scene3 ― 美作エナ ― クローバーの道化師
生徒会 副会長 『鋼鉄聖女』の異名を持つ
美作エナは、同じ生徒会の仲間で拐われた影井イズミを
救出するため イズミが眠らされている
工芸室の備品倉庫を目指して走った。
校舎から離れた所にある工芸室は
美術や技術の授業に使われたり、美術部の生徒が利用する所。
金属を自在に変形させ、操る能力を持つエナにとっては
金属性の物があれば何にでも対応出来ると考え
有利な戦場になるかと思っていた。
工芸室に着き、扉を開ける。
開けた瞬間 エナに向かってある物が急接近してきた。
「!!」
エナは反射的に体を右に反らして
迫ってきた物をかわした。
振り返って確かめると それは黄色の「球」だった。
「………!?」
球はワンバウンドしてポンッと上に弾んで その場で浮いた。
『あー手が滑っちゃったよ』
「!!」
工芸室の中を見ると クローバーの模様の服を着た
道化師の少年がいた。
少年の後ろには「球」と同じような感じで
プカプカと宙を浮いている赤色の「三角形」と
青色の「四角形」があった。
エナは すぐにこの3つがクローバーの道化師少年の
能力に関わるものだとわかった。
エナは工芸室に入り、道化師少年と対峙した。
『お姉さん、強い人だね』
「ええ、強いわよ」
『楽しみだな』
道化師少年は クスリと笑って飛び跳ねた。
すると「球」がひとりでに動き始め、壁や床にぶつかっては跳ね返り
工芸室の中を自由に跳ね飛ぶ。
不意にエナの方に跳んできて、エナはそれを避ける。
スピードは見切れる。
弾むだけで周りのモノを壊さないのを見る限り、破壊力はない。
だが始終 跳び回って気が散ってしまう。
『それじゃあ始めよう』
道化師少年が赤色の「三角形」を手に掴んだ。
大きさは「球」より少し小さめだが、
先端が鋭利に見える。
「四角形」は少年のすぐ近くを浮き
少年の動きに合わせて一緒に動く。
道化師少年が戦闘体勢に入るとエナも構えた。
ブレザーの内ポケットから
細いリング状に作られた貴金属の束を取りだし
右腕に通した。
シャランッと音を立て 右腕に収まった金属に命令をする。
金属はグニャリと変形し、
夏休みにトールと戦った時に出した同じ形の
「槍」を造り出して構えた。
道化師少年がエナに向かって飛び出すと
エナも飛び出した。
「槍」と「三角形」がぶつかり合い
ギィンッ!!と鳴り響いた。
道化師少年が操る「球」も「三角形」も「四角形」も
素材は何で出来ているかわからないが
エナは「三角形」の破壊を試みて
何度も槍を突いた。
道化師少年は やや押されながら
槍の攻撃を「三角形」で受ける。
少年の顔は ニヤニヤしていた。
「何が可笑しいのかしら?」
エナは気に障って 刺のある言い方で少年に言った。
『だって、忘れてるでしょ?』
「!?」
その時だった。
エナの背中に「球」がぶつかってきた。
「あッ!!」
ぶつかった衝撃で体勢を崩したエナを狙って
少年の手から「三角形」が降り落ちる。
ザシュッ!
エナは左肩に切り傷を負った。
「くっ!」
すぐに立て直して少年から距離を取る。
道化師少年は ケラケラ笑ってエナを馬鹿にした。
『ダメだよー、ちゃんとよく見ないと♪』
「球」はエナの邪魔をするように弾み回り
「三角形」は体を傷付ける。
「四角形」の役割は謎のまま。
エナは間合いを取って少年を睨む。
道化師少年はケラケラ笑ったまま
得意そうにしゃべった。
『ボクの「○▲□(トライラッシュ)」は まだ本気じゃないよ』