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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆見えない敵 編◆
123/228

交わした約束

「さみー」


「やっぱ室内(なか)に戻ろうよ」


ハルマとトールは 誰もいない病院の屋上に出てきた。

空は晴れてるが風が冷たい。


「誰に聞かれるかわかんねーだろ」


ハルマは 伊丹村(いたむら)サキによって

一時的に忘れさせられていた記憶を全て思い出した。

高校に入学する前、自分は何をしていたか。

そしてトールも ハルマの身に起きている真実を知った。



「………わりぃ」


「……………」


ハルマは一言、トールに謝った。


「………巻き込むつもりはなかった。

オレはただ……自分の能力(チカラ)

コントロール出来るようになって

強いヤツと戦うのが楽しくなってただけで………」


『ウォンバッド』から自分の身を守るため

ハルマは知られざる場所で自分の能力(チカラ)を磨いていた。


高校に入学する前に

自分が身を置いている組織の情報を外部に漏らさないため

伊丹村(いたむら)サキによって細かな記憶を忘れさせられていた。

だが、戦い方を覚えたハルマの『戦いたい』という気持ちと

戦いが染み付いた身体(からだ)は止められなかった。


入学してトールと出会い、トールの強さに引かれたハルマは

旧校舎の屋上を使って戦いを求める生活を送る。


次第に自分がなぜ、そんな事をするのか

思い出し始めていた。



能力(チカラ)を使って自分が世間に存在している(あかし)をする』


『自分が生きていける世界を創る』



どちらもウソではない。

ハルマ自身の思想であり夢である事に間違いはなかった。


ただ、その夢や思想の前に

大きな壁がある事を忘れさせられていただけだった。


「仕方ないよ。記憶を消されてたんでしょ?」


「ああ」


「でも『ウォンバッド』にいた時の記憶は

あの先生でも いじる事や(よみがえ)らす事が出来ないんだよね?」


「………ああ」


「………あれだよね。

要はさ、薄野(すすきの)会長がやろうとしてる事を

もうすでに やってる人達がいるんだよね」


「…………………」


「ただ、薄野(すすきの)会長は

世の中の役に立つ事で 能力者を生かす事を考えてるけど

『ウォンバッド』は違う………」


「…………………」


「あの先生の話を聞く限りじゃ良い組織じゃないんだね」


「…………………」


「逃げ出したっていう記憶はあるんだ?」


「……………ああ」


「なんで逃げたのか、は?」


「…………覚えてない」


「そっか」


二人は横並びになってお互いの顔を見ずに会話をする。

話すたびに 息が白くなる。


「…………怒ってないのか?お前」


「…………」


「今ならまだ引き返せるぞ」


「あの先生は引き返せないって言ってたけど?」


「オレの記憶を消してもらえばいいだろ?」


ハルマは 遠くを見つめながら

トールに自分の記憶の消去を提案しだした。


トールは ハルマの顔を見る。

ハルマは遠くを見つめたまま白い息を吐き出した。


「馬鹿じゃないの」


「あっ!?」


「そんなことしたって意味ないよ。

だから あの先生だってそんな事 言わなかったんじゃない」


トールは(あき)れて ため息をついた。


「それに、僕はそんな事されたくない」


「………!」


「まさか、忘れたの?」


トールは ハルマの目を力強く見つめる。

ハルマはトールが言いたい事を

見つめてくる目だけで読み取ろうとした。

だが、ハルマは言葉を詰まらせる。

トールは再び ため息をついた。



「あーあ、ホントに馬鹿なんだから」


「な、なんだよ!!」


「悲しくなっちゃうよ」


「えっ……!?」


「なんで僕は お前についていこう なんて思ったんだろ」


「………!!」


「僕はお前についていくって言っただろ?」



ハルマは トールの言葉を思い出した。

夏の生徒会との戦いで

ハルマは トールに自分についてきてほしいことを求めていた。


なのに今、ハルマはトールに記憶の消去を提案した。


本当は そんな事など望んでいなかったのに。

その事をハルマよりも、トールが理解していた。




「もう忘れないでよね」



トールは白い息を吐きながら

自分の使命を改めて悟った。

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