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第一章『自分というもの、他人というもの』《恋のお悩み相談コーナー》

  6


「って事で、ブルースのお悩み、聞いてあげてくれませんかねぇ?」

「な、に、が~、って事で、なのよ!!」


 フェリスはすかさず俺の言葉にツッコミを入れる。

 今、俺とエリナ、そしてブルースはフローラの部屋に集まり、人生相談の場が作られていた。


 ご相談に対応するのはもちろん、大人気パン屋の看板娘にして経営者のフェリス・ランと、その妹、隠された美少女フローラ・ラン。


 そしてアシスタントを務めるのは、小さくても女の子は女の子。俺やブルースでは分からないような女の子の気持ちを教えてあげちゃいます! エリナ・スウェール。


 この三人でお送りいたします。


「という事で、ラン姉妹&エリナがズバッとお答えしちゃいます! 恋のお悩み相談のコーナーです!」


 俺のこの宣言の後にどこからともなく聞こえてくるBGMとカラフルに装飾する照明はみんなの心の中にあるので省略する事にする。

 ぶっちゃけて言うと、このアドリブについて来れているのはエリナだけであった。


「このコーナーでは、フェリスのおねーちゃんとフローラのおねーちゃんが、恋煩いで悩む若者にアドバイスを送り、協力し、その恋が実る事を祈るコーナーです。アシスタントは、このエリナ・スウェールが務めさせて、いただきます!!」


 と、エリナは拙い字で書かれているカンペであるメモ用紙を見て、ぎこちなくなりながらもそう言った。

 ちなみにそのカンペは最近、ちょっとずつこの世界の文字を書けるようになってきた俺が作ったもの。正直、字はとても汚い。ゴメンなエリナ……。


「ちょっと待てええええええええええ!! 何、何なのコレ!? こぉなぁ? 何かエリナもノリノリだし……何なのコレ!?」


 ひたすら困惑してツッコミを入れるしかないフェイスに対しフローラは、


「何だか面白そうですね!!」


 布団なんか被っている場合じゃねぇ!! と言わんばかりに毛布を剥ぎ、ベッドから落ちそうなくらいに身を乗り出しながら目を輝かせていた。


「では、ブルース・オブリージュさん、告白したいお相手はどなたでしょうか?」


 俺が元々いた世界の日本において、二五枚のパネルを奪い合うクイズ番組の有名な司会者のモノマネをするが、それが伝わる相手は誰もいなかった。

 いや、仮に知っていてもそのクオリティの低さからモノマネしている事すら気づかれなかったかもしれない。俺に演技力を分けてくれぇ!!


「えーっとですね……。イングリッドのリサさん、です」


 イングリッドとはこのドゥームニア、ティジュエルの街にある飲食店の事だ。

 そこで働いているウエイトレスのリサにブルースは告白したいらしい。

 ちなみに、俺もこのイングリッドという店には騎士団の人と何度か行った事がある。


 確か、リサという女性はとても可愛らしい人だったのを覚えている。あの笑顔には男を落とす力が備わっていたはずだ。

 あぁ、何て恐ろしい事か。ブルースは見事落とされたらしいな。


「…………ブルース」

「何ですかキシナミさん」

「色々と、厳しい戦いになりそうだぜ……」


 ブルースの肩に手を置き、そこはかとなく遠いところを見ているかのような顔をする。

 リサという女性、あの可愛さからすれば、彼氏持ちである事の可能性はものすごく高いはずだ。彼の恋は始まりにして終わる可能性だって十分ある。

 その事をブルースに伝えると、フェリスはでも、と意見した。


「でもさ、告白しないと始まりすらしないのよ? だったらやってみるべきじゃない?」

「そうだな、フェリスの言う通りだ」


 フェリスの言葉にうんうんと頷き、人差し指をビシッと立ててブルースに顔を寄せる。


「そこで、俺が元いた世界に代々伝わる落とし文句ってものを教えよう」


 おおー、と興味津々そうにしているブルースとフローラ、そしてエリナの三人。それに

 対してフェリスは、まぁアンタの言う事だからしょうもない事なんでしょ、と言わんばかりに冷めた表情を向けてきた。


 俺はフフフ……と意味深に笑い、


「いいか、月が綺麗ですね、だ。これはだなぁ、お金の顔にもなった事がある有名な小説家が“愛しています”という意味の外国語をそう訳したんだ。これを使えば必勝間違いなしってな」


 色んな知識が足りないのに、こんな雑学は色々と知っている。マジ親父(オヤジ)の影響パネェな。

 自信満々に知識披露をしたが、ブルースの反応はイマイチ。いや、フェリスとフローラ、エリナもピンと来ていないらしい。


「何だ何だその顔は! じゃあ実践してみようじゃないか。フローラ、窓を向いて座ってくれ」


 恐る恐るフローラは窓の外が見えるようにベッドに座る。

 俺も続けてフローラの隣に座る。

 さすがに恥ずかしいのかどんどん顔が赤くなっていく。まぁ、少しの辛抱だから頑張ってくれよ。

 俺はフローラの手を握る。


「え!? ちょ、何を……」


 フローラは顔を真っ赤にしながら慌てる。が、俺は構わずカッコ付けながら言った。


「黙れよ」


 妙にイイ声で、なおかつちょっと乱暴な感じにそう言ってやった。するとフローラは、何も言う事ができなくなってしまった。ふふふ、効果抜群のようだな。


「いいか、イメージしろ。今は夜で、空には綺麗な月が輝いている光景を」


 フローラは頷くだけ。

 すると、今度は妙にキメ顔になった俺が、フローラと目を合わせ離さないようにした。


「なぁフローラ……」

「は、い……」

「今日は、月が綺麗だな」


 俺は微笑みながら、ええ声でそう言う。


 完璧だッ!! フローラが、こんなにも顔を真っ赤にさせながら恥ずかしがってるじゃないか。もうこれ、堕ちたよね。チョロインみたいに堕ちたよね。このままこれ使ってハーレムルートに行っても良いですか? え、ダメですか、そうですか……。


「ぶふぉ!?」


 急にフローラが鼻血を出してしまった。え、そんなに効果抜群だった?


「お、おい!! 大丈夫かフローラ!?」

「だ、大丈夫……です。ただ、ちょっと興奮してしまっただけですから」


 興奮だって? なんていやらしい表現を使ってくるんだ……!!

 近くにあったタオルで鼻を押さえるフローラ。恥ずかしいのか、俺に見えないように顔をそむけた。


 そしてその傍ら、フェリスも顔を真っ赤にしていた。


 こ、これは……ふふふ、これは本格的にハーレム狙うしかないな。男の夢実現しちゃうしかないな。いや、女を侍らせて遊ぶ暇なんて今の俺にはないんですけどね。


「ま、まぁ、こんな感じだ。どうだ、効果抜群だろ?」


 ただ頭を縦に振るフローラとフェリス。そしてブルースは尊敬の目を俺に向けていた。


「凄いですキシナミさん! さぞ元の世界では女性にモテていたんでしょうね!」


 ピクッと身を震わせたフェリスとフローラ、そしてエリナは俺に詰め寄る。


「も、モテてたのアンタ!?」

「あの、アルトさん……そうなんですか?」

「アルトのおにーちゃんってモテモテだったの?」


 フェリス、フローラ、エリナの三人がいつにも増して慌てた様子で詰め寄ってくるものだから、俺はただただ困惑するだけだった。

 いや、フローラが俺に好意を寄せてる事は知ってるよ。だってあの時キスされたから。あの一度きりだったけどね。だから何かの間違いだったんじゃないかな~って疑い始めてきたよ。


 だけどフェリスとエリナまでどうしたってのさ!? もしかして、もしかすると……。

 変な期待はしないでおこう。勘違いだった時が一番虚しくて死にたくなるからさ。


「い、いや全然。つかフェリス、お前と会ったばかりの頃によ、独り身な俺を散々バカにしてたのに忘れたのかよ!」

「うぅ……そうだったわね」


 たく……と、腕を組みながら呆れる俺の傍ら、ブルースは熱い視線を向けてきた。

 そんなに見つめられると照れるんですけど。てか、そんなに期待されても困るんだけどなぁ……。この一大大勝負、どうなるか分からないし。


「とにかく、これで行こうぜ。そしたら作戦会議だ!」


 俺の宣言に、ブルースとエリナは勢いよく拳を上につき出し、おー! と元気よく叫んだ。フェリスとフローラも、ブルースやエリナよりは声は張っていないものの、おー、と言ってくれた。




 そして、自分の為にここまでやってくれるみんなに、ブルースは心から感謝した。

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