胸の内
平凡な日常に潜む 影の暗躍。
運悪く起きてしまうような事故も
予測不能な自然災害も
人と人が憎しみあって起こす事件も
全て何かによって必然的に
起こされているものだとしたら?
操作されている不秩序。
混乱する人々から 何を得るのか。
『ウォンバッド』という裏の世界で能力を使い
秩序を乱している組織がある事を知ったトールは
『ウォンバッド』と立ち向かう事を強いられた。
ハルマが5才から10才の間の5年間
『ウォンバッド』に所属していた。
ハルマは『ウォンバッド』から脱退し
情報の漏洩を恐れた組織がハルマを探している。
だが、当の本人は その所属していた5年間の記憶を失っている。
逃げ出したハルマを匿っているのが
『ウォンバッド』に対立している別の組織で
ハルマの主治医をしている伊丹村サキが所属している。
ハルマは『ウォンバッド』に対向できる力をつけるため
戦闘訓練を受けて過ごしてきた。
高校入学前に、普通の生活を送らせようとの計らいと
情報の漏洩を防ぐため
伊丹村サキの手によって
一時的に『ウォンバッド』の事や自分の今いる組織の事を
忘れさせられていた。
だが、戦い方を覚えて 自分の能力をコントロールして
強さを求める快感を得たハルマは
学校でトールと出会った事で
『バトル倶楽部』を創るまでに至ってしまった。
それにより事態が変わった。
―――――――
「………………なるほど」
アキトの自宅にやってきたトールは
一連の話をアキトに打ち明けた。
アキトは目も歯も復活していて
普通の生活に戻っていた。
学校が冬休みに入ったので学校で会えず
直接、アキトの自宅に訪問して
ハルマと自分に起きてる事態について全て語った。
アキトはテーブルに肘をついて
トールの顔を見た。
「……………で、俺にその話をしたってことは
俺もそれに加わるって事か」
「……………」
「勝手に話して良かったのか?
あの先生にバレたら……………」
アキトは伊丹村サキの
荒治療を受けたので 少しビビっていた。
「………いずれ桐谷君にも知らされる事だと思ったから」
「なんでわかるんだ?そんな事」
「覚えてない?
桐谷君の その体を見た伊丹村先生が
『ウォンバッドが絡んでるかも』って言ってたの……」
「………ああ、そういえば……」
「それに、桐谷君も伊丹村先生が主治医に付いたし
ハルマと戦ってた事も知ってる。
遅かれ早かれ この話は聞かされると思うから」
「それどころか俺 疑われてるんじゃないかな」
「えっ」
「『ウォンバッド』が絡んでるって言われたんだぞ。
あの先生からしたら敵なわけだろ。
主治医に付いたのも俺からなんか情報を得るためなんじゃないか?」
「えっ、ちょっと待って。
桐谷君、『ウォンバッド』との関係は…………」
「俺は知らない」
アキトは「俺」を強調して言った。
「だけど俺が産まれたあの施設が
その『ウォンバッド』と絡んでたのかもしれない。
どのみち俺は殺処分される予定だったんだ。
なんも知らないよ」
「……………ごめん」
「まぁ、樋村の言う通りだな。
遅かれ早かれ 俺も同じ立場になるんだろうから
お前から話が聞けて良かったよ」
「桐谷君………」
「重かったんだろ?」
アキトはトールの気持ちを見抜いていた。
「……………うん、正直言うとね。
でも、ハルマを見捨てる事なんて出来ないし
そんな組織があることも嫌だったから。
『強いられた』なんて言っちゃったけど
自分で望んで そうするって決めたんだ……。
ただ、その『ウォンバッド』って組織が見えなくて恐い」
生徒会との戦いと違い
今度は 本当の戦いに巻き込まれる。
命を落とすような事だって起きるかもしれない。
その世界に足を踏み入れてしまった。
ハルマは常に命を狙われる境遇の中で生きてきたのに
「ついていく」と言った自分が
その境遇についていけるか不安になっていた。
そんな思いをハルマに相談なんて出来るわけがなく
アキトに頼ってしまった。
「これでもうお前一人で抱え込む問題じゃなくなった。
俺も一蓮托生ってわけだな。安心しろよ」
アキトはトールに笑いかけた。
トールはアキトが自分の話を受け入れてくれた事で
気が楽になった。
「ありがとう、桐谷君」
アキトはトールのお礼を聞いて微笑んだ後
深刻な顔をしはじめた。
「清水と武藤はどうするんだ?」
「……………うん」
トールやアキトと同じくらい ハルマとの付き合いがある
レミとユエは 全くこの話を知らされていない。
だが、ハルマと関わっている事実を知られていたら
レミもユエも必然的に加わる事になる。
「黙っていたいけど……ダメかもね」
「………ああ」
トールとアキトは
レミとユエを巻き込んでしまう事に
罪悪感を感じて黙りこんだ。
トールのせいでも
アキトのせいでも
ハルマのせいでもない。
『ウォンバッド』の存在がとても憎くなっていった。