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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆VS 放課後の道化師 編◆
118/228

別人格アキトの腹いせ

戦いの日から3日目の放課後。

トールは ある場所へ向かっていた。



戦いのあった あの日、

アキトは別人格のもう一人に 一時的に体を乗っ取らたが

トール達の呼び掛けのおかげで

体の主導権を取り戻した。


だが、別人格と争った時にアキトは

両目を損傷してしまった。


アキトが言うには「別人格の腹いせ」らしく

「それに付き合ってやらないと」と言っていた。

アキトは目を潰されたことに怒りや悔しさなどといった

感情は持ってなかった。


トールはアキトの「腹いせに付き合う」の

意味がわからないでいた。


ただ、あまりに痛々しく見えたので

トールは自分の能力でアキトの目を治したのだが

「視力」が戻らなかった。


今のアキトは失明状態にいて

3日前から学校を休み、自宅にこもっている。


トールは 当然だがアキトの心配もしていた。




――――――――




アキトの自宅の前まで着いた。


3日前に、失明しているアキトに

家の場所を聞きながらアキトの目の代わりになり

体を支えて自宅まで送ったから家の場所を覚えていた。



ごくごく普通の8階建てのマンション。

1階の一番奥の家がアキトの住んでる所だった。


前もってケータイでアキトに

これから行く事を電話で伝えていたので

インターホンを鳴らすと すぐアキトが出てきた。



「樋村だろ?」


「そ、そうだけど、ちゃんと確認してから開けないとダメだよ!!」


「大丈夫だよ、ウチに訪問者なんて来ないし」


目が見えない事以外は いつもと変わらないアキトだった。

アキトの目には光がなく、(うす)ボヤけて見える。



アキトはトールを自宅にあげて

適当に座ってくれ、と言った。


目が見えない生活をしているせいか

あちらこちらに物が落ちていた。


アキトは部屋の壁や物を手探りで確認しながら

リビングの真ん中にあるテーブルにたどり着いてイスに座った。


「ごめん、何も出せなくて」


「いいよ、そんなの!そんなつもりじゃないから!」


トールも アキトの向かいのイスに腰をかけた。


「………目の調子、どう?」


「痛くもなんともない」


「………僕の能力(チカラ)で全部 元に戻したはずなのに……」


「樋村の能力(チカラ)が効いてないわけじゃないんだ」


「………どーゆー事?」


「アイツが視力を遮断させたまま

意識の中に引きこもったんだよ」


トールは まだアキトの言う意味が

上手く理解できなかった。



「体形変形が出来るのはアイツが俺の体の構造を把握してて

その上で自在に変形させられるのは知ってるよな」


「うん。……それが『腹いせ』と、どう繋がるの?」


「……アイツも俺と一緒の気持ちだったんだよ」


「………??」


「樋村が先輩の名前を呼んでくれた時に気付いたんだ」


「一緒の気持ちって………まさか」


「ああ。そーゆー事だ」


アキトが フッと笑った。


「俺が『殺意』を抱いたせいでアイツに力を与えたように

アイツは『愛』を抱いたせいで俺に力を与えた。

だから戻って来れたんだよ」


「でも、もう一人の君は先輩の事知らないはずじゃ……」


アキトは モモの前で別人格に入れ替わった事はない。

だから別人格のアキトがモモに対して

特別な感情を抱くなど考えられなかった。


「俺たちは意識を別々にしていて体を共有してる。

けど共有してたのは体だけじゃなくて心もだったんだ。

だから俺が好きなものはアイツも好きなんだよ」


「な、なるほど………そういうものなんだね」


二重人格のことについては何とも言えないが

トールはいろいろと心辺りがあるのを思い出した。


「そういえば、生徒会の時任(ときとう)さんと戦った時に

愛歌(ラブソング) 歌え』って言ったりしてたね」


しかし、トールはまだ『腹いせ』の意味がわからないでいる。



「俺はな、みんなも好きなんだよ」


「え?」


「先輩への想いは別として

樋村も 赤嶺も 清水も 武藤も 俺はみんな好きなんだ。友達として。

だからアイツも みんなが好きなんだよ」


入れ替わるたびに殺気を放ちまくり

斬る事に快感を抱く別人格のアキトからは

とてもそうは見えないが、実はみんな好きなのである。

と、聞かされてトールは驚いた。


「あの時、樋村と清水は()を呼び戻そうとしてくれただろ?」


「うん。だって………」


「だからアイツ、自分(・・)を見てもらえなくて()ねたんだよ。

『俺もみんなが好きなのに』って感じだな」


「え……えぇ!?」


「だからこの『腹いせ』をされたんだ」


アキトは自分の目を指して苦笑いした。


「付き合ってやらないと、って言ったのは

そーゆー事だったの?」


「ああ。子供みたいだろ?

でもアイツと俺は一つの人間だから」


「……………」


トールはようやくアキトの言った意味が理解できた。


「気が済んだら、視力を返してくれるって事だよね?」


「たぶんな。いつになるかわからないけど」


「そ、そっか………」


トールは 頭をかいた。

あの日、確かにアキトを呼び戻したくて

別人格のアキトを邪魔者扱いしてしまった。

当のアキトですら別人格を邪魔扱いした。

知らなかったのだから仕方ないのだが

トールはちょっと可哀想な事をしたな、と複雑な気持ちになった。



「えーと、うん………じゃあ

もう一人の桐谷君に伝えてくれる?」


「何を?」


「『また屋上で会おう』って」


「……………わかった」


アキトは口元をニッと上げて笑った。



テーブルをはさんでアキトはトールの方を見ている。

視力は働いてないのだが。


「どうしたの?」


「惜しいシチュエーションだよなーって。目が見えてたらなぁ……」


「……僕は自分の身にキケンを感じたら

目が見えてようが見えまいが

関係なく全力で引き裂くよ、桐谷君」


「すまん、嘘だ」




相変わらず、変な思考のアキトに

鋭い突っ込みをいれるトールだった。

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