それぞれの思い その4
元旦。
この年初めての朝日が登る。
金色に輝く陽の光がトールの暮らす神社を照す。
小さくて目立たない神社だが
地元に暮らす人々が初詣の参拝に並び
いつもより にぎやかだった。
トールは朝早くから神社の住職で師匠の宗寛と共に働く。
トールは御守や破魔矢などを
買い求めに来た人達の 対応していた。
一人で 切り盛りしていて 忙しなく動き
人の顔を見る余裕がなくなっているところへ
ひとりの人間が話しかけてきた。
「この矢、何?」
「それは破魔矢と言っ…………て」
聞き覚えのある声にトールは顔を上げた。
「ハルマ!?」
「オース、あけおめー」
ハルマが 破魔矢を勝手に手に取って
ほがらかに笑っていた。
「こら、返せ!お前それ いらないだろ!」
「い、いるよ!失礼だな!!いくらだ」
「1000円」
「高ぇな!まけろよ!!」
「この馬鹿!!」
トールは新年早々ハルマを罵った。
「新年の挨拶ぐらい返せよ」
「僕は忙しいの!早く帰れ」
「なんだよ、みんな連れてきたのに」
「………みんな?」
トールは ハルマの背後を見た。
「トールくーん!!」
「よう、樋村」
「樋村君、あけましておめでとう」
ハルマの後ろからアキト、ユエ、レミがやってきた。
トールは びっくりして 固まった。
「うわー、ホントに神社なのねー、トール君ち!」
「悪いな、樋村。赤嶺に呼び出されて……」
「い、いや、いいよ。
いいんだけど、僕 まだ仕事があるから……」
「じゃあ、トールの部屋で待ってよーぜ」
「なんでお前が勝手に決めるんだよ!!
あっ、こら!入るなッ!!」
ハルマが 勝手に自宅へ入り込もうとしたので
トールは慌てて ハルマの肩を掴んだ。
ちょうどその時、トールの師匠 宗寛が通りかかった。
「おや、トールの友達か」
「ウィッス、お邪魔します」
「うむ、靴は脱ぎなさい」
「ハルマー!!」
トールは 夏休み中も同じ事があったな、と思い出した。
―――――――
トールの部屋にハルマ、アキト、ユエ、レミが
座って待っていた。
そこへトールが戻ってきた。
「売れ残りのモノなんだけど、良かったら……」
トールは みんなに甘酒の入ったカップを渡していく。
「うわぁ!ありがとー!」
「いただきまーす」
「トール、オレ、甘いの苦手」
「大丈夫、ハルマの分は最初から無い」
「ひでぇッ!!」
甘酒を飲んで一息つく。
トールの部屋は 6畳ほどの大きさで
1人なら充分な広さを感じるが
今は5人もいるので少し窮屈に感じた。
だが、自分の部屋に友達をたくさん連れ込むのは
初めての事で、トールは なんだか嬉しく思った。
誰もがなるべく『ウォンバッド』の事について
話さないようにと努めていたが、全員がその空気を出すので
嫌でも その話題を意識してしまう。
「………そういえば、私達
薄野先輩と一緒に修行する事にしたの」
「え?」
ユエが トールに 自分とレミが
能力の向上を目指して修行する事を打ち明けた。
「薄野先輩って、もともと人の力を伸ばすのが
得意な方でしょ?だから冬休み中は
薄野先輩と一緒に能力を鍛えることにしたの」
「薄野先輩……も?」
「ええ、伊丹村先生に
『空間』を広げられるよう言われていたでしょ?
だから一緒に修行する事になったのよ」
「そうなんだ」
『空間支配』という強力な能力を持っていながら
さらに能力を磨くために
薄野ソウタは修行をしていた。
ユエ、レミも同じく、自分達の力不足を補うため
能力を磨く事を始める。
「学校が1月8日からだから、ちょうど一週間ね」
「今日からやるの?」
「ええ、これから集まるのよ」
トールは ユエとレミを感心の眼差しで見た。
トールと同じくアキトもそう感じていた。
「一緒に来る?」
レミが トールとアキトを見て言う。
「俺は………コイツ次第だからな。
個人的に なんとかやるよ」
アキトは自分の胸を指して言った。
「僕も、大丈夫。
僕のは ちょっと特殊すぎるから……」
トールも 申し訳なさそうに返事を返した。
「そっか。じゃあ また一週間後ね」
「ご馳走さま、樋村君」
ユエとレミは 立ち上がり、先に3人に別れを告げて
薄野ソウタの元へと出掛けていった。
「………武藤も清水も、覚悟してるんだな。
俺も、コイツと話し合ってみるわ。
この間みたいに暴走して仲間襲わせない方法見つけないと……」
アキトも立ち上がり、トールとハルマに
別れを告げて帰っていった。
トールは アキトやユエやレミ、ソウタの
『ウォンバッド』と立ち向かう姿勢を受けて
ある事を決心する。
「よし、僕も………」
「なぁ トール」
「まだいたの?ハルマ」
「ホントに冷たいな、お前………。
それより、この矢、どーやって遊ぶの?」
ハルマは 破魔矢を握ってトールに見せる。
「………………………………頭に突き刺すんだよ」
「お前それ絶対ウソだろッ!!!」
トールは呆れ果てて ため息をついた。
――――――――――
その日の晩、
トールは師匠の宗寛の前で正座をし
お互いに神妙な面持ちで向かい合っていた。
「本気なのか?トール」
「はい」
「……………一週間は短すぎる。
確実に その身を削る事になるぞ」
「もう傷だらけの身体ですから」
「……………」
トールの真剣な眼差しに
宗寛は トールの気持ちを汲んだ。
「無茶は するなよ、トール」
「はい」
トールは 宗寛に
『バトル倶楽部』や『ウォンバッド』の事など
自分の能力を使っている場面の話をした事はない。
だが、宗寛は薄々と気づいているかのような素振りで
静かにトールを見守る。
トールは 宗寛の部屋を出ると
神社の敷地内にある小さな祠の前まで来た。
「1年ぶりか…………」
寒さに耐える体と、吐き出す白い息と共に
トールは その祠の中へ入っていった。