ハルマ VS アキト
ハルマは ブレザーを脱ぎすてた。
「すげーな、オレ斬られた」
斬られた右手を掲げて
傷口を観察するハルマ。
血が ポタポタと地面に落ちていく。
アキトは 攻撃を仕掛けに行くことも
身構えて体を守ることもしない。
ただ何もせずに立つ。
それが ハルマ への挑発だった。
ハルマは もう一度構え直して
バチバチ火花を弾けさせて
アキトの視界から消え去った。
さっきと同様 アキトはまったく動じずに
広い屋上の真ん中に
ポツンとたたずんでいるように見える。
ハルマはアキトの真後ろ、
背中に右ストレートをくらわす
構えで背後に現れた。
だが、さすがに今回の攻撃はアキトも読んでたらしく
ハルマのストレートが当たる寸でで
左側に身を傾けて ハルマの攻撃をかわした。
ヒュッと風切り音がする。
「イッ!!!」
ハルマが叫んだ。
今度は左側の腹部の くびれ辺りに
横向きに斬り込みが入った。
シャツが裂けて そこから血が出て
赤くなっていく。
「なんでだ!!?」
ハルマが驚きと困惑で
顔から冷や汗を流した。
「あっはっは!」
アキトが声を高くして愉快そうに笑った。
ハルマもハルマだが
アキトもアキトだった。
人を斬って 愉しそうに笑う。
トールは 恐ろしくなっていた。
アキトの身には
いったい何があったのだろうか。
そしてアキトの未知な能力に
分析をしてみた。
どこかに 刃物のような武器を仕込んでいて
素早く斬っているか
もしくは アキトの周りが真空状態になっていて
俗に言う「カマイタチ」のような
現象が起きているか……
ハルマは 2撃も不可思議な斬撃をくらった後でも
怯むことなく アキトに向かっていった。
今度は高速移動はせず、真っ正面から
殴りかかりに行った。
右 左 右 …の赤い電気をまとったストレート
中段蹴り 左フック……
とにかく当てようと必死に攻撃を
続けるハルマ。
アキトは その動きに合わせるかのように
軽やかに かわしていく。
バスケ部なだけあって その動きは
とても機敏で無駄がない。
そして
ハルマの右耳 左肩 右脇腹 左大腿部 に
斬り込みが走った。
はじめの2撃と同じく 鋭く斬られた部分は
シャツもズボンも斬れて そこから
血がにじみ出した。
斬撃は浅く 体の表面だけを
斬っているかのようで
それはアキトが意図的にやっている事だった。
深く斬り裂こうと思えば いつでもやれる。
そんな余裕の笑みで ハルマの体を
弄んでいる。
「………チッ!」
ハルマが攻撃をやめた。
「楽しいか?赤嶺」
「……」
「お前から誘ってきたんだよな?」
「……」
「俺は愉しいけどな」
ハルマの顔が アキトの挑発により
険しくなった。
トールは…………当然なのだが
ハルマが 苦戦している姿も
血だらけに斬られているのも初めて見た。
本当に危険な事態が起こるかもしれない…
のんびりとした観戦はできなかった。
「……………へっ、なるほどな」
ハルマが右耳から流れてた血を拭った。
「なんとなく わかったぜ」
「……!」
「よし、もう いっちょ!!」
バチンッ バチバチッ
ハルマは また赤い電気をまとって
前屈みの体勢をとった。
高速移動で消えるのか
前から突っ込んでくるのか
どちらをとって向かってこられても
返せるような姿勢で
アキトはハルマを待ち構えた。
ハルマは突進してきた。
右手を拳にして降り構えている。
またストレート……
アキトは かわそうと半歩身を引いた時
ハルマは 拳にしていた手を開き
アキトの右腕を鷲掴んだ。
「!!!?」
一瞬の出来事だった。
アキトの右腕を掴んだ瞬間、
バンッ!!
と、大きな衝撃音と閃光が
アキトとハルマの間から飛び出した。
これは、トールとハルマが初めて決闘をした時
ハルマがトールの顔を鷲掴みして
電流を浴びせた時と同じ攻撃だった。
ハルマはアキトの右腕から
電流を流した。
その衝撃でアキトは
体勢を崩し、ハルマから距離を取るため
身を後ろに引いた。
初撃の先制攻撃 以来の
まともなハルマの電流攻撃を受けたので
アキトの足が少したじろいでいる。
なぜ、アキトの右腕を狙ったのか。
トールはアキトの右腕を よく見た。
「…えっ!?」
トールは思わず声を出した。
「やっぱりな…その手が怪しかったんだ」
ハルマは してやったり と笑った。
アキトの右手が…右手の指が変形している。
その形は 奇っ怪で 歪。
手の皮膚はまるで無理矢理 伸ばしたかのように
ピンと張り詰め 骨が角張って見えている。
その骨はというと 指の先が異常な形に
生え伸びていて 先端が刃物のように尖っていた。
右手の5本指全てが そのような形になり
人間らしい本来の手の形は
跡形もなかった。
化物の手。
「その手でオレを斬ったんだな。
俺の攻撃をかわした時に その手にして斬って
すぐ元の手に戻してたんだろ」
「………ッ」
アキトは電流を浴びた右腕が
痺れて動かず、変形した手のままだった。
ハルマはアキトの異常変形を見破って
変形させた手に変わった時に
腕を痺れさせて 自由を奪った。
アキトの能力を確認するために。
トールは驚いている。
トールも自分の腕を妖怪の腕に変える
能力を持っているが、
あれは妖怪の気を まとっているのであって
アキトのような変形の類いではない。
何をしたら あのような
皮膚と骨格の異常形成ができるのか。
それは 桐谷アキトにしかわからないことだ。
「…バレたか」
アキトは体勢を立て直したが
右腕は痺れが残ってるのか ダランとさせている。
左手で自分の額に手を当てて
うつむいて クックッと笑った。
「あ~… 面白いな、お前」
アキトの右眼からは
まだ不吉な 何かが孕んでいた。