それぞれの思い その1
地元の駅前にあるファーストフード店で
ハルマ、トール、アキト、ユエ、レミは
テーブルを囲んで座り、これからの事について話し合っていた。
5人の座る席の近くにはカップルや
女子高生のグループ、一人で食事を取るサラリーマンなどで
ちらほらと一般の客もいた。
うかつに大きい話は出来ないので
周囲を警戒しながら それぞれの考えを言い合う。
「ねぇ、ハルマ、どうなの?」
「わかんねぇ。ホントに記憶がぶっ飛んじまってるから」
ハルマは 『ウォンバッド』にいた5年間の記憶がなく
実際に『ウォンバッド』達がどのように人々を混乱に招く事をするのか
全くわからなかった。
事故、事件、災害に紛れて現れるとしか聞かされていなく
トール達は 姿のわからない『ウォンバッド』の存在を
想像で考えるしかなかった。
「テレビで報道されないような小さい事故や事件を含めたら
一日に何百、何千と起こっているのよ。
それが全て関わっているとは考えにくいわ」
「まず、どれくらいの規模かわからないからな。
『組織』って聞かされただけで
勝手に大きな団体を連想してるけど
実際は少数だったりするかもしれない」
ユエとアキトは 『ウォンバッド』について
それぞれの考えを口にする。
「こっちの事もちゃんと教えてもらってないよね。
わかってるのは伊丹村先生と
武藤さんのお兄さんがいて
伊丹村先生より上の人が統轄してるって事しか……」
「えっ、武藤のお兄さん!?」
「はぁ!?」
ハルマとアキトは ユエの兄 ツカサについて今、初めて知った。
「オレ知らねーぞ!それ!!」
「私もこの間知ったばかりよ」
ユエは 冷静に返した。
「なんで教えてもらえないのかな。
仲間だって言った割には壁を感じるわよねー」
レミは 面白くなさそうに顔をムスッとさせた。
「それは、さっき薄野会長が言ったとおり
まだ僕らは信頼されてないからだと思うよ。
例えば僕らが捕まったりして情報が漏れちゃったら……」
「信頼してないのに仲間にするなんてさ、ちょっと変じゃない?」
「んー、少なくとも 僕らはハルマと半年以上付き合いがあるし
能力者でもあるから、仲間にしておきたいんだと思う」
「でもさ、実はあたし達の仲間に もしかしたら………」
「レミ、なんて事を言うの!」
「じょ、冗談よ!!ジョーダン!!」
「………確かに伊丹村先生は
僕たちを疑い無く引き入れたよね……
何か見分けられるモノがあるのかも」
「あー、あるよ」
ハルマは あっさり答えた。
「組織の一員を示す刺青があるんだよ。オレにもある。
所属してた時に つけられた」
「えっ!?」
「今は見せらんないけど」
「…………え、でも待って。
伊丹村先生は どうやってそれを知ったの?
誰も先生の前でボディチェックとかしなかったじゃない」
「センセーは 顔を見ただけで
病気とか怪我とか、そーゆーのを見抜く力があるんだよ。
刺青だって傷の一種だろ?
だからオレ達全員の顔を見ただけで刺青がないのを確認したんだよ」
「…………なるほど」
トールは 初めてサキに対面した日、
サキに『傷痕』と呼ばれていたのを思い出した。
トールの体は 自身の体にいる妖怪を抑えるために戦った傷が
たくさん残っている。
サキがトールの事を『傷痕』と呼んだ理由がわかった。
「とりあえず、勝手な詮索は しなきゃいいだけだろ?
万が一、赤嶺に何かあったら その時は戦ってもいいわけだ」
「そうだね。ハルマ、勝手な行動取るなよ」
「うるせーな、わかってるよ」
話し合いが終わると全員立ち上がり店を出た。
ユエとレミは同じ方向に 歩いて帰っていった。
トールも 帰ろうとした時、アキトがトールを呼び止めた。
「ちょっと話したいことがある」
「え?」
―――――――――
トールとアキトは人通りの少ない路地を歩いた。
アキトが辺りを見回し、他に人がいないのを確かめる。
「アイツがお前に言いたい事があるってさ」
「アイツ?………えっ、もう一人の桐谷君!?」
別人格のアキトが トールに言いたい事がある、と言って
アキトはトールだけを連れてきた。
「え、え、……なんで?怒ってるの?」
トールは以前、別人格のアキトを
邪魔者扱いしてしまった事があり、
そのせいでアキトが両目を潰されてしまう出来事があった。
その時以来、別人格のアキトとは会っておらず
トールは気まずくなった。
「大丈夫、戦う気はないから」
「あ、当たり前だよ!こんなとこで!!」
「じゃ、あとは任せる」
「え、ちょ、ちょっと待って!!!」
トールは 制止したが遅かった。
アキトは両手で顔を隠し
そのまま両手を上に滑らせて髪をかきあげた。
別人格アキトが出てきた時の殺気が放たれる。
「…………………」
「………………あ、き、桐谷君?」
トールを睨んだままアキトは黙っている。
トールは とりあえず名前を口にしたが
アキトの表情を見て、さらに気まずくなった。
「……………あの、この前は………ごめんね」
トールは 邪魔者扱いしたことを素直に謝った。
アキトは相変わらず黙ったままトールを睨んでいる。
(ど………どうしたらいいの?)
困惑するトールは
顔中に冷や汗を流した。