scene5 ― 桐谷アキト ― アキト VS アキト
アキトが見境なく 暴れ
地面を砕き 敷地を囲うネットを斬り裂き
逃げ回るトールを追いかける。
トールは 右手を「白虎」にしていたが
アキトを攻撃するためではなく
白虎化した時に上がる身体機能で
素早く動き回ってアキトの攻撃を回避していた。
トールは部室に近寄らせてはいけないと
部室から正反対の方向へ逃げた。
部室にはまだ若林モモが眠っている。
テニスコートの敷地を出て校庭へ
誘きだそうと考えた。
トールは校庭へ全力で駆けていく。
「―――!!?」
校庭へ行くと レミがユエを抱えて
校舎内へ戻ろうと歩いているところに遭遇してしまった。
レミが 走ってくるトールと追いかけてくる怪物に気付く。
「トール君!!?」
レミは怪物が まだアキトだと気付かない。
だが、ユエを抱えてるので構えることも出来なかった。
トールは軌道修正をしたかったが、
もし狙いを自分ではなくレミとユエに変えてしまったら
二人が危ないと思い、レミとユエの前に来て立ち止まった。
トールは 右手の「白虎」を消して
左手の「玄武」を召喚した。
緑色の気が3人をドーム状に包み込む。
アキトの攻撃は「玄武の甲羅」によって防がれた。
それでもアキトは目の前にいる3人を襲おうと
刃をぶつけていく。
「え、……ア……アッキー!?」
レミが 自分たちに迫ってきた怪物がアキトだと気付いた。
「何があったのトール君!?」
「ごめん、巻き込むつもりなかったのに……」
トールは ゼーゼーと息をはずませながら
レミとユエを見た。
ユエはまだ起きる様子が見られず
レミは戦いの後だったので体は擦り傷と泥でまみれていた。
ユエを抱えたレミを校舎へ走らせたとしても
アキトが狙いを変えてしまったら2人が危ないし
校舎内にまで被害がおよんでしまう。
だから「玄武の甲羅」で自分ごと2人を守るしか方法がなかった。
「道化師の思念体には勝ったんだ。
でも、その前に桐谷君は別人格に乗っ取られちゃって……」
「じゃ、じゃあ本当のアッキーは………?」
「わからない……」
トールが絶望的な顔をして下にうつ向いた。
レミは トールの言葉を受け止めると
攻撃の手を止めずにぶつかってくるアキトに向かって叫んだ。
「アッキー!!起きろぉぉッ!!」
「清水さん……!」
「トール君も早く!アッキーに呼び掛けるのよ!!
アッキーーーーッ!!!」
レミが大声でアキトの名前を叫ぶ。
トールもレミの行動を受けて叫びだした。
「桐谷君ッ!!」
「アッキーーーッッ!!」
レミとトールが必死でアキトの名前を叫び続ける。
アキトは 全く聞こえていないように
2人の声を無視して「甲羅」を攻撃する。
「あたし達がわからないの!?アッキーーー!!」
「桐谷君!! お願い、戻ってきて!!」
2人の叫びは アキトに伝わらない。
「甲羅」の壁をガンッガンッと叩き続ける。
「若林先輩を助けるんじゃなかったの!?」
トールがモモの名前を出すと
アキトの右手の刃が わずかに動きを止めた。
「!!」
トールはその異変を見逃さなかった。
「桐谷君!先輩を助けに行こう!!」
レミも アキトの動きが鈍ったのを見てトールに続いた。
「モモちゃん先輩が待ってるわ!!アッキー!!」
「桐谷君じゃないとダメなんだよ!!」
アキトの動きが鈍るものの、いまだに攻撃は止まない。
「桐谷君が求めてるモノを見つけたいんじゃなかったの!?」
「――――――ッ」
アキトの体が止まった。
まだ背中の翼や腕の刃が震えているが
何かに押さえつけられているかのように
動かせなくなっていた。
トールは 本物のアキトが
意識の中から別人格のアキトを抑えている……と感じた。
本物のアキトが 自分の体の中で戦っている。
トールとレミの呼びかけに気付いたんだ。
トールはそう思って再びアキトの名前を叫びだした。
アキトの体が軋みながら元の形へと戻ろうとしている。
顔は激しく歪み、悶え苦しんでいる。
本物のアキトと別人格のアキトが
体の主導権を巡って争っているのがわかった。
「桐谷君!!」
「アッキー!!」
アキトが 激しい咆哮をあげる。
獣のような咆哮が校庭に響き渡っていく。