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魔神学園  作者: 秋月白兎
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boys meets oldman ④

いよいよ魔神との契約となったイサムとリュウキ。

二人はEibonに誘われるまま、儀式に臨む!

 Eibonが振り向き何も無い空間をノックすると、レンガ造りの頑丈そうな部屋が出現した。床から微細な粒子が現れ、あっという間に汲みあがった――そんな印象だった。イサムとリュウキはもう驚きもしない。感覚が麻痺したのか、驚くべき現象のハードルが上がってしまったのか。恐らく両方なのだろう。

 Eibonに誘われるままに部屋へと進むと、幾つも並んだテーブルの上に様々な像が整然と置かれていた。サイズはどれも30cm前後。人間型や獣型、鳥やドラゴン、果ては一言では言い表せないような怪物まである。

 だが無彩色の灰色の物と鮮やかに彩られた物があった。

「うむ、これはの……これら全てが『信仰を失った魔神の像』なんじゃ。これらの中から一体を選んで契約してもらう。契約した魔神の像は本来の色を取り戻し、識別できるという仕組みじゃ」

 言われてみると前原のもつ魔神「ヴリトラ」の姿もある。だが――契約済の魔神が驚くほど多い。どう見ても三桁では済みそうもない。

「だから言ったじゃろう、同時進行なんじゃよ。お主らの学校だけではない。今この瞬間にも日本国内だけで三か所、それを世界規模で……しかも様々な時代でやっとるんじゃからの」

 そう言われては納得するしかない。大人しく魔神像を眺めながら歩いていると、二人前後してピンと来るものを見つけた。

 イサムは一目で天狗と分かるが、リュウキは甲冑姿の騎士だった。長髪を垂らしている眉目秀麗な騎士。

「これは……?」

「ほう、トリスタンか。円卓の騎士じゃ……が、むしろ悲恋の主人公としての知名度の方が高いの」

 このトリスタンは、円卓の騎士の中でも最強と呼び名も高いランスロットと互角か、それ以上ともいわれる。だが「トリスタンとイズー」で悲恋の主人公として知られてしまい、それ故かなかなか信仰が集まらなかったのだ。

「まぁそれだけが理由でもあるまいがの」

「いえ、それよりも……人間が魔神に?」

「驚く事もあるまいて、この国では人間が祀られて神になる事も珍しくはなかろう」

 言われてみればそうだ――あっさりと疑問が消えたリュウキはトリスタンを、イサムは天狗を己の魔神と決めた。

「さてさて、魔神が決まったのならもう一つ決めねばな。魔神には一つだけ、望みの能力をプラス出来るんじゃ」

「そんな事が出来るんですか?」

「規模や範囲は限定されるがの。基本的な能力だけを付与して、後は集めたFAITH次第というわけじゃ」

「そうは言っても……アンタ一体何者なんだよ」

「言ったじゃろう、魔道士じゃ。さ、何にする?」

 イサムとリュウキの問いを軽く受け流して、のほほんとした顔で待つEibon。イサム達は魔道士という物をチートキャラのように思い始めた。万能を越えて、小規模ながら全能と言えるのではないか――そんな気がし始めていた。だからと言ってボケっとしているわけにもいかない。二人はEibonにアレコレと質問しながらどんな能力を付加するのか、考えを巡らせていた。

 まず全ての魔神は、スタート時の能力差というものは殆ど無い。これは公平を期す為だ。能力差は主に集めたFAITHの量によって生じる。操作の練度にもある程度は左右されるが、決定的なものではない。そして皆、プラスαの能力を一つだけ付加している。内容は様々で、戦闘向きなものや便利なもの、意外な能力だが良く考えているもの等々――Eibonも感心する事しきりだという。これを上手く使えばFAITHの差を覆す事も可能なのだ。

 また、全ての魔神は神話や伝承に言われている能力や特性を備えている。とは言え、その能力のスケールは限定的なものだ。

「本当に世界を壊されたりしてはかなわんからの。まぁ信仰を失った神にそこまで出来ようはずもないんじゃが……」

 ここでリュウキが疑問を口にした。

「待って下さい、魔神達が伝説通りのスペックに準じるなら……トリスタンは圧倒的に不利なんじゃないんですか? ただの人間なんですから」

 もっともな疑問だった。神々や魔物を相手に、騎士とは言え人間に何程の事が出来ようか。

 だがEibonが言ったように、スタート時の能力差はほぼ無いように設定されている。そしてトリスタンには甲冑や武器がある。それらは十分にドラゴン退治や、神々への対抗手段たりえる性能を付加しているのだった。

 それに必ずしも戦いになると決まったわけでもない。可能性は高いのだろうが、避ける事ができるのなら避ければいいのだ。

 イサムは考えた末に、ブースト能力を選択した。

「天狗は幻術だの飛行だのが出来るが、どう考えても決定力不足だろうが。ならパワー……というか、基本ステータスのアップがベストなんじゃねぇか?」

「確かにの。じゃが……漠然とし過ぎじゃな。着眼点はええが、都合の良過ぎる能力はさすがに無理じゃ」

 いつまでも、どれだけでもパワーアップはできない。何らかの制限が必要だ――そう言ってるのだ。

「そりゃそうだ……じゃぁ時間制限付きってのはどうだ? 一回のバトルで13秒間まで」

 敢えて縁起の悪い数字にするあたり、イサムの偽悪癖が現れている。

「バトルが前提か……お前さんには似合いかもしれんの。パワーアップ度合いはFAITHや練度次第でええかの」

「OK! 必殺技にリスクは付き物だろうが! だからこそ燃えるんだしな」

「全くお前さんらしい……」

「全くイサムらしい……」

 Eibonとリュウキが妙に納得した。しかし伝えられる天狗の能力を考えれば、プラスαが必要なのはバトルぐらいしかなさそうなのも事実だ。

 問題はリュウキである。騎士の攻撃手段は当然ながら物理的なものしかないのだ。何か魔法をプラスしてオールラウンダ―にするのか、空手家としてのノウハウを生かして物理に特化するのか。

 リュウキは後者を選んだ。

「……イージスの盾ってできますか? どんな攻撃も魔法も無効化して防ぐ盾が」

「ほう……伝説通りの石化はさすがに無しじゃが、それでええかの? それと無効化できる上限値も信仰度次第じゃが」

「はい。それで構いません」

「また思い切ったな……リュウキらしいっちゃらしいが」

 全てが決まると、Eibonは床に二枚の黒い敷物を広げた。見ると幾重もの円の中に複雑な模様と見慣れない文字が描かれている――魔法陣だ。

 イサムとリュウキはそれぞれ選んだ魔神像を持たされ、魔法陣の中心に座らされた。

「さ、右手人差し指から血を一滴垂らすんじゃ。像の頭にの」

 渡されたナイフで指先を切って血を垂らす。

「痛てぇな」

 ぐちるイサムにEibonが突っ込む。

「魔術っぽくてええじゃろう」

「まさか……演出のためだけにやらせたんじゃあるまいな」

「そんなわけがあってたまるか。さ、始めるぞい。深呼吸して心を落ち着かせるんじゃ……」

 Eibonが聞き慣れない言語で呪文を唱え始めると、魔法陣が燐光を放ちだす。呪文が続くうちに、燐光そのものとなった魔法陣が上昇し、二人の胸のあたりに滞空する。敷物に眼をやると――何も描かれていない。ただの真っ黒な敷物だ。

 滞空していた魔法陣が緩やかに回転を始める。Eibonが胸前で組んでいた手を頭上に掲げると、二人が持っている像が彩りを帯びてきた。そして色彩が淡い光となってイサムとリュウキの体に流れ込んでいく。

 流れ込んできた光が熱を帯び、全身に広がり一体化していく感覚。体中に力が満ちる。

「さ、今度は能力の付加じゃ。お主らが決めた能力をハッキリとイメージせい。映像でも感覚でも言葉でもええぞ」

 言われるままにイメージする。二人ともに映像のイメージだった。Eibonの呪文が朗々と詠唱されている。そのままイサム達に歩み寄り、二人の頭に手を置くと、一際大きな声で呪文を唱えた――いや叫んだ。

 途端にイサム達の腕にずっしりとした感覚が伝わった。心地よい重さのダンベルでも握ったような感覚。

「よし、これで終わりじゃ。像を見てみい」

 天狗は鮮やかな赤ら顔に、トリスタンは眩い甲冑に身を包んでいた。

「なんか天狗が見劣りするな……」

「そう言うでない、その天狗は魔王尊――鞍馬の大天狗じゃ。天狗界の大物じゃぞ」

 そうは言われても、天狗界とやらの凄さがサッパリ分からないイサムだった。

「それでは魔神の操り方を教えようかの。とは言っても、基本的にはイメージするだけじゃ。まずは魔神を『身体から』出すようイメージしてみい」

 魔神像を受け取りながらレクチャーする。言われた通りにやってみると――それぞれの身体に魔神の姿がダブり、鞍馬の大天狗はイサムの横に、トリスタンはリュウキの前に現れた。

「おおおお!」

 異口同音に驚きの声をあげる。

「まずは右腕を挙げさせてみい」

 イメージするだけで動いた。

「おおおお!」

 またも驚きの声をあげる。

「今度は自分の動きと連動させてみい」

 リュウキは空手の型を、イサムはシェーだのウッキーだの変なポーズを連動させる。

「おおおお!」

 今度は感心の声をあげる。

「……まぁええじゃろ。自分の動きと連動させるのが一番やりやすいのはわかったの。では今度は視点の変更じゃ。自分が魔神の中に入るようにイメージいしてみい」

「おおおお!」

 今度は興奮の声だ。

「自分が見える!」

「シュールもいいとこだ!」

 魔神の眼から見た光景が脳裡に広がっているのだ。自分の眼で見た光景とはハッキリと区別できる――そんな光景がありありと見える。

「慣れれば、その『魔神視点』が一番操作しやすいはずじゃ。必要に応じて切り替えるがええ」

 その後も説明は続き、一通り終わったところで実地訓練となった。Eibonがアストラルライトを集めて作り出した動く人形とのバトルである。罪悪感を抱かせぬよう、いわゆる「棒人間」のデザインだ。

「荒事がこなせれば、大概の事は大丈夫じゃからの。さぁやってみい」

 軽く言い放つ。言われた二人は――これまたあっさりと承諾した。これは棒人間デザインだったからである。もしも人間に近いデザインだったら、こうはいかなかっただろう。

 何よりももう「動く人形」が襲いかかってきていたのである。躊躇っている暇はない。

棒人間が殴りかかって来る。鞍馬の大天狗は左腕でさばき、右手の葉団扇で吹き飛ばす。

 トリスタンはイージスの盾で攻撃を受け止める。衝撃はほぼゼロだ。上手く攻撃を無効化している。すかさず長剣で切りつける。真っ二つになった棒人間は虚空に消えた。

「どうじゃ、大体はわかったかの」

「ああ、大体はな」

「取りあえずは大丈夫です」

 二人とも息が荒い。興奮だけではなく、多少の疲労もある。魔神を使えば、それに応じて体力を消耗するのだ。

「さ、今日はもう帰るがええ。魔神使いの練習がしたければいつでもくればええしの。それと……疑うわけではないが、魔神を使えるのじゃお主らの自室と学校内だけじゃ。万一にも犯罪に使われんためじゃで」

「まぁそうだろうな」

「当然だと思いますよ」

 二人はEibonと別れ、入って来た元時計店と洋服店の隙間から商店街に戻った。振り返るとEibonの店があった空間は揺らぎながらすぼんでいき、消えてしまった。

「いつでも来いってどうやれってんだ――え?」

 またEibonの世界――以後二人はこの空間をそう呼ぶ――が広がった。どうやら望めば繋がるようだ。

「なるほどね。それよりも急ごう。バイトと道場が――」

 腕時計をみたリュウキが声を失った。まだ学校を出てから十五分しか経っていないのだ。アーケードから吊り下げられた時計を見てもほぼ同じ時刻だ、間違いない。イサム達の感覚では二時間はいたはずなのに。何から何まで不思議な空間だ。

 二人は急いで帰宅し、アルバイトと稽古をこなして自室に戻った。

 ――今日の事は夢だったんじゃないのか――その思いがどうしても消えない。イサムとリュウキは確かめるように魔神をだしてみた。そして夢ではなかったのだと認識を新たにするのだった。

 イサムの前には赤ら顔をした鞍馬の大天狗が、リュウキの前には完全武装のトリスタンが立っている。

 Eibonから「魔神と会話が出来るので気になる事は全て聞いておけ」と言われたので、色々と質問する事にしていた二人だが、自分の部屋に天狗だの騎士だのがいるのはやはり異常である。

「落ち着かんな……」

「落ち着かないな……」

 ――用が無い時は出さない事にしよう、部屋の中でも――全く同じ結論に至ったイサムとリュウキだった。

身内に不幸があり、更新が一週間遅れてしまいました。申し訳ありません。

次からはちゃんと……出来ればいいなぁ。

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