眠りながら目覚めた能力
トールは ソウタから渡されたメモを
右のズボンのポケットにしまった。
学校を『眠り』に陥れ
能力者である者たちを無理矢理 巻き込み
戦わせた『道化師』の正体
白神ユウヤのいる病院へトールは行くことになった。
アキトに襲われた時の傷や衣服の損傷を
自分の「青龍」の能力で戻した。
アキトに自分の制服のブレザーを被せているので
ソウタがトールにブレザーを貸した。
サイズが大きかったので腕の裾を少し捲り上げる。
「行ってきます」
トールは 皆に向かって言うと
振り返らずに学校を出ていった。
ちらっとケータイの時計を見る。
―――午後2時30分。
白神ユウヤのいる病院は
学校から一番近い電車の駅から4駅目の所にあるとわかった。
大きい病院なので、病院前で停まるバス停もあった。
病院までなら1時間以内でつく。
放課後の時間帯までに
白神ユウヤと ハルマを見つけなければならない。
トールは 電車に乗って病院へと向かった。
電車に揺られている途中
トールは ふと入学して間もない頃を思い出した。
8ヶ月前――――――
まだ同じクラスメートの名前すら わからず
初めての学校に興奮していた。
周りをキョロキョロ見渡して 早く学校に馴染みたいと
ワクワクしていた。
クラスメートが全員席に着くと
ひとつだけ、空の席があった。
次の日も、その次の日も
その席に座る生徒を見かけなかった。
しばらくして………
気がついた時には その席はなくなっていた。
あそこには間違いなく白神ユウヤが
座るはずだったのだ。
駅を降りると、すぐにバスに乗り換え
10分ほどバスに揺られ
目的の病院へ到着した。
この地域の一番の広さを誇るであろう大病院の入り口を通過し
白神ユウヤのいる病棟を探した。
ソウタがくれたメモに部屋の番号まで記されいた。
「……!」
トールは ブレザーのポケットに
何か入っているのに気づいた。
取り出してみると白いトランプのジョーカーに
『 H 』が書き込まれているカードだった。
道化師が最初に現れた時
生徒会室に置いていったカードの一枚。
トールはメモと一緒にカードも握りしめて
大病院の奥へと足を踏み入れた。
トールはメモに書かれていた
病棟の部屋の前まで辿り着いた。
個室のようで部屋の番号の下には
『白神ユウヤ』の名前しかなかった。
トールは扉の前で立ち止まって呼吸を整えた。
いざ、となると変な緊張感が襲ってきた。
相手も間違いなく『能力者』で
少なくても他人を『眠り』に追い込む事が出来る。
扉を開けた途端、襲ってきたらどうしよう………
能力者とはいえ、ここは病院だし
相手は病人………
と、頭の中でグルグル考えていたら
トールの後ろから 老婆が声をかけてきた。
「誰だい?ユウヤの友達かい?」
「!!………あっ、えーと!!」
老婆の声に気づいたトールは
「ユウヤ」と名前を呼んだ老婆を
白神ユウヤの祖母だろうと思い
言葉を選んで話し出した。
「同じ高校の……同じクラスの樋村と言います。
先生に白神君の話を教えていただいて……
一度も登校されてないのを聞いて
気になって会いに来たんです」
トールは、笑顔を作って怪しまれないように振る舞った。
すると、老婆がにっこり笑った。
「そうかい。わざわざありがとうねぇ」
「いえ、突然来てすみません。
白神君にお会いしても大丈夫ですか?」
トールが尋ねると老婆は笑顔のまま
悲しそうな声で 話し出した。
「良いとも。ぜひ、声をかけてあげておくれ……。
もしかしたら、脳に良い刺激になって
目覚めてくれるかもしれないからねぇ」
「え………?」
「ユウヤは手術の後から ずっと眠ったままなんですよ」
老婆がトールの前に出て
病室の扉を開けた。
「どうぞ」
老婆は扉を開け、トールを
白神ユウヤのいる室内へ導いた。
トールは静かに歩いて病室へ入る。
広い個室の窓際のベッドに
夕暮れ前の陽の光をやわらかく浴びて
静かに眠っている白神ユウヤに初めて対面した。