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放課後バトル倶楽部  作者: 斉藤玲子
◆VS 放課後の道化師 編◆
103/228

scene3 ― 美作エナ ― イズミの笑顔

エナとイズミの過去です。

最後に現実に戻ります。

美作(みまさか)エナが 2年生の時の頃。

今の生徒会が出来たばかりの時の事。

旧校舎の屋上に イズミ以外の4人が集まっていた。



「あら」


エナが足元に違和感を感じて下を見た。

エナの足が自分の影の中に沈んでいる。

だが、エナは特に驚かなかった。


「イズミが呼んでるわ」


「また美作(みまさか)か。アイツ 女たらしやな」


「副会長、ですよ。エイジさん。

貴方 イズミさんに嫌われてるんじゃないですか?」


「じゃかあしい!お前だって嫌われとんのとちゃうか!?」


「おーい、イズミー。4時までには帰ってこいよー」


エイジとリュウが いがみ合う中で

ソウタは影に向かって言った。

エイジも リュウも ソウタも

エナが影の中に引き込まれようとしても

特に心配するような顔ぶりではない。


「大丈夫よ、私がいるもの」


エナは微笑むと影の中へと沈んでいった。




イズミの能力(チカラ)による影の世界『不明(アンノウン)

音も 光も 重力も 全てが無くなる暗闇の世界。


影の世界が、もともとこういったものなのか

それともイズミの心が投影されているものなのか


それは わからなかった。





イズミは たまに情緒不安定になる時があった。

中学時代の事件を起こさせないために

心が不安定になったら 仲間の中から誰でもいいから

影の中へ引き込んで構わない………とソウタが教え込んだ。


なので全員 いつ、イズミに影の世界へ

引き込まれてもいいように心構えができていた。


その中で 圧倒的に引き込まれるのが

多かったのがエナだった。




「イズミ」


影の世界でエナが呼びかける。

だが、無音のままだった。


「……また独りにさせる気ね。いじわるなんだから」


エナは ため息をついた。


「ソウタ……じゃなかった、会長の声 聞こえてたでしょ?

4時には帰るわよ」


『えー』


イズミの不服そうな声が響いた。


『ここにいたい』


「みんなが心配しちゃうわ」



エナの前に フラリと イズミが現れた。

いつも笑顔をつくっているイズミは

エナの前に出た時も顔は笑っていた。


「エイジに殴られたくないでしょ?」


「やだー」


「じゃあ 4時まで一緒にいてあげる」


「じゃあさー じゃあさー」


「何?」


「ひざまくら してー♪」


ニコニコ笑ってご機嫌そうなイズミを見て

エナは仕方ない とでも言いたそうに また ため息をついた。



「わーい」


エナが何も言う前に イズミはエナに抱きついた。



これが リュウなら ボコボコにしているところだが

イズミは無邪気な子供のようだったので

そういう気持ちにならなかった。

不思議と母性本能が働いてしまう。



エナの太ももを枕にしたイズミは

コロッと寝返りをうつ。

2人は会話を続けた。


「不思議ね」


「何がー?」


「この世界が」


エナは影の世界を見渡す。

見渡したところで暗闇しかないのだが。


「普通なら怖くてここから出たいって思うでしょうね。

でも、音も光も感じない この中で

あなたは ()えてみせた」


エナは イズミが能力(チカラ)の開花につながった時の話をしている。


イズミは両親からの虐待で狭くて暗い中に数日間 放置された。

その時のショックで この能力(チカラ)が使えるようになった。


「あなたが耐えてみせた世界を今、私も共有している。

………あなたが どんなに辛くて悲しくて苦しい思いをしたか

すごく伝わってくるわ…………」


「………………」


「でも、スゴいのね、イズミは。

この世界を逆に自分のモノにしたんだもの。

すごく強い男の子よ」


「子ってつけないでっ」


「すごく強い男よ」


エナはクスっと笑った。



「エナちゃん、お母さんみたい」


「そう?」


「お母さんになって」


「それは無理ね」


「じゃあ付き合って」


「私は会長に忠誠を誓ってる」


「ちぇ」



イズミは ふてくされた。

エナはイズミの頭を優しく撫でた。


「でも、あなたの事も好きよ」


「ほんと?」


「ええ、強い男だもの」


イズミが嬉しそうにエナの顔を見上げた。


「強い男は好きよ」


「………えへへ」



イズミが照れくさそうに笑った。



エナは この時のイズミの笑顔を

「本物の笑顔」だと感じた。





エナはイズミの頭に手を置きながら思った。


イズミは 暗闇の世界を味わわせるために

人を引き込んでるのではなく

寂しさや孤独を知ってもらうためだけではなく


自分を認めてもらいたいだけなのではないか?


暗闇の世界を制覇できた自分を褒めてもらいたいのではないか?




イズミをいじめていた男子生徒へも

怒りや復讐で影の世界に引き込んだのではなく

「自分が打ち勝った世界」を見せて

強い男だと言いたかったのではないか?




本人の口からは聞けなかったが

さっきのイズミの「本当の笑顔」を見たときに

エナは そう思った。





――――――――――……




工芸室の備品庫の扉が

道化師少年の後ろに見える。


道化師少年は相変わらずケタケタ笑っている。



「かわいそうに………あなたばかり閉じ込められるなんて」


エナの体に力がみなぎった。

折れた槍の先を復元させ、道化師少年に切っ先を向けた。




――――イズミの笑顔を見たい




「必ず取り返すわ」


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