Dr.ペイン(ドクター・ペイン)・伊丹村 サキ
長い髪を頭の高い位置に縛り上げて結わいている。
鋭い眼光。見つめるものは強制的に統べる、と目が語っている。
白衣の上からでもわかるほど、大きな胸が
嫌でも目についてしまう。
この女医が神経内科医の伊丹村サキ といい
ハルマの主治医。見た目は20代に見えるが威厳たっぷりである。
伊丹村サキは トールに向かって「服を脱げ」と
命令口調で言ってきた。
「えっ……ふ……服を?」
「さっさとしろ」
女医が立ち上がってトールの胸ぐらを掴んだ。
「ちょっ ちょっ ちょっと待ってください!!!
僕は何も悪いところないんですっっ」
伊丹村サキの視線がアキトに移る。
「じゃあ、お前か………目が見えてないのはわかっていたが。
…………………ふむ、口を開けろ」
「え、口?」
「いちいち質問し返すな」
伊丹村サキの右手が
アキトのアゴを強く鷲掴んで強制的に
口を開けさせた。
「ッ!ッ……………ッ!!」
「………やっぱりな」
アキトのアゴをパッと離すとトールを再び見た。
見られた事に気付いたトールは
蛇に睨まれた感じになり体がビクッと動いた。
「おいおい、もっと普通にやってやれよ。
二人ともビビってんじゃねーか」
ハルマが2人を庇うように言う。
「私のやり方に口を挟むな」
ハルマを睨むと
胸ポケットから銀色に輝くペンのようなモノを取り出した。
軽く振るとシュッと長くなる。
先端が少し尖っている。
「コイツから治してやる」
伊丹村サキが アキトの頭に
手にした銀の棒を当てる。
「え、え、……なっ何を……」
アキトがたじろぐ。
「痛いぞ、覚悟しろ」
ブスッ
「あッ!!あっあぁぁぁぁあッッ!!」
「桐谷君!!」
伊丹村サキは アキトの叫び声など全く気にせず
銀の棒をアキトの脳に突き刺した。
トールはアキトが心配で
この光景が見放せなかった。
突き刺してから10秒くらい経つと
銀の棒を頭から引き抜いた。
不思議な事に先端が刺さった所は血どころか傷すらない。
「―――――――――ッ!あ……」
痛みに堪えてたアキトが目をキョロっと動かした。
トールと目が合う。アキトの目に光が戻った。
「見えてる………!!」
「桐谷君!やっ……やった!良かった!!」
数日ぶりに視力を取り戻したアキトは
自分の手を見たり、周りを見渡した。
その時に初めて伊丹村サキの姿を確認した。
「あ、……ありがとうございます」
「うむ」
伊丹村サキは銀の棒を手に持ったまま
アキトの全体を見ている。
「お前のその体はどこで造られた?」
「―――!?」
「今の日本の製薬技術じゃたかが知れてる。
…………『ウォンバッド』が絡んでる臭いな」
アキトは何の事かわからず、トールも話は聞こえていたが
全く理解出来なかった。
「まぁいい。お前も私が担当してやる」
「えっ……担当……?」
「お前のような『薬漬け』にされた体を
ただの医者が診れると思うか?」
アキトは自分が生まれる前から
人体兵器として育てられた事を伊丹村サキに見抜かれた。
「というかお前、病院へかかったことがないだろ?
その体のおかげで病気知らずなのだからな」
「えっ、そうなの?桐谷君」
「あ、あぁ」
「だから私がお前の主治医になってやる。
困ったら私の所へ来い。
ハルマといい、お前らといい、能力者は
口が固くて腕の良い医者に出会うのは一苦労なのだから」
伊丹村サキは 自分の机の
イスに座り直して脚を組んだ 。
「よ、良かったね!桐谷君。目も元に戻ったし!」
「ああ…………あれ?」
アキトの口から何かが落ちた。
アキトの歯だった。
「あぁ、言い忘れてたが」
伊丹村サキが アキトを見た。
「お前の歯、全部 乳歯だぞ。
どうやら 生え変わる事なくそのまま大きくなったようだな」
「えっえぇぇぇ!?」
トールがビックリして叫んだ。
「ニュウシって何!?」
アキトは乳歯の事すら知らなかった。
「目の神経突いた時に ついでに歯の所もやっておいた」
アキトの口からまた歯が落ちる。
「うわーーーーーーっ!!」
「桐谷君!!ハ、ハルマ!なんとかしてー!!」
「オレがなんとか出来ることじゃないだろ。落ち着けお前ら」
―――――――
「……………なんか凄い人だったね」
「………………」
トールとアキトは 騒ぎ疲れて
若干やつれていた。
3人は病院を出て帰る途中の電車の中にいた。
アキトは歯が全部なくなってしまい、マスクで口を隠していた。
「桐谷君、大丈夫?」
「……………」
アキトは歯がなくなって、ろくにしゃべれないので
頭をコクンと縦に振った。
「レトルトのお粥……買って帰ろうね」
「……………(コクン)」
「まあ、良かったじゃねーか」
「良かったけど………。
どこで知り合ったの?あんな凄い先生と」
「えっ……あー……」
「……………いいや、また今度聞く」
トールは 気疲れしすぎて
ハルマの話を聞くのをやめた。
きっとまたすぐ会うのだから。