scene3 ― 美作エナ ― ENVY
ガラガラと音を立てて
工芸室の壁が崩れていく。
命を得て動く鋼鉄は エナの指示を
待ちわびているかのようだった。
『……いいの?建物を壊したら
叱られちゃうんじゃない?』
少年は笑っていたが
顔には少し焦りの表情が見てとれた。
「樋村くんにお願いするから大丈夫よ」
エナは前に一歩踏み出した。
同時に鋼鉄もエナの動きに合わせて前に進みだした。
4つあるうちの1つの「球」が
エナの元に迫った。
だが、「球」はエナに直撃する前に
鋼鉄がエナを守るように全身を降り、打ち返した。
「球」は天井を貫通し工芸室から姿を消した。
同様に残り3つの「球」も
鋼鉄が全て弾き飛ばして
壁や天井に めり込ませて動きを止めた。
道化師少年の手には
「三角形」と「四角形」だけになる。
『………フン!』
道化師少年は 顔をしかめて エナを睨んだ。
『球を失ったって関係ないよ。
キミはボクに勝てないんだから』
「それは『強がり』と言うんじゃなくて?」
『………これを見ても そんな事が言えるかな』
道化師少年は「三角形」と「四角形」を合体させた。
「!!」
『「五角形」』
「三角形」の鋭利な刃先と
「四角形」の強固な盾が
ひとつになった「五角形」
名前の通り、少年の周りには
手のひらサイズになった紫色の「五角形」が
幾つもの数になって宙を浮かび ギラギラと光っていた。
『これだけの数の星を打ち返せるならやってごらんよ!』
道化師少年は 手を前に出すと
数えきれない程の「五角形」が
エナに向かって飛んでいく。
「打ち返す?」
エナは 鼻でフッと笑った。
「そんな必要ないわ」
エナが両手で鋼鉄をなでると 鋼鉄が変形していく。
鋼鉄は まるで柔らかい絹糸のようにほどけて
サラサラと煌めきながらエナの周りを囲んだ。
「五角形」は
極細の鋼鉄の糸に絡まって動きを止める。
幾重にもなって飛び交ったはずの星は
鋼鉄で出来た蜘蛛の糸に架かって
エナの元に届かずに役目を終えた。
「大事な武器を ひとつにするべきじゃなかったわね?」
『ッ……………クソォ!!』
道化師少年は エナに背を向け逃げる素振りを見せた。
「ダメよ」
エナが キッパリと言うと
道化師少年の近くの壁から鋼鉄が
ボコッと飛び出て少年の体を縛るように絡み付いた。
他の鋼鉄たちも蛇のようにジリジリと近づき
道化師少年の周りを取り囲んだ。
『ウワァァァァァァァァ!!!』
「消えなさい」
容赦のない冷たい言葉が放たれる。
まるで棺桶に無理矢理閉じ込めて
地面に沈めるかのように
道化師少年は鋼鉄と共に地面に沈んでいった。
少年の叫び声は 少年が完全に沈むと
ぷっつりと消えた。
ボロボロに半壊した工芸室を見渡したあと
エナは備品庫の扉を開けた。
ペンキ臭い備品庫の奥の棚に
寄りかかって眠るイズミを見つけて顔を撫でた。
冬の冷たい冷気でイズミの頬は
ひんやりしていた。
「イズミ…………」
エナは 何も知らず眠り続ける
イズミの顔を見て微笑んだ。
けど、少し淋しげな顔もした。
「昔は『エナちゃん』って呼んでくれてたのにね……
今は『レミちゃん』ばっかりなんだから」
エナは変な嫉妬感に襲われた。
だが、頭を横に振った。
イズミの頭に被っていたホコリを
優しく払うとイズミの体を持ち上げて
ゆっくりと歩いて工芸室を出ていった。
――――――――……
~ 職員室 ~
薄野ソウタと樋村トールは
リュウ、エナ、レミ、アキトが
それぞれ任された場所に行って戦っている間に
あることを調べていた。
「俺の……考えが当たっていれば……」
ソウタは職員室にある
ファイルだらけの棚に手を掛けて
ある名簿を取り出した。
「なんですか? それ……」
トールは ソウタが手にしたファイルを
見つめて怪訝そうな顔をした。
「この学校を襲った『道化師』は この学校の生徒だ」
「え?」
「だが、ここにはいない………。
いや、ここに来れないんだ」
「!?」
ソウタの推測がトールに語られる。