたし達も あーなれるかな?」


「どうかしらね」


ユエもレミも 顔を合わせてフッと笑った。



「よし、それじゃあ始めよう!」



それぞれの思いを胸に抱いて

若者達は 駆け出していく。

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