それぞれの思い その3
伊丹村サキによる会合があった日から
ユエは 兄、ツカサの事ばかりを思っていた。
自宅に レミを招き入れ
ユエとレミは2人きりで話し合う。
「ツカサ兄は ユエちゃんや
ご両親を巻き込まないために
消息を断ってたのね………」
「最後に会ったのが私が中学に上がる前だから
もうすぐ5年になるわ」
ツカサは『ウォンバッド』に対立する組織
『スクリーマー』に所属していた事がわかった。
家族に危害を与えないため消息を断ち
『旅の占星術師』を名乗って全国を回っている。
『ウォンバッド』の情報を集めたり
能力者探しをするのがツカサの役目らしい。
「それにしても不思議な縁よね。
ハルマん と ツカサ兄が昔から知り合いだったなんて。
おまけにユエちゃんは ハルマんと同じクラスだし……」
「…………………」
ユエは 部屋に飾ってある冥王星の天体模型を見つめた。
以前、ユエがホロスコープで導きだした占いで
ハルマは『冥王星』と例えられていた。
「……あれは赤嶺君の事だったのかしら……
それとも赤嶺君に取り巻いている者の事だったのかしら……」
ユエは ハルマを不吉な扱いをして遠ざけていた事があった。
今はそんな事はなくなったが
『ウォンバッド』の存在を知り、不吉な予兆を感じ取っていた。
ユエは未来を読む力を失い
今となっては わからないが ハルマの消えた過去が
大きな波乱を呼ぶのではないかと想像した。
「とにかく、今のままじゃいけないわ。
未来も読めないし、星座の力を十分に使うことも出来ない状態じゃ
みんなに迷惑をかけちゃう」
兄、ツカサが いるため
自分が足を引っ張るような存在になりたくない、と
ユエは考えていた。
「あたしも もっと力をつけなきゃ……。
『石』の力を少しでも長く使えたら……!」
レミも 同じ事を考えていた。
「ねえ、レミ。提案があるの」
「何?」
ユエは レミを見てある事を告げる。
そして2人は 高校生活 初めての冬休みを利用して
ある事を始めた。
―――――――――
「………今年はいろいろあったな」
トールは 自宅の部屋で
今年の最後を迎えようとしていた。
あと15分で 新しい年に変わる。
トールは 入学した春の時から
今に至るまでを ゆっくり思い出していった。
ハルマと出会い、旧校舎の屋上で初めて戦った。
それから2人で『バトル倶楽部』を内緒で創った。
そして アキトが仲間に加わり
ユエとレミも 仲間になった。
そして夏休み。
生徒会の 5人の能力者たちに はめられて対決をした。
あれのおかげで 力が上がったり
生徒会の能力者たちとも知り合いになれた。
夏休みの明けてから 若林モモが
能力に目覚めて、ひと騒動があった。
臨時で来た体育教師の遠藤ダイゴが
屋上破りに現れて、ハルマとレミが共闘した。
ハルマの提案で、ハルマとアキトと戦った事もあった。
そして、白神ユウヤによる『放課後の道化師』事件。
これがキッカケで伊丹村サキと出会い
裏の組織『ウォンバッド』の存在を知り
その組織と戦う『スクリーマー』に入る事になった。
思い返せば、自分の周りには能力者だらけで
それに関わる出来事ばかりだった。
「変な学校生活になっちゃったなぁ」
トールは 呟いた。
「……………ん?」
今年を振り返っていた中で
ある事に気付いた。
「遠藤先生って…………」
臨時でトール達の学校に現れた教員、遠藤ダイゴ。
ハルマと戦い、ハルマの事を知っている能力者。
ハルマがダイゴを打ち負かして
病院送りにした後、どこへ行ったか全く気にしていなかった。
「…………言っておかなきゃ」
トールは ケータイを取り
伊丹村サキの番号に 電話をかける。
時計が深夜の 0時になり
新しい年が明けた。