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第一章『自分というもの、他人というもの』《ブルース・オブリージュ、ドキ☆ドキ!? 男らしく告白できるかな? 大作戦!!》

  7


 そして、作戦は決行される。


名付けて『ブルース・オブリージュ、ドキ☆ドキ!? 男らしく告白できるかな? 大作戦!!』である。


 残念ながらエリナはもう時間が遅いという事で、みんなで教会へと送り届けた。残念そうな顔をしていたけど、今度何でもしてあげるから、と説得した結果、何かを思い立ったかのような顔になった後に大人しく教会へと帰ってくれた。


 ん? 俺何でもするって言ったよね?


 正直、軽率な事を言ってしまった俺は後悔した。

 そしてフェリスとブルース、俺の三人は(くだん)のお店、イングリッドへとやって来た。三人は足を揃え、店内に入る。


「いらっしゃいませー。何名様ですか?」


 そう言いながら駆け寄って来たウェイトレスは噂のリサという女性であった。

 白をベースにした、桃色の制服に身を包んだ彼女は顔がとても小さくて、体つきがとてもスラっとしている美人さんだった。短く切られている茶髪には清楚感とてもがあり、そこから放たれる営業スマイルには、思わずドキッとさせられる。その第一印象は最高の一言に尽きた。


 三人です、とフェリスが伝えると空いている窓側の席へと案内された。とりあえず適当な飲み物を注文し、一息つく。


「ふぅ……ブルースはあの子に恋してるってわけね」

「普通に可愛かったな。おいブルース大丈夫かよ……?」


 チラリと隣にいるブルースを見るが、体はガチガチに固まっており、俺の質問にも答える事ができないほど余裕がないらしい。


「ダメね」

「あぁ、これじゃダメだな……。おい、ブルース!!」


 肩を揺さぶってみるが、その反応はあまりにも大きかった。


「は、はいぃ!! 何ですか!?」


 ブルースは告白するという事を意識し過ぎていて声が上擦ってしまっていた。俺とフェリスは頭を抱え、テーブルに突っ伏した。


 ダメダメじゃん……これで告白なんてできるのかよ本当に。

 男を見せてみろよブルース……!!


 手助けはするものの、最終的に告白するのはブルースだ。その本人が緊張し過ぎてポカを仕出かしてしまえば何もかもが無駄になっちまう。

 今回の作戦は第一に、ブルースとリサを二人きりにして、何とか雰囲気を作る事が必要なんだ。そのためには、今後の取っ掛かりを作る必要がある。


 まぁ、何事も順序と言うものは大事だと思うんだよね。

 押したり引いたりという行動の抑揚ってのかな? それも大事なんじゃないかなーって。

 今日はその第一歩。まずは知り合いになるところから始める。

 ブルースは案内された席に腰を落とし、飲み物を注文する。


 ここまでは手筈通り、あとはこちらからアクションを起こすのみ……!!


「お待たせしましたー」


 ウェイトレスは注文した飲み物を持ってきた。これがキーアイテム。

 近くにリサというウェイトレスがいる事を確認し、フェリスはおもむろにグラスを手に取る。そして、ワザとに勢いよく……。


「あぁ~しまった~こぼしてしまったぁ~」

「何をしやがるんだー」


 わざとらしさしかない下手な演技をしながらグラスの中の液体を俺とブルースへぶちまけた。どうもグラスの中の飲み物を俺たちにぶちまけるやり方は違和感しか抱かないものだったが、そんな事はどうでもいい過程でしかない。

 びしゃびしゃになった俺たちはテーブルの上のナプキンを手に取り、服をぽんぽんと叩きながら拭く。


「大丈夫ですかお客様!?」


 もちろん、その騒動に駆け付けるリサというウェイトレス。

 さて、ここからが本番だ。

 リサと急接近を果たす事ができたブルースが、いかようにしてリサと知り合いになるのかが大事である。さて、舞台は整った。これよりお知り合いになる儀式を始めようではないか。


「全然大丈夫っすよ、な?」

「え、はぇ!? あ、えっとぉ……」


 フェリスは目の前であたふたしているブルースを見て更に頭を抱えた。こんなんじゃ、声をかける事すら不可能なのではないか。そう思ったフェリスはウェイトレスに言う。


「すいません、もっと布巾を持ってきてくれませんか?」

「は、はい! ただいまお持ちします」


 リサはフェリスの注文を受けて、急いで店の奥へと向かった。

 そのとき、フェリスはとても悪い顔をしていたのである。ニヤリと口元を歪ませ、懐に隠してあった短い木の棒を取り出した。これはフェリスが仕事などで使う魔法の触媒となる杖である。


 フェリスは小さく杖を振り、誰にも気づかれぬようにリサの足元に何かしらの細工を施したその次の瞬間――リサが思いっきり前のめりに倒れてゆく。

 どうやら、滑りやすくなるように、リサの足元を思いっきり滑りやすくしたみたいだ。


 彼女の体は容赦なく他の客の客が座っているテーブルへ吸い込まれていく。

 そして、飲み物や食べ物が宙を舞う。何もかもがごちゃ混ぜになってよく分からないものが形成されながら、それが周囲にまき散らされて頭からよく分からないものをかぶる事となった。


 その一部始終を見ていた俺は、ガタガタと震えながら顔が真っ青になっていくのを感じた。


 ちょ、ちょっとおおおおおおおおおお!? フェリスの奴、やり過ぎじゃねーの!? 俺たちどころか他の客まで巻き込んじまってるけどこれどーすんの!?


 バッと素早くフェリスの方を見ると……彼女もガタガタと体を震わせ、真っ青な顔になっていた。この様子を見るに、ここまで大事(おおごと)にする気はなかったらしい。


 きっとリサをその場に軽く転ばせて、ブルースがカッコよく「大丈夫ですか?」と手を握って立ち上がらせるシーンを作る気だったはず。


「どどどどうしようアルトぉぉぉぉぉぉ!!」

「知らんがな。テメェが撒いた種だろ、自分で何とかしろよコラ」


 そうだ、ここでブルースの出番だ、と思い立ってフェリスは彼の方を振り向くと既にそこにはおらず、気が付けばリサの傍らに立っていた。


「大丈夫ですか?」


 先ほどとは打って変わって冷静な様子の彼は別人のようにも見えた。外見相応の、一六歳とは思えないほどに幼い感じの話し方だった彼が、今は困った人に手を差し伸べるカッコいい正義の騎士だった。


「え、ええ、ありがとうございます……」


 リサはブルースの手を取って立ち上がる。

 しかし、これで終わるはずがなかった。飲み物やら食べ物やらを頭からかぶったのはリサだけではない。そのテーブルの周囲に座っていた客もそれを頭からかぶっていた。


「おい、そこのねーちゃんよぉ……こんな事をしてタダで済むと思ってんのか……?」


 運が悪かったのか、巻き込まれた客が少しガラの悪い厳つい男たちだった。筋肉質でとても強そうな屈強な男たちに、周りの客は自然と後ずさっていた。


「こんなに服を汚されてよぉ……いったいどうお詫びをしてくれるのかねぇ……アン!?」


 身を震わせるリサと言う女性。ここは店長でも呼んで正しい対応をするべきであるが、目の前の男たちに恐怖を頂いてしまい、正しい判断をする事ができなかった。

 しかし、ここには丁度良い人がいる。


「大丈夫ですよ。ボクに任せてください」


 恐怖に怯えるリサを少しでも安心させてあげるためにも、こんな状況でも笑顔を絶やさずに目と目を合わせてて語り掛けてあげた。


「は、い……」


 リサは腰を抜かしてしまったのか、その場にペタンと座り込む。


「すみません。この場はどうか静かに事を済ませたいのですがどうでしょう?」

「あ? なに出しゃばってんだよガキが! お前は何様だよォ!!」


 少し荒っぽい人だったのか、すぐに暴力的な行いを始める目の前の男にブルースは溜息を吐いた。そしてその拳を軽々避ける。

 いくら体が大きくなくて力がないと言っても、ラウンドテーブルとして鍛えている騎士なんだ。そこら辺のチンピラの拳などスローモーションにも等しいはず。


「何だよテメェは!?」

「ボクですか? ボクはブルース・オブリージュ。ラウンドテーブルの象徴騎士(シンボルナイト)ですよ」


 そう言って、自分よりも遥かに大柄な男の腕を掴んで軽々とその場に倒した。その男はいったい何が起こったのか理解できずに、その場に倒れたまま体を動かせずにいた。


 その出来事に周りの人々は目を疑っていた。


 そりゃそうだろう。あんな可愛い顔した男の子がやるような芸当じゃない。


「とりあえずリサさん、店長さんを呼んできてください。それからキシナミさん、この人の監視をお願いします。ボクの力じゃ、この男を拘束する事ができませんからね」

「おう、分かった」


 リサと言う女性は頷いて店の奥へと姿を消し、俺はすぐに駆け寄って男の両手を掴んで拘束した。

 そしてブルースは屈強な男の方を向き、


「さてアナタ、暴力や威圧的な態度は感心しませんよ」

「け、けどよぉ、あんな事されて黙ってられるかってんだよ!」

「確かに今の事故はこの店の失態ですし、しっかりと整えた髪や衣服を汚されたその怒りは理解できます。でも、そういうときこそ冷静な話し合いを持ってして解決しないとダメです。じゃないと、もっと大きなトラブルに発展してしまいますからね。アナタだって、そんな面倒臭いのは嫌でしょう?」


 屈強な男は黙り込んだ。どうやらブルースの言葉によって説得できたようだ。

 すると、店の奥から店長らしき人物が現れた。自分の店の従業員がこんな事を仕出かしてしまって焦っているのか、額にはジワリと汗が浮かんでいた。

 その後はスムーズに話が進んだ。服のクリーニング代などの諸々の弁償代の支払いと、今回注文した品は無償で提供する事で話が付いた。


「今回はありがとうございました。ブルース・オブリージュさん、でしたよね?」


 問題が解決し、落ち着いたところにリサが話しかけてきた。彼女は深々と頭を下げてお礼を言った。


「はい。そうですけど」

「いえ、その、以前からこの店にいらっしゃっていましたよね?」

「……!? は、はぃ……」


 顔を覚えられていた事に急に恥ずかしくなったのか、冷静でカッコいいブルースさんはもうそこにはいなかった。そこにいたのは顔を真っ赤にして俯くブルースだけだった。


 しかし、これは逆にチャンスだ!


 俺はブルースの耳元に寄って、これはチャンスだぞ、と助言してあげた。

 それを聞いたブルースはハッとして顔を上げる。体がぷるぷると震え、顔はトマトの様に真っ赤に染まりながら――でも勇気を出して言った。


「きょ、今日は月が綺麗ですね!!」


 その場はシーン……と静まり返ってしまった。

 そして俺とフェリスは頭を抱えた。


 違う、そうじゃない。


 だって、今の空は少し曇っていて、ちょうど月が雲に隠れて見えなかったのだから。


「あ……」


 さすがにブルースも気が付いたのか、そうじゃなくて、と弁明するが良い言葉が出てこない。ただその場であたふた慌てるとても不思議な人になっているブルースに、フェリスは助けを入れた。


「これも何かの縁ですし、友達になりましょうよ。私、パン屋を経営しているんです。ブロード・ホームズ・ベーカリーっていう……」

「あ! どっかで見たと思ったらあのパン屋のフェリスさん!! そっかー、フェリスさんの作ったパンはとっても美味しくて、私大好きですよ」

「ありがとうございますー。で、せっかくだしこの野郎どもとも友達になりましょうよ。この気持ち悪い顔の男がアルト・キシナミで、ラウンドテーブルにいながら時々私のパン屋を手伝ってくれる奴です」


 どういう紹介の仕方だコラ!

 俺はただただフェリスの事目を細くしてを睨み付ける。ま、フェリスの口の悪さはもう色々と諦めているから別にいいけど。思わずため息が出るほどにな。


 すると、まるで化け物を見たかのような顔をしながらリサはひどく驚いていた。

 いや、確かに俺は悪人面だけど、そこまでされるとショックなんですけど。


「あ、あなたがこの前の悪魔を倒したっていうキシナミさんなんですか!?」

「ま、まぁな……」

「そうですか……思ったより普通な人なんですね」


 ザクッと心臓に何かが突き刺さったような痛みに襲われた。傍らでフェリスはムカつく顔で笑っているし最悪だった。


「え、えぇ……普通なんですよ、俺って……アハハハハ……」


 乾いた笑いが俺の口から発せられた。そんな俺を気にも留めずに、リサはブルースの方を向いた。落ち込むよ、落ち込んじゃうよ俺!?


「えっと、あらためて、先ほどはありがとうございましたオブリージュさん」

「いえ……えっと、友達? になるんだから、ブルースで構いませんよ、アハハ……」

「それじゃブルースさん、これからよろしくお願いしますね」

「は、はい!」


 満面の笑みで返事を返したブルースは、とても幸せそうだった。好きだという事は伝えられなかったが、今はまだこれでいいのだろう。ひとまずは知り合いになる事ができたのだから。

 これからゆっくりと、お互いに知り合って、それから自分の気持ちを伝える。それでも遅くはないはずだ。


 ブルースと別れたその帰り道、俺はフェリスの頭に一発ゲンコツをお見舞いしてやった。


「い、いったーい!! うぅ……」


 ブルースとリサが知り合いになるためとはいえ、危険な事を仕出かしたのだから、当然の報いだ。


「いいか、今回は綺麗に収まったからいいけどよ、こんな危険な事は今後なしにしてくれよ。いいな?」

「う、うん……」

「ったく……」


 それはメインストリートから少し外れて薄暗い道を歩いているときの出来事だった。

 雲が晴れて綺麗な月が現れ、その光が俺たちを照らした。

 その月を俺たち二人は見て、そして思った。



 ――こんな楽しい毎日が続きますように。

これにて第一章の終わりです。

戦いからはある程度離れて、会話中心、そしてギャグ中心の内容でした。

センスないからギャグは寒いかもしれませんけど、ご容赦ください!

ラブコメの波動を感じる(?)

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