scene2 ― 清水レミ ― 「地」を喰う女
『!!』
道化師少年は 目を疑った。
己の能力で地形を変えた校庭の地面から
人の形をした物体が 次々と地面から這い上がるように
出現してきた。
数にして10体の土の人形は
「レミ」の形をしていた。
10体の「レミ」は道化師少年に一斉に襲いかかる。
少年は向かってくる「レミ」の足の下から「柱」を
何本も出して「レミ」を壊した。
だが、壊した先から「レミ」は復元していく。
復元した「レミ」は すぐ少年に向かって飛びついていった。
『くっ!!』
道化師少年が 飛び付かれた「レミ」に苦戦して顔を歪める。
《 アンタの能力は地面を
飛び出させるか 穴を空けるだけの力みたいね 》
地面から本体であるレミの声が響いた。
『……それが何?だったらこの地面
全部ボコボコにしてキミを炙り出せばいいだけだよ』
少年は まとわりつく「レミ」を凪ぎ払うと地面に手を付いた。
手の付いたところから地面が隆起し始める。
それは やがて校庭全体に渡っていった。
ユエが眠る体育倉庫も揺れだす。
《 ユエちゃんに手を出すな!! 》
レミの声が響くと
道化師少年の足元の地面が
ボンッと弾けて爆発した。
少年は吹き飛ばされて地面を転がり
そして2度 3度と少年の落ちた位置に合わせて爆発が起こり
少年は体勢を立て直せなくなる。
大地が レミの怒りを表わしているかのようだった。
――――――レミは まだ地面の中にいる。
天然石を食べるようになったのは
土や石コロを食べるより、見た目が良いから。
本来は石、土、砂、泥などの「地」に関わるものなら
なんでも口にできる。
すっかり忘れていた事を思い出し
校庭の土を食べ続けた。
レミは今 校庭の「土」を食べる事で
「校庭の地面」を支配できる力を得た。
例え効力が切れても、口を開ければ
流れ込む土で いくらでも補える。
『くそぉぉぉっ!!』
道化師少年が 最後の力で地面のあちこちに
クレーターのような穴を作り始め
倉庫はおろか、校舎まで沈めようと目論んだ。
校庭が まるで月面のようになっていく。
穴が校舎と倉庫にたどり着く前に レミは勝負に出た。
地面の中を移動して 道化師少年の下に来たレミは
右手に目一杯の力を込めて上に突き上げ
道化師少年の足元から勢いよく飛び上がった。
レミの拳は少年のアゴを打ち抜く。
――――ドシャッ
レミが地上に戻り
地面に着地した時には道化師少年は
仰向けに横たわり 動かなくなっていた。
そのまま少年の姿が薄くなり スゥッと消えた。
レミは それを見届けた後、
校庭を元の平地に戻して 急いで倉庫に走っていった。
顔も髪も制服も泥だらけだったが
そんな事に構わず 全力で駆け抜け
倉庫につくと勢いよく扉を開けた。
「ユエちゃん!!」
せまい倉庫にレミの声が響く。
倉庫にある跳び箱にもたれかかるように
ユエは眠っていた。
レミはユエに近づいて しゃがんで ユエを抱きしめた。
それでもユエは 目を開けないが
ユエはレミの手に無事に戻ってきた。
レミは声を上げて泣いた。
大事な親友を取り戻せた喜びで感極まって涙を流した。
レミの涙は顔の泥を洗い流して
パタパタと落ちていった。