scene4 ― トール・ソウタ ― 道化師の正体
『白神 ユウヤ』
ソウタが見つけた ある一人の男子生徒の名簿。
名前の隣に『1年 A組』と載っていた。
「僕と同じクラス……!?
でも、会ったことないですよ」
同じ 1年 A組となっているが
トールは「白神 ユウヤ」を知らなかった。
一重まぶた で小さな目。
色白な肌と耳が隠れるほどまで伸びた髪。
目立たなそうなタイプの生徒といえばそのタイプだが
学校に登校していなかった。
「………持病を抱えているようだ」
ソウタが「白神 ユウヤ」の名簿録に指を置き
休学になっている原因を見つけた。
「入学直前になって持病が悪化して
一度も登校することなく休学届けを出されたようだ」
「そしたら、なんで皆を眠らせてまでこんなことを……」
「それは本人に聞くしかない」
ソウタは別の棚に移動して
手当たり次第 「白神ユウヤ」の住所録を探した。
「どこの病院にいるか突き止めよう」
ソウタは 「白神ユウヤ」が
学校を『眠り』に襲った道化師だと断定している。
「でも……なんでこの人とハルマが……?」
トールは 繋がりの全く見えないまま
立ち尽くして考えた。
「ハルマ」「病院」「記憶障害」
「能力」「白神ユウヤ」「眠り」
トールの頭に 様々なキーワードが飛び交う。
ソウタが突然 手を止めた。
目を瞑って何かを感じとるような姿勢になった。
「リュウが勝った………エイジを担いで戻ってくる。
清水さんも勝ったぞ。武藤さんを抱き締めて泣いてる」
ソウタは『空掌握者』の能力で
空間内にいる全員の状況を感じとる事が出来る。
リュウとレミが 番人を倒して
人質にされていたエイジとユエを取り返したのを確認した。
「エナは苦戦してるな……」
「そんな!」
「大丈夫だよ。エナを怒らせたら とんでもないからな」
ソウタは まるで心配ないかのように軽く微笑んだ。
「桐谷君は……?」
トールが聞くと ソウタの目に力が入った。
同時に眉間にシワが寄った。
「………何か様子がおかしい」
「えっ!?」
「どうしたんだ、彼は」
「苦戦してるんですか!?」
トールの問いに少し間が空いた。
ソウタは目を閉じたままアキトの戦局を探っている。
「彼の体が変形していない」
「!?」
「素の……主人格の自分のまま戦っているんだ」
「なんで!?……この状況で!?」
アキトは別人格の もう一人の自分に体を譲らないと
体形変形能力は使えない。
戦いならば 別人格に入れ替わるはず。
だが、アキトはそれをやらずに
主人格のまま戦っているという。
「モモちゃんの事を気にしてか?
だが、道化師の能力で今は何をしても
起きないとわかっているはずだよな?」
「はい、知ってるはずです」
「このままじゃマズイぞ」
ソウタの言葉を聞いてトールは
手に持っていた「白神ユウヤ」のファイルを机に置いた。
「桐谷君の所へ行きます!!」
トールはソウタの返事を聞く前に
走り出して職員室を出ていった。
もともと道化師の正体を突き止めるために
ソウタと職員室へ来た。
正体の目星が「白神ユウヤ」だとついたなら
自分は もうここを離れてもいい。
トールの独断だったが
ソウタの返事は間違いなく「行ってくれ」だった。
トールは急いでアキトのいる
第1運動場へと走っていく。
なぜ、能力を使わず戦っているのか。
それとも相手の能力か何かで
封じられてしまったのか………
とにかく、自分が着くまで
アキトの無事を祈るしかなかった。