plotter & schemer ①
時は茅野ケンジとの戦闘後に戻る。自分達に起こったFAITHの変化、それに伴うパワーアップ。そして……自分達を取り巻く環境の変化。全てが立て続けに起こるのだった。
*「茅野ケンジとの戦闘」とは、 prologueとboys meets oldman の間に追加したThe first battle の事です。
茅野ケンジとのバトル終了後。放課後になってイサムとリュウキはEibonの世界――Eibonが商店街内に作りだした空間だ――に赴き、バトル後に起こった変化を告げた。
Eibonの答えは「それがFAITH(信仰)を得た時の感覚じゃ」だった。魔神同士が闘った場合、敗北した側のFAITHが全て勝利した側に奪われてしまう。今回はイサムとリュウキの二人で勝利したので、茅野ケンジが集めていたFAITH POINT 144ポイントがきれいに等分されて入ってきたのだった。Eibonは分かりやすいようにと、集めたFAITHをポイントに換算して表していた。
「それプラス、見ていたギャラリーからのFAITHじゃの」
結果だけ見れば上々の成果だが、戦闘の内容はまさに紙一重。薄氷を渡るような危うさだった。まともにやれば勝ち目など寸毫も見えなかっただろう。イサムの機転がギリギリで勝利を呼び寄せたと言っていい。
「普段の訓練も功を奏したと言えようなぁ」
イサムとリュウキは魔神を授かってからというもの、連日このEibonの世界にやって来ては訓練を重ねていた。当初の相手はEibonが作った棒人間だったが、すぐに物足りなくなりトリスタンVS鞍馬の大天狗でやり合うようになっていた。
イサムはケンカの場数が、リュウキは道場での稽古が実力を養うのに不可欠である事を熟知していた。魔神のコントロールも、いきなり実戦など不可能――そう考えて訓練を重ねていたのだった。
「あれだけのFAITHの差を練度とコンビネーション、+αの能力でひっくり返すとは、なかなかやるもんじゃの」
「当然だろうが」
「まぐれですよ」
踏ん反り返ったのがイサム、謙遜したのがリュウキだ。全く好対照の二人である。
「じゃがな、喜んでばかりもいられん。生徒会の魔神使いが5人に対して不良グループの魔神使いは3人。うち一人はFAITHをお主らに持って行かれた。つまり実質2人としてよかろう。そうすると、どちらにもついておらぬフリーの2人と同等の勢力となる。そこにお主らが新たに入って来た……」
「つまりパワーバランスが一気に変わった?」
イサムがニヤつきながら聞く。
「そういう事じゃ。これから荒れるぞい」
イサムの表情が、はっきりと好戦的な笑いを浮かべた。
「面白れぇ、望むところだろうが。なぁリュウキ!」
「まぁ待て、まだバトルになるとは決まってない。それに……あまり事を荒立てたくもないんだ」
「お前……」
イサムの顔が少しだけ曇った。リュウキが打ち明けた話を思い出したのだ。
魔神を授かった翌日、リュウキは放課後を待って、交際している水川アサミに全てを話した。何の疑問も持たず、アサミが喜んでくれると思い込んでいたのだ。魔神使いの代表格である前原ススムは圧倒的な人望があり、生徒会長を務めている。魔神の実力も圧倒的だ。自身に集まる人望がそのまま魔神への信仰にもなっているのだから、不良グループもまともに手を出せないでいた。
一面的とはいえ、その前原と同じステージに登ったのだから、当然喜んでくれる――そう思い込んでいた。
だがアサミが見せたのは驚きと悲哀が入り混じった、なんとも言えない表情だったのだ。何を言ってもアサミは応えず眼を伏せたまま歩き続けた。家まで送り届けた時になってようやく
「怪我だけはしないでね……」
と呟いた。それ以後アサミはかつての明るさを失ったままだ。――きっとアサミは自分の身を案じているのだろう――リュウキはそう考えていた。
それ以来リュウキはアサミに心配をかけまいと、リュウキとの魔神操作の訓練に励んできた。魔神使いとして知られる事になれば、否応なく何らかの戦いに巻き込まれるだろう。その日は決して遠くない筈だ。ならば多くの信仰を集めなければ危険極まりない。その為にもこのトリスタンを完全に制御出来るようになっておかなければ話にならない。そう考えたのだった。
「リュウキ、お前まさか……」
「いや、手を引くとは言わないよ。一度決めた事だからね、必ずやり通すよ。僕だって願い事もある。ただ……別にケンカを売って歩くつもりはない。そう言う事だ」
「ああ、ならいいけどな……」
付き合いの長いイサムの眼は誤魔化せない。リュウキの言葉に嘘はないが、モチベーションは明らかに落ちている。この魔神バトル、生身でやるわけではないとはいえ、気を抜いたり躊躇ったりすれば大怪我に繋がりかねない。イサムはそれを心配していた。
「さて、お主らに一つ言っておこうかの。FAITHを失った茅野ケンジじゃが、ある程度のFAITHは既に回復――と言うのも変じゃが――しておるはずじゃ」
「はぁ!?」
「何故!?」
ついさっきFAITHを失ってパワーバランスが崩れたと言ったばかりではないか。アンタは何を言ってるんだ――2人してEibonに詰め寄った。イサムは「クソジジィ」を付け加えて。
「言ったじゃろう、信仰とは常に意識される事じゃと。一旦はお主らにFAITHを持って行かれたとはいえ、まだまだ一般人からすれば脅威じゃ。当然意識されようて」
「そりゃまぁ……」
「確かに……」
人前で負けた事によって、それまで程は恐れられなくなろうが、安全な存在と言うわけではないのだ。ある程度は恐れられ続けるのは当然だった。
だがあくまでも「ある程度」である。そしてこれがいわゆる「怖い人達」が舐められる事を極度に嫌がる原因でもあった。怖がられてナンボの人達が一度舐められると、凄味が効かなくなってしまう。それではやって行けないのだ。
「FAITHが戻ったと言っても、あくまでも『ある程度』じゃ。以前と比べれば弱体化は免れん」
「ならいいだろうが、今度はサシでも勝てようぜ」
「そうとばかりも言えん。失ったFAITHを取り戻す為に、これまでにも増して無茶を――バカな事をしでかすやも知れんぞい」
「それは……マズイですね」
そうなると生徒会もこれまで以上に動き出すだろう。茅野ケンジが何度も生徒会にやられ、その度にFAITHを生徒会に持っていかれたら……生徒会の力がますます強大化して、不良グループはなす術を失う。そうなる前に思い切った手段に出るかもしれない。
「思い切った手段?」
顎の傷跡を掻きながらイサムが問う。
「そうさな……総力を結集して、一人ずつ闇討ちか」
「そんな汚い!」
リュウキが憤慨する。
「或いは玉砕覚悟で総力戦に持ち込むか」
「学校で……? どれだけ被害が出ると思ってるんだ」
まだ確定した事でもないのに二人揃って怒りをあらわにしている。このあたり、まだまだ子供っぽい正義感が残っているようだ。
「まだ可能性の話じゃ。何よりも、お主らにも何らかの接触――ないし報復があろうて。噂は既に広まっておるようじゃからの。用心はしておく事じゃ」
「ゴシップに詳しい爺さんだな」
イサムが憎まれ口をたたく。
「魔道師も情報化時代に適応せんとな。現代ではやっていけんのじゃ」
意外と俗な魔道師の発言に戸惑いながら、イサム達は今日の訓練に入った。FAITHを得た事で一気にパワーアップした魔神の制御は簡単ではない。だが一時間程で何とか形になってきた。
翌日。既に噂は広がり、イサムとリュウキは登校と同時に級友達から質問攻めにされる事となった。それを除いては、その日の学校生活は平穏なものに思えた――昼休みまでは。
年末年始のアレコレで遅くなってしまいました。次こそは予定通りに……。