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第二章『強さを求めた果てに』《クロスカウンター》

  6


 俺と馬のラムレイは、無事にクラウディアのもとへと歩いて帰って来ることができた。

 馬に乗らずに歩いて帰ってきたところを見れば、俺がラムレイに乗るのに失敗したのは明らかだろうよ。だからきっと、クラウディアさんは他の馬に乗る事を進めてくるはず。だから俺はその前に言ってやる。


「クラウディアさん、俺、やっぱりラムレイを諦めることはできねー。時間がかってもいいからさ、馬を決めるのは先送りにできねーか?」

「はぁ。物好きな奴もいたもんだな。普通はあそこまで嫌らわれれば諦めるものだが」

「まぁ、なんだ。俺は諦めが悪い奴っつーことで。俺はラムレイに認めてもらうまで、他の馬には乗らねー!」

「貴様のその意気込みはよし。しかし、いつまでも馬も乗れない騎士は、それは騎士ではなくただの戦士だ。それではこのラウンドテーブルに居続けることはできない。分かってるな?」

「わ、分かってるよ。だから、ラムレイが認めてくれるような奴になるためにも、もっと強くならねーとダメなんだ。だから、もっと色んなことを教えてくれ! お願いだ!」


 勢いよく頭を下げた。



   ◆



 心からの熱い想いに心を揺さぶられた私は思わず顔が熱くなってしまった。


 ここまで真っ直ぐな男を私は見たことがなかった。

 ラウンドテーブルでは新入りの育成をする教官の位置に立っている私は、今まで様々な男を見てきた。教官という立ち位置からか、そもそもの性格がそうなのか、ひねくれた性格の奴ばかりの騎士団だが、私の事を全員が支持している。


 しかし、国王直属の騎士団という事もあり、入ってくるのはすでにベテランの騎士ばかり。それゆえ、その性格はどこかひねくれていて、その地位の高さからから大きな顔をする者や、ある意味で賢い選択を選択する者がほとんど。


 この環境では、キシナミのような何も分からない、真っ白な人物はとても珍しい。

 しかも、性格は真っ直ぐな奴と来た。

 やはり、私はキシナミの事を気に入ってしまったようだな。



   ◆



「貴様の気持ちは分かった。だが、代わりの馬は用意するぞ。ラムレイを認めさせるためにも、最低限の乗馬の技術は磨いてもらわないと困る」


 確かに、クラウディアさんの言う通りだ。ラムレイを認めさせるためには、乗馬そのもののテクニックを磨かなければならない。何をどうすれば良いのかも分からない現状、まずはできる事からやるべきだ。


「仕方がねーよな……。じゃあ、代わりの馬について、よろしくお願いします」

「うむ、分かった。では次は剣の扱いを教えよう。十分間の休憩の後、訓練を開始する」

「よし! お願いしまーす!」

「ふふふ、元気なものだ。では、私は騎士団のみんなの様子を見てくる」


 そう言って、クラウディアさんはその場から立ち去った。

 先ほどのラムレイとの一戦で結構な体力を奪われた。だから、一度城の壁に寄りかかり、深呼吸をしていったん落ち着く。

 ラムレイは、どうしたら俺に振り向いてくれるんだ?


 そんな事を考えていた時だった。


 誰かの足音が聞こえる。俺はその足音の方へ目を向けると、そこに立っていたのはラインス・ロックだった。


「アルト・キシナミ。暇なようだな」

「ん? あぁ、ラインスか。まぁ、その、暇っちゃあ暇だな」

「なら、突然で悪いが私と手合わせ願いたい。ユクラシア様に気に入られ、このラウンドテーブルに入団した貴様の実力を知りたいのでな」


 本当に突然なお願いだった。だが、そんな事はどうでもいい。

 売られたケンカは買うのが筋ってものだ。俺はここで逃げ出すような腰抜けじゃない。


 だから、こう答えてやった。


「手合わせだって? いいだろう。俺も見ておきたかったんだ、この騎士団のトップがどんだけ強いのかをな」

「なるほど。では、貴様には思い知ってもらおう。ラウンドテーブルの頂点である私の実力をな」


 すかした感じで言ったラインスに、歩斗は少々イラついた。だから、調子に乗っている彼を完膚なきまでに叩きのめしてやると思った。

 ラインスは木製の模造剣を俺に渡し、宣言した。


「正々堂々、お互い全力を出し尽くす。それだけでいい。いくぞっ!!」


 ラインスが走り出し、一気に俺との距離を詰めて来る。

 そして、一閃。

 俺は反応できなかった。その、あまりの斬撃の素早さに動体視力が追いつかなかった。


 これが、騎士の頂点の剣捌きなのか!?

 俺は辛うじて木製の剣でそれを弾いたが、木製の剣ごと持っていかれた。

 宙を舞う俺の剣。手元から、武器がなくなってしまった。


「ふん、勝負あった――」


 ラインスが勝負の結果を言おうとしたときだ。これで俺が諦めるとでも? ナメてもらっちゃ困るんだよなぁ。

 拳を握りしめ、右ストレートをラインスの顔面へと放った。

 ふん! 剣は使えねーが、俺にはこの拳があんだよ!

 その拳はラインスの頬にクリーンヒットした。赤くなる左頬をさすり、奴は微笑んだ。


「ほう、そう来るか。この私に一撃をくらわすとは大したものだ。だが、次があると思うなよッ!!」


 ラインスは木製の剣を投げ捨て、ファイティングポーズを取った。


「な!? へぇ、俺とケンカしようってか?」

「悪いか? お前は拳なのに、私が剣を使ったのではフェアじゃないだろう」

「へぇ、さすがはラウンドテーブルのトップ。どこまでも余裕を見せつけてくれるっ!!」


 すかさず拳をラインスへと飛ばすが、奴は楽々それを見切ってかわした。

 めげずに足を使って腹に一撃をくらわそうとするが、その前にラインスの拳が俺の顔面へ飛んできた。その拳は左頬にヒットし、俺は軽く吹き飛ばされる。その際、口の中が切れたのか口から血が流れ出ていた。


「さっきのお返しだ。これでイーブン。さぁ、お前を完膚なきまで叩き潰してやる!!」


 すかした雰囲気のラインスはもうここにはいない。彼は燃え盛る炎のように、そこで拳を握って俺を睨み付けていやがる。

 ハッ!! なんだよ、お前ってそんな奴だったのか。


「さぁ立てよキシナミ! 立ち上がってこの俺を倒してみろ!」


 俺は静かに立ち上がる。その時の顔は、笑っていた。

 なんで俺は笑ってやがるんだ? この笑みの意味はなんだ?

 その答えは、自然と俺の口から出てきた。


「ふはははは! あはははははは!! すげぇすげぇ。今まで弱い者イジメしてた俺が惨めだよ。どんなことにも敵わねぇって思う奴はいるよな。お前がそうだよ、ラインス。お前は俺がケンカした中でぶっちぎりに強い。この一発で分かった」


 これまで俺は不良同士でケンカをしてきた。弱い者いじめもしてきた。時には警察にやっかいになった事もある。ケンカの数なんてもう数えきれない。その中で、たくさんの野郎と殴りあってきた。

 殴られて口から血を出す事など今まで何回もあった。それでも、そんな中でも、このラインスの一撃はどんな拳一発よりも重かった。

 心に響いた拳だった。


 だから――


「お前を倒してやる! オラアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!」


 拳を握りしめ、ラインスに突っ込む。

 真っ直ぐに、ド真ん中から打ち砕くために、ラインスへ拳をぶつけるために、俺は思いっきりラインスに向って突き進む。


「面白い。面白いぞキシナミ! そんなお前に土産だ。受け取れぇ!!」


 ラインスが拳を握りしめる。目の前に迫ってくる俺の拳に対し、ラインスも拳を突き出し、交差する。


 クロスカウンター。


 相手の打撃に相前後して、互いに顔面へと拳による打撃を入れる技。

 俺とラインスの顔面には、それぞれの拳。


「ハァ、ハァ、ハァ、これでも倒れないのか、お前は」


 クロスカウンターは見事成功し、俺の顔面にとんでもない衝撃が走った。脳が揺れ、視界がぐらつく。意識も朦朧としてきた。だが、ここで倒れるわけには行かねぇ。

 負けてたまるかよ、コイツに。


「倒れたら、俺はお前に負けた事になっちまう。それだけは……絶対に嫌だからな」

「ふ……。負けず嫌いだな、だが嫌いじゃない。待ってるぞ、キシナミ。いや、アルト。貴様はまだ弱い。だが、強い心を持つのなら、俺に勝つことなど難しい事ではない。努力し続ければ、お前は俺に勝てるかもしれない。もう一度言う、待ってるぞ」


 そう言って、ラインスは去って行った。

 ここに残されたのは口の周りが切れて血まみれになっている俺だけ。

 頬が赤くなって、脚が震えていても、意地でも立ってやる。


「見下してんじゃねぇ。見下してんじゃねーぞラインス!! ぜってーにお前と同等、いや、それ以上になってやるから待っていやがれぇ!!」


 そして俺は倒れた。

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