鬼人・桐谷アキト
ハルマが ニンマリと笑った。
「よし、任せた!」
「はぁっ!?」
「だって、顔見知りだろ?
オレが声かけに行くより確実に
お前の方が上手くいくに決まってんじゃん」
「嫌だよ!てか勧誘はそっちの役目でしょ」
「おっと、これ以上オレ達この校舎で
仲良くすんのマズイよな~見られたらマズイよな~」
「ちょっ ハルマ」
「じゃ、来週の火曜日待ってる♪」
バチンッ
ハルマは火花を散らして消えた。
(…よし。来週 あの馬鹿 血祭りにしてやる)
~翌週 月曜日~
風紀委員会の定例集会があった。
トールは ハルマが確信を持って
能力者だという 桐谷アキトを
なるべく周りに悟られないよう
意識しながら観察した。
桐谷アキトはトールの斜め左の
向かいの席に座って配られたプリントを見ている。
第一印象は 本当に好青年って
言葉がピッタリの今風の若者。
長身で脚も手もスラッとしている。
トールは2カ月もの間
何も知らずに 桐谷アキトと
同じ空間を何度か一緒に過ごしていた事に
微妙な戸惑いを感じていた。
特別 親しいわけではない。
委員会で活動する時に会話をするぐらいの
狭い関係だった。
それが自分やハルマと同じ
世間に受け入れられない「力」を持って
息苦しさを感じながら生きてきた
日陰者だというのだから
おかしな話だと思っていた。
(こんなに近くにいて
気づかなかったなんて…)
(けど本当にそうなのかな?
女子から あんなに歓声を浴びて
たくさんのバスケ部員と仲良く
部活を楽しんでいる姿から
とても日陰者には見えない……)
チャイムが鳴り、委員会が終わると
席を立ち上がって帰り仕度を始めた。
声をかけるなら もう今しかない。
トールは 立ち上がって
桐谷アキトの側へと行った。
「あの、桐谷君」
「ん?」
「あのー、えー……」
トールは 何から話せばいいのか
わからず 桐谷アキトの前でまごまごした。
「相談が……あるんだけど」
「相談?俺に?」
「う、うん。あっ、でも忙しいなら
大丈夫なんだけど……」
「いや、いいよ。どうした?」
桐谷アキトは なんの疑いもなく
爽やかな顔でトールを見下ろした。
桐谷アキト 180センチ
樋村トール 160センチ
トールは身長の差を感じて
ちょっと惨めになった。
「あのさ、明日……放課後……ヒマ?」
「明日?なんで?」
「……いや、うん、明日の放課後
ちょっと付き合ってほしくて」
「はぁ……」
桐谷アキトが不思議そうな顔をする。
(絶対に怪しまれてる。
いや、これは断られてもいいや。
僕はちゃんと声かけたし。
ハルマになんて言われようと言い訳できるし。)
と、心の中で呟いていると
桐谷アキトから返事がきた。
「いいよ」
「え!?いいの!?あっ、ありがとう」
「どこで待ち合わせ?」
「じゃ、じゃあ 旧校舎前で…」
「旧校舎?……まぁいいや、わかった」
そういうと、桐谷アキトは
教室を出ていった。
~翌日~
天気は晴れ。6月の3週目に入り
少し気温が上がって暑い日だった。
トールは 旧校舎前に呼び出した桐谷アキトを
上手く説得して 旧校舎の中に忍び入り
屋上へと案内した。
ハルマがすでにご機嫌で待っていた。
桐谷アキトは ハルマとトールの
顔を交互に見て しかめ面をしている。
「えっと……何?」
「ごめん、桐谷君……。
ちょっとこの場に来てもらうまで
説明できなかったから……」
「え?」
「よう!」
ハルマが陽気に声をかけた。
桐谷アキトは 怪訝な顔でハルマを見る。
「単刀直入に言うぜ。
お前の その能力なんだ?」
ハルマはトールの時と同じ質問を投げ掛けた。
「チカラ?」
「あぁ、隠してんだろ?」
トールは 不安げに2人の様子を見た。
ハルマは堂々と不敵な笑みで
桐谷アキトを睨んでいる。
屋上にヒュウゥ と風がなびいた。
桐谷アキトが両手で自分の顔を隠し
そのまま前髪へと両手を滑らすように
髪をかきあげた。
その瞬間
ハルマとトールは心臓をグンッと
掴んで引っ張られるような怖気を
感じた。
トールは桐谷アキトを見る。
殺気を放つその顔に
好青年の面影は消えていた。