scene3 ― 美作エナ ― 怒りの鋼鉄聖女
左肩と背中に傷を負わされ
気力で持ちこたえているように見えるエナを
道化師少年は ずっと嘲るように笑っていた。
それでもエナは挑発や怒りに
任せることなく、冷静に手段を考える。
『もっと面白くしてあげるよ』
「!?」
道化師少年の手に「球」が戻った。
両手で「球」を持ったかと思ったら
次の瞬間には「球」が2つになり
2つになった代わりに「球」の大きさが半分になって小さくなった。
道化師少年はそれをまた2回繰り返す。
ハンドボールくらいの大きさの「球」が
全部で4つになった。
4つの「球」が放たれる。
1つあっただけでも 煩わしかったのに
数が増えてしまった。
エナはあちこちにぶつかって飛び回る「球」を
目や気配で追う。
隙を見て道化師少年に槍を突いたが
「四角形」で塞がれた上に
「球」を脚と右腕にくらう。
よろけると少年が「三角形」を降り下ろして
攻撃してくる。
なんとか かわすがエナは壁際に追い込まれた。
冷たいコンクリートの壁が
エナの背中に当たる。
「ッ…………!!」
『もう おしまい?』
道化師少年が「三角形」を手にエナに迫る。
『そうだね、壁に張り付いていれば
「球」は正面からしか飛んでこないから避けられるもんね』
エナは少年の顔を睨んだ。
槍を構え、これ以上は近づくなと威嚇する。
『負けを認めちゃえば楽になるのに』
「………そしたらイズミを取り返せない」
『そのせいでキミが傷付くんだよ?』
「こんなの なんともないわ」
道化師少年は面白くない、と不機嫌な顔をした。
そしてガッカリしたように言う。
『キミは「強い人」じゃなくて「強がりな人」だったんだねぇ』
この言葉にエナの瞳孔が カッと開いた。
「これが強がりですって?」
エナの声が震える。
「大事な仲間を助けるために来て
強がりなんか見せると思う……?」
右手に力が入り ビリビリと
エナの怒りが 空間を響かせた。
「大馬鹿者ね。もういいわ」
『……? 何? あきらめるの?』
次の瞬間、エナは構えていた槍を
少年ではなく背後の壁にズンッと突き刺した。
『!?』
「気絶だけで済ませようと思ってたけど もういいわ」
突き刺した槍のところから
コンクリートの壁に亀裂が入っていく。
そして壁の中から
建物を支えるために壁の中に埋め込まれている
鋼鉄の支柱が 壁を突き破って何本も出てきた。
壁は半壊してコンクリートの破片が ガラガラと崩れていく。
『工芸室を壊すつもり!?』
鋼鉄の支柱が まるで蛇のように
ぐにゃぐにゃと動き回るのを見て
少年は焦りの顔を見せた。
「備品庫さえ無事ならいいわ」
エナは 道化師少年を鋭い目つきで見据えた。
「あなたの顔は二度と見たくない」
冷たい鋼鉄を従えて 聖女が歩き出した。