白神ユウヤの気持ち
白神ユウヤの仕業による 『眠り』の騒動は
何も知らない一般の生徒たちや教員が目を覚ました後
パニックになるのではないかと思われた。
だが、意外にも その日の内に騒ぎは収まり
騒ぎ立てる生徒も出なかった。
ハルマと一緒に学校に戻ってきたトールは病院での出来事を
事情を知っている5人 (ソウタ、エナ、リュウ、レミ、アキト)に
全部話した。
話した上で、トールがある事を切り出した。
―――――――――――
翌日。
トールは ソウタ、エナ、リュウ、レミと共に
白神ユウヤの入院している病院へ訪れた。
ユウヤのいる部屋の扉をトールがノックすると
ユウヤの祖母が出てきた。
トール以外の生徒を連れてきた事に顔を驚かせている。
トールが 昨日と同じで、突然お見舞いにやってきたことを
詫びると、ユウヤの祖母は
ニッコリ笑って5人を室内へ招いた。
「ユウヤ、樋村さんがお友だちを連れてきてくれたよ」
祖母が 寝たきりのユウヤの耳元でつぶやいた。
「みなさん、ありがとうね……ユウヤのために」
祖母が、トール達に向かって一礼すると
「飲み物を買ってくる」と言って部屋を出ていった。
「…………本当にこの子が あの道化師?」
レミが ユウヤのベッドに近付いて
顔をまじまじと見た。
「全校生徒を『眠り』に追いやったうえに
4人の思念体を作り出して能力まで持たせるなんて
かなり驚異的な能力者だな」
薄野ソウタはユウヤを見て感心した。
「しかし……相当な精神力を使ったのではないでしょうか?」
布施リュウが ユウヤの能力に
自分と同じ能力を感じて分析をしはじめた。
「彼は、『夢』の中で描いた事を現実にする能力者なのでしょう。
『眠る』事を条件に発揮できる能力だと思いますね……。
ただ、一度も登校したことがないのに学校の事を知っていた事と
我々の事を知っていた事がわかりませんが……」
「それは白神君が、ハルマの脳を見たからだと思います」
「何?」
トールが ハルマの身に起きたことをもとに
自分の推測を皆に話した。
「ハルマは眠らされる前に、思念体の白神君と この病院の屋上で
出会ったと言ってました。
白神君は偶然、同じ学校の制服を着ているハルマを見つけて
呼び寄せただけみたいなんです。
けど、ハルマは自分が能力者であることを明かして
白神君に興味を持たせてしまったんです。
その後の記憶がないと言ってました。
その時に……白神君はハルマの『脳』を覗いて
僕らの事を知ったんだと思います」
「他人の『脳』を見る能力まであるということか?」
「たぶんですけど………それ以外に
白神君が僕らの事を知る理由がないので」
「なるほどな………」
「それで、僕らの事を知った白神君は
自分の能力を使って思念体を作り出して戦わせたんです」
トールはユウヤの顔を見た。
ユウヤは昨日と変わらない表情で眠っている。
「白神君は学校に通いたかったんです。
友達を作って、勉強して……
それが出来なくて寂しかったんだと思います。
きっとそれが白神君の能力を目覚めさせたんだと……」
「最初に見た『脳』がハルマ君だったからか。
きっと屋上で君らと能力をぶつけあうのを見て
真似をしたんだろう」
「はい………」
トールは 白いトランプのカードを取り出した。
絵柄が全て消えてしまい、ただの真っ白いカードになっていた。
「白神君は自分の能力を発揮しすぎて
精神力を使い果たしてしまったんだと思います。
昨日、このカードにハルマの居場所を記してくれましたが……」
真っ白になってしまったカードを見て
能力が使えなくなり、ただの眠りに就いている状態に
戻ったのだと推測した。
「ハルマの前に思念体で現れた事ができたのに
僕が来た時には現れなかった……。
もう思念体で動く力がなかったんです」
トールは 病室に備え付けてある棚からユウヤの使われていない
新品同様の教科書を取り出した。
「見てください」
トールは 『歴史』『地理』『図形』『国語』の
4冊の教科書をソウタ達に見せた。
「布施先輩が戦った思念体の能力は『歴史戒器』。
『歴史』です」
「……!」
同様にレミ、エナ、アキトがそれぞれ戦った思念体の能力を
トールが教科書に当てはめていった。
『凸凹地平』 → 『地理』
『○▲□(トライラッシュ)』 → 『図形』
『一文字誉』 → 『国語』
「全部、教科に関わる能力になってたの!?」
レミが目を丸くして驚いた。
「なんで教科に当てはめたのかしら……?」
「白神君は学校に憧れてたんだよ。
学校で勉強したり、友達と遊んだりすることに。
それが、ハルマの記憶を見た事で
あんな形になっちゃったんだと思うんだ」
トールは再びユウヤを見て
ベッドに近付いてしゃがんだ。
「最後に自分を見付けるように仕向けたのは
本当の自分に会いに来てくれる人を求めていたんだよね……?」
トールはユウヤに問いかけるように言った。
返事はなかった。
だけど、呼吸器から漏れる息の音が
一瞬だけ大きく響いた。