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魔神学園  作者: 秋月白兎
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The first battle

魔神使いとなったイサムとリュウキ。これから先どうするのか話し合う為に来た校舎裏だったが……。

 灰色の巨大な影が風を巻いて、地上スレスレを飛び去っていく。異形の者達が間一髪、横っ跳びにかわして難を逃れた。その顔を爆風が叩く。

 GWも終わり、誰もが憂鬱な気分を味わっている最中。その昼休みに、体育館裏でこの異形の戦いは始まった。

 事の発端はよくあるものだった。イサムとリュウキが体育館裏で「これから」について相談しようと出向いたところ、二年生の茅野ケンジ――不良グループのNo.3――が大人しそうな二年生からカツアゲしようとしている現場に出くわしてしまったのだ。

 イサムとリュウキはケンジを止めに入ったのだが、火に油を注ぐ結果になってしまった。

「ああん!? テメェら一年坊主か……俺が誰だか知らねぇらしいな!」

「いや知りませんけど……」

「誰だよアンタ」

 普通に答えたのがリュウキ、挑発的なのがイサムである。

「なら教えてやる! 俺がこのS高校のNo.3、茅野ケンジ様だぁぁぁぁ!」

 ケンジの絶叫と同時に、その身体がブレて見えた。ブレた映像が上に移動し、その姿を変えていく。

 見る見るうちに茅野ケンジだったその面影も消え、翼を持つドラゴン――前脚はなく、そこには大きな膜構造の翼がある――ワイバーンに姿を変えた。

 目測で体長が4m、翼開長が6m程度か。その巨体が軽い地響きと共に降り立った。ワイバーンは高々と持ち上げた首をイサム達の眼前に持ってきて、凄まじい雄叫びをあげた。

 イサムとリュウキは耳をつんざく咆哮にかろうじて踏み止まる。内臓が吹き飛びそうな程の威圧感に晒されながら、本能的に両腕のガードをするだけで持ち堪えたのだ。大した肝っ玉だが、鼓膜はキーンと悲鳴をあげている。

「ふん、いい度胸だな。それだけは褒めてやるが……今のうちに土下座して謝るんなら許してやってもいいぞ。逆に言えば、そうしないと許してやらんという事だ。理解できたか? 出来たんなら……どうする?」

 腕組みをして余裕の笑みを見せるケンジ。当然だ、このS高校に数人いるとされる「魔神使い」に生身の人間が――しかも素手で勝てる方法など無い。彼らが操る「魔神」は様々な超越的能力を持つのだ。

 その魔神の一体を突き付けられたイサムとリュウキはどうするのか。まだ魔神使いになって間が無いのだ。

「こりゃしょうがねぇ。な、リュウキ」

「ああ、仕方ない……な」

 顔を見合わせた二人の姿がブレた。その映像が上に移動し――姿を変えた。

 イサムから抜け出した映像は、一本歯の高下駄を履き、山伏装束に身を包んだ鼻の高い赤ら顔――天狗に姿を変えた。手には葉団扇を持っている。

 一方リュウキから抜け出た映像は、白銀の甲冑に身を包んだ長躯の美男子――イケメンではすまないレベルだ――の騎士に姿を変えた。手には穂先が柳の葉状になったフラメアと、黄金で縁取られた白銀の大きな盾を構えている。盾の中央には恐ろしげな顔が彫金されていた。

 天狗と騎士がワイバーンの前に立ちはだかった。なんとも奇妙な対峙である。二人が相談しようとしていた「ある事」とは、この事だったのだ。

「なんだと……お前らも『魔神使い』だったのか!? 聞いてねぇぞ、そんな事たぁ!」

「そりゃまぁ、言ってねぇからな」

「報告する義務もありませんしね」

 二対一でも、一気に形勢逆転とはいかなかった。ケンジが一つ深呼吸をして落ち着きを取り戻したのである。

 魔神の能力は様々だが、一つだけ共通点があるのだ。それは周囲――この場合はS高校生徒に限定される――からの「FAITH(信仰)」の度合いに比例して能力が高まるという事だ。

 ケンジはこのS高校の(不良グループにおける)No.3として知られ、恐れられている。恐れられ、嫌われる事もまたFAITHとされる特殊な条件なので、それなりのFAITHを集めているのだ。

 対してイサムとリュウキの魔神は、ほぼ知られていない。故にFAITHは碌に無い筈だ――ケンジはそう踏んだのである。

「おい、一年坊主ども。覚悟はいいんだろうな。お前らの相手はNo.3なんだぞ」

「あくまでも『ワルの中で』の限定的No.3なんだろ? 生徒会の『魔神使い』には手も足も出ねぇって噂だし」

「ここまで来たら……こっちも引けないんですよね」

 イサムはあくまでも挑発的だ。その分リュウキの「まとも」ぶりが目立つ。

「てめぇら……ブッ殺す!」

 ワイバーンが巨大な翼で空気を叩き、巨体を空に踊らせた。


 こうしてバトルは始まった。


 ワイバーンが空中で身を翻し、急降下してくる。天狗が葉団扇で突風を浴びせ、騎士がフラメアで突く。

 だが強靭な表皮に阻まれ、浅手をを負わせるのが精一杯だ。二度三度と繰り返しても結果は同じだった。

 力の差は歴然だった。ケンジは頃合いと判断し、様子見を止めた。

「ふふん、それが限界みたいだな。じゃぁ、とどめのダメ押しといこうか。お前らも魔神使いなら、当然Eibonに会ってるんだよな? なら魔神に『+α』の能力を一つ与えられるのも知ってるよなぁ」

 イサムとリュウキの身が強張る。圧倒的に不利な状況が、更に不利なものになるであろう現実に、緊張を隠せないのだ。

「よく見ろ……これだぁぁぁ!」

 ケンジの絶叫とともに、ワイバーンの巨躯が電光に包まれた。全身から電撃を撒き散らしながら翼竜が襲いかかる。まともに触れる事も叶わなくなった騎士と天狗は横っ跳びに逃げた――が、騎士のフラメアに落雷した。

「うわぁっ!」

 騎士とリュウキが膝をつく。魔神と魔神使いは感覚がシンクロしているのだ。これによって正確なコントロールを実現している。故にダメージの感覚がある。ダメージ感覚のシンクロは、ショック死を防ぐためにかなり低い割合になってはいるが、やはりキツい。

「まずは騎士から片付けるとしようか!」

 ケンジが宣告し、ワイバーンが空中で姿勢を変えようとした時、イサムが動いた。

「そりゃ甘い! 先輩よ、天狗の能力を一つ忘れてやしないか?」

 ケンジがイサムを見た時にはもう、天狗が飛んでいた。そう、天狗は背中の羽根で空を飛ぶのだ。

 今まで羽根を仕舞っていたので、ケンジはこの天狗に羽根は無いものと思い込んでいた。いや、イサムが思わせていたのだ。

 不意を突いてワイバーンに肉迫する天狗。触れる事も出来ない相手に何をするつもりなのか。

 天狗はいつの間にか葉団扇から持ち替えていたヴァジュラ(金剛杵)を、ワイバーンめがけて至近距離から投げつけた。命中するも、強靭な表皮と電撃に遮られて浅手を負わせるにとどまった。

 一気に方向転換して天狗を追うワイバーン。両者は急上昇し、白昼の天高く舞い上がる。

 地上からは目視し難い高度だ。イサムとケンジは視点を「人間視点」から「魔神視点」に切り替えた。

 魔神を使う間は、自分自身の眼で見てコントロールする「人間視点」と、魔神と一体化した視点で操る「魔神視点」に自由に切り替えられる。

 目視が困難な状態や、より正確なコントロールが必要な場合は「魔神視点」が有利だが、シンクロが高まりダメージ感覚が強まるというリスクもある。

 天狗とワイバーンは最高高度に達し、急降下に入った。その時、天狗が減速した。

 追い付かれる! 誰もがそう確信した時、天狗が旋回軌道の中心側にズレた。加速したワイバーンが天狗を追い越す。天狗が再加速する。これで追う側と追われる側が入れ替わった――オーバーシュートだ。

 慌てたケンジはワイバーンを減速させてしまった――これがいけなかった。

 天狗は再び葉団扇を手にし、いつの間に持っていたのか左手で小石をワイバーンに投げつけ、それを葉団扇で扇いだ――天狗礫だ。

 猛烈な突風で加速した小石はワイバーンの翼に命中し、電撃で砕かれながらも皮膜に幾つもの穴を開ける事に成功した。

「よし!」

 勢いに乗ったイサムは二回三回と同様の攻撃を繰り返し、ワイバーンの翼をボロボロにした。

「うおぉぉぉ!」

 もはや飛行状態を保てなくなったワイバーンの姿勢を立て直そうと、ケンジは必死になり――電撃が頭から消えてしまった。

「今だ!」

 電撃の消えたワイバーンを天狗が押さえこみ、騎士に向かって急降下していく。

「リュウキ!」

「おう!」

 回復してきたリュウキと騎士が立ち上がり、武器をフラメアから長大な円錐形の突槍ランスに変えた。先端は鋭い槍状になっている。試合用ではなく戦用の突槍だ。

 魔神は伝承等にある武具や能力を自由に取り換えられる。

 騎士はランスを腰だめに構え、重心を落してワイバーンに狙いを定めた。

「ここだ!」

 イサムとリュウキが同時に叫ぶ。天狗が離れる。騎士が全身でワイバーンに突撃する。

 ランスの穂先がワイバーンの喉に突き刺さり、表皮を突き破った。両者のスピードと騎士の全パワー、ワイバーンの落下エネルギーが全て合わさり、穂先がワイバーンの首を貫いた。

「ごはぁぁぅぉ!」

 ケンジが喉を押さえてうずくまる。ダメージ感覚が伝わったのだ。普通ならショック死してもおかしくないが、シンクロのリミッターが働いて耐えられる範囲に収まっていた。

「なんとか……」

「勝てたな……」

 イサムとリュウキはハイタッチを交わした。乾いた音が響く。そこに歓声が重なった。天狗とワイバーンの空中戦を目撃した生徒達が集まっていたのだ。その数22人。

 イサムが意気揚々と、リュウキが躊躇いがちに手を挙げて歓声に応えるなか、ケンジがワイバーンに歩み寄っていった。眼には――涙が浮かんでいた。

「うう……すまねぇ、ワイバーン! お前をこんな目に遭わせちまって……うわあぁぁぁぁ! 許してくれえぇぇぇぇ……」

 号泣である。意外な姿にイサムとリュウキのみならず、ギャラリー達もどうすればいいのか、口々に相談している始末だ。

「えっと……悪いのって向こうだったよな」

「その筈だけど……なんかこっちが悪いような気になって来るな」

 まるで弱い者を泣かしてしまったような罪悪感に囚われてしまった。悪いのも強いのもケンジの方だったのだが。

「ここまでする事ぁねぇだろうが! この人でなし! 鬼! 悪魔あぁぁぁ!」

「えらい言われようだな……あと鬼じゃなくて、こいつは鞍馬の大天狗な」

「僕の魔神は円卓の騎士トリスタンですよ」

「なにがエンタクだ! 噺家みてぇな名乗りしやがって!」

 イサムとリュウキは呆気にとられてしまった。

「いやそれ、円楽師匠……?」

「すんなりそんなネタが出るとは、渋い先輩だな……」

 ケンジは涙を拭きながらワイバーンを引っ込め、ギャラリーを突き飛ばしながら去って行った。

 イサム達は再びギャラリーから拍手と歓声を浴び、助けた二年生から礼を言われながら奇妙な感覚に襲われていた。

 何か濃密なものが胸の中に溜まっていく感覚。イサムとリュウキは直感した。

 ――これはもしかして――

 ――Eibonが言っていた「FAITH・信仰」なのか――

 

 放課後、二人はEibonに話を聞きに行く事に決めた。



 茅野ケンジ FAITH POINT 262ポイントLOST。

 上杉イサム FAITH POINT 131ポイント+22ポイントGET。

 若園リュウキ FAITH POINT 131ポイント+22ポイントGET。


 

ちょっと構成を変える事にしました。いきなりこの話が第二話に来たら、そりゃワケが分からないですよね……。反省。

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