追求の末
12月下旬。
学校は2学期が終了し、冬休みへと入った。
街の雰囲気はクリスマス一色になり
にぎやかで明るい光が灯っている。
そんなムードの街中を
ハルマとトールは二人で歩いていた。
「お前も物好きだよな。
ケガも病気もないくせに病院行って何が楽しいんだ?」
「楽しくて行くわけないでしょ。
白神君のお見舞いもあるし、あの先生の事も知りたいし
ハルマの事だって…………」
「それも物好きだっつーの。
わざわざオレの定期検診日に付いてくんなよ」
ハルマとトールは 病院を目指して歩いていく。
―――――――――
「なんだ。『傷痕』か」
到着してハルマの主治医、伊丹村サキの部屋へ入る。
トールは 前回訪れた時と同じで『傷痕』と呼ばれた。
「あの……樋村トールと言います」
「どこか悪いのか?」
「い、いえ、どこも………」
「ハルマはどうした?」
「え、あれ?」
トールは振り返るとハルマの姿がなかった。
ハルマがいるつもりで部屋に入ったのだが
ハルマは何故かトールを独りにして
どこかへ消えていた。
「ハ、ハルマ!?」
「で、貴様は私になんの用だ?」
「えっ!!あっ…………」
威圧感に気圧されるトールは 思わずたじろいだ。
「悪いとこがないなら帰れ」
「あ、あの!お話しを……少し伺いたくて」
「何の話だ」
伊丹村サキは トールを鋭い眼光で睨んだ。
「えっと……いろいろありすぎて何から聞けば………。
あ、あの……先生も『能力者』なんですよね?」
「『能力者』か。ハルマの言い方で言うなら その通りだな」
「他に呼び方があるんですか?」
「そんな事はいい。で、それがなんだ?」
「え、あっ………ハルマとは いつから出会ってたんですか?」
「私があいつの主治医になったのは6年前だ」
ハルマが10才の時に伊丹村サキは
ハルマの主治医になった事になる。
「正確に言うと、6年前じゃ私はまだ医師ではなかったがな。
だが、あいつの面倒を見てやってた」
「……あの、ハルマの……記憶障害って
どんな状態なんですか?」
「芳しくはないな。
貴様はハルマの事をどこまで知っている?」
「……詳しい事は そんなに……。
ただ、幼い時の話は覚えてるみたいで、少しだけ聞きました。
それと、高校に入学するまで
『ケンカに明け暮れてた』って言ってました」
「そうか。
私もハルマの記憶が『消えた』ところを
治してやりたいのだがな」
「消えたところ……?」
「5才から10才の間の記憶だ。
あいつはその5年間の記憶が全くない」
「えっ………そうなんですか。それで、定期的に?」
「ああ」
「あの、『ケンカに明け暮れてた』って、どーゆー事ですか?」
「………」
伊丹村サキは
今まで単調にトールの質問に答えていたが
今の質問には言葉を止めた。
トールの目をジッと見つめ、何かを確かめていたのか
瞬き一つもしなかった。
「あの…………?」
「貴様、ハルマと何度も戦ってるよな?」
「はぁ……入学してハルマと出会ってから
そーゆー関係になったので……」
「教えてやってもいい。
だが、引き返せなくなるぞ。それでもいいか?」
「えっ!?どーゆー事……」
「いいのかどうか聞いてるのだ」
伊丹村サキの質問に
今度はトールが言葉を止めた。
『引き返せなくなる』の言葉が胸を突っかかり
トールの思いを惑わせる。
だが、トールはハルマの事を知りたかった。
初めて出会った友達だから。
ハルマの生き方に引かれたおかげで
今の自分はここにいる。
今さら何があろうと後戻りはしたくない。
トールは決心を固めた。
「……教えてください」
トールは伊丹村サキの
目を見つめ返した。
トールの覚悟を目で確認したサキは
トールに真相を告げる。
「ハルマは狙われている」
「……えっ!?」
「だから自分の能力をコントロールさせ、
襲われても戦える力を備えさせる必要があったのだ。
『ケンカに明け暮れてた』のではなく『訓練』だ」
「ま、待ってください!
狙われてるって、何にですか!?」
トールは思わず前のめりになった。
ハルマの身に何が起きてるのか さっぱりわからない。
トールは焦燥感を抱くしかなかった。
「『ウォンバッド』」
伊丹村サキは
低い声で、トールに聞こえるように呟いた。