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魔神学園  作者: 秋月白兎
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boys meets oldman ③

Eibonと出会い、世界の行く末を聞かされるイサムとリュウキ。

彼らに対してEibonが提示したのは……?

アストラル体は時間も空間も飛び越えて投射出来る。一度投射したアストラル体は、周囲のアストラルライトを取り込む事で永続的に存在を保つ事が可能だ。そして自分の意識――或いは念を乗せる事で「もう一人の自分」として活動させる事もできる。

「それが今ここにいるわしじゃ」

 突拍子もない話である。イサムはどう切り返そうかと腕を組んで思案中なので、自然とリュウキが話を進めていく事になった。

「ではEibonさん、貴方は本物ではないけれども、本物と同様の人格というか考えをお持ちであると考えてよろしいのですね?」

「うむ、一つの意識を共有する別の個体とでも言おうかの」

 更に、この空間は自分の魔術で作り出した異空間――半ばアストラル界と重なった特殊な空間であり、それ故に思い通りの空間を作り出せるのだと告げた。

「やはりこの空間は、本来は無かったんですね」

「そうじゃ、この狭い路地裏にこんな広い草原なんぞ有り得んじゃろう」

たしかにその通りなのだが、実際に目にしてしまえば自分の記憶を疑ってしまうのも仕方あるまい。

「それにほれ、いつもとは感覚が違うじゃろう」

 空気が纏わりつくような感覚。異様に高まった視覚。更に注意して感覚を研ぎ澄ませば、遥か遠くを吹き抜ける風の揺らぎや匂い、揺らされた草がきしむ音までハッキリと認識できる。イサムとリュウキは、この現実を受け入れる覚悟を決めつつあった。

「それはの、お主らのアストラル体が刺激され、解放されつつあるから起きた現象なんじゃ」

「……それは何のために……ですか?」

 リュウキが当然の、そして核心に迫る問いを投げかけた。

「実はの……お主らに『生徒会長の前原と同じ』になってもらうためじゃ」

「な……!?」

「なに言ってんだこのジジイ!?」

 絶句した方がリュウキ、悪態をついたのがイサムである。だがこうなるのも無理はない。

 イサムとリュウキは知っている。いや、S高校の生徒と職員は例外なく知っているのだ。S高校には「魔神」と呼ばれる異形の存在を操る生徒が何人もいる事を。下校する直前に出会った生徒会長・前原ススムもその一人だ。前原が使わなくて済んだと言った「アレ」とは、この「魔神」の事だったのである。

「いやEibonさん、その物言いだと……魔神を授けたのは、いや前原先輩達を『魔神使い』にしたのは……貴方だという事になりますが」

「そう、その通りじゃ」

 あっさりと返されたリュウキは言葉を失った。一体、このEibonという老人は何を考えているのか、何をやろうとしているのか。そもそもEibonの言う事は本当なのか。様々な考えがリュウキの頭の中を駆け巡る。

 大人しくしていたイサムが、ようやく動きだした。

「ああ……いいか、爺さん。確かにあんたの言ってる事に状況証拠はあるみたいだ。でもな、それと言葉だけでこんな突拍子もない話を信じろって方が無理だろうが」

「ふむ。ではどうする?」

「あんた、たしか自分を魔道師だつってたな。じゃぁ派手な魔法の一つも見せてもらおうか」

「もっともな言い分じゃな。では説明の続きも兼ねて……ほれ」

 Eibonがテーブルの上にしゃがんだまま、右手の人差指で空中に何かを描いた。途端に周囲が暗くなり、無数の光点が煌めき始める。頭上にも足下にも。この時点でイサムとリュウキは方向感覚と上下感覚を失っていた。

 Eibonは、慌てふためき手足をジタバタさせる二人の姿勢を正し、落ち着かせる。そうするうちにも光点は成長し、その姿をハッキリとした形にしていく。図鑑などで見慣れた太陽系だ。

 そう認識した途端、その姿があっという間に遠ざかっていった。同時に強烈な加速感に襲われる。

「うおぉぉぉぉぉ!?」

「のわぁぁぁぁぁ!」

 いつの間にやらバランスをとれるようになったイサムとリュウキが目を白黒させる。そして、これまたあっという間に銀河系を見下ろす位置にまで移動した。

 よく見ると、幾つかの星が煌めいては消えていくのが分かった。

「……これが人類誕生以前に起こった、神々の戦いじゃ」

 イサム達は言葉もなく、ただ消え行く光を見つめていた。

「旧き神々と旧き支配者達の戦いは我らの想像を容易く超えよる。幾つもの恒星が消え、星座もその形を変えたんじゃ」

 その戦いは、宇宙の秩序を守る神々と、宇宙の深淵から現れた強大にして邪悪な支配者達の間で勃発した。想像を絶する戦いの果てに旧き神々が勝利し、旧き支配者達は個別に封印される事となった。――この地球にも。

 イサムとリュウキは目を見張り顔を見合わせる。

「では戻ろうかの」

 Eibonがフィンガースナップをすると、一瞬で元の部屋に戻った。Eibonもテーブルにしゃがんだままだ。イサムとリュウキは椅子に腰かけたままだが、さすがにぐったりとしている。

 先に気力を回復させたのはイサムだった。

「……取りあえず納得はした。……で、そういうトンデモねぇ奴らが地球にいやがんのか?」

「うむ、何体かおる。奴らは実体を持っておるからの、厳密な意味ではアレじゃが……わしは邪神と呼んでおる」

 ここで回復したリュウキが会話に入ってきた。

「……それと僕達や前原先輩がどう関係するんですか?」

 確かに前原達が操る魔神は凄い。だがどう考えても恒星を破壊出来るような連中に立ち向かえる筈もないし、第一封印されているなら放っておけばいいのではないか。

「ところがそうもいかんのじゃ。いずれ――遠い未来ではあるが、封印が解けてしまうんじゃよ。いや、小物はとうにチラホラと蠢いておるしの」

「それって大事じゃないですか!」

「なに落ち着いてんだこのジジイ!」

 一気に気力を取り戻した二人は大声を張り上げた。大した回復力だ。Eibonはそんな二人に満足そうに頷く。

 そしてEibonは自分の計画を語って聞かせた。いずれ復活する邪神、蠢く邪神の配下達。それらに対して魔神をもって抗おうというのだった。

 邪神VS魔神。一見すると出来そうな気はする。だがそう簡単にいくはずもない。確かに前原達が操る魔神の力は、生身の人間が素手で勝てる見込みは無いレベルだ。だが例えば軍隊なら? アメリカ陸軍一個師団なら? 十分勝てるだろう。一個人が持つには大き過ぎる力だろうが、あくまでも常識の範囲内で勝てるレベルなのだ。それで邪神達に対抗するなど……。

「そう思うのも当然じゃの。が……あれが魔神の力の全てじゃと誰が言うた」

「え? それじゃぁ……」

「リミッターでもかかってんのか?」

 前原達に与えた魔神は、それぞれ本来の神性が持つ力の極一部にすぎない。それを限定的に使っているのだった。

「で……僕達にその『魔神』を使ってどうしろと? ただでさえ勝ち目のなさそうな邪神を相手にどうするんですか?」

「まったくだな。無駄死になんざぁ御免こうむるぞ」

 当然の疑問である。魔神本来の力がどの程度かは分からないが、限定的な力をもらってどうしろというのか。しかし前原達が引き受けている以上は、何か納得できる理由があるに違いない。

「お前さん達――前原達もじゃが――にはな、魔神を使って『FAITH(信仰)』を集めてもらいたいんじゃよ」

「いや……FAITHって……『汝、悔い改めよ』とかやれって言うんですか!?」

「あの『右の頬を打たれたら左フックを返せ』ってやつをやれってのか!?」

「いやそうではない。間違えとるしの」

「くっ……」

 どんな時でも冗談をとばすのがイサムであるが、Eibonのツッコミで空回り気味だ。

 だがFAITH(信仰)を集めろとはどういう事なのか。彼等は神の子ではないし悟りも開いてはいないのである。

「別に布教せよとは言うとらん。事実、前原達もそんな事はしとりゃせんじゃろうに」

「ああ……」

「まぁ確かにな」

 信仰とは何か。様々な定義があろうが、Eibonは「日常的にその存在を意識される事」だとした。意識される事で信仰する人間の精神敵エネルギーがその神に流れ込み、力となる。言ってみれば神々は「信仰と言う精神的エネルギーの器」なのだ。

 つまりEibonはイサムとリュウキに「器に中身を注ぎこめ」と言っているのだった。その「中身」を溜めていく事で邪神に対抗する力を得ようというのだ。とは言え、学校レベルの人数――しかも何人もの魔神使いがいるのでは信仰は分散してしまうだろう。それでいいのだろうか?

「言ったじゃろう、アストラル体は時間も空間も越えて投射できる。様々な場所や時代に、同時に投射しておるんじゃ。大量かつ同時進行――そうでもせんとどうにもならん」

 また、Eibonが与える魔神は既に大半の信仰を失い、「器」が空になってしまった――あるいはなりつつある――神々や英雄、或いは魔物だという。

 今もなお多くの信仰を集めている神々は、十分な「中身」が注がれ続けているのだ。今さら必要ないというわけだ。

「今は『虚ろな器』しか持たん神々も、お主らがFAITH(信仰)を集めれば……その力を一点集中で使えば……まぁ戦力になれようて。言ってみればデコピンの原理じゃな」

 親指を使わず、中指だけではどれだけ頑張ろうとも痛くも痒くもない。親指を使って力を溜めるからこそ、デコピンは痛いのだ。

「なるほど……」

「つまり魔神でデコピンを食らわそうって事か」

「……まぁ、お主はその解釈でええか」

 だが何故その役目が自分達なのか。そんな事をするのは実行力や行動範囲の大きな大人の方が適任なのではないのか。

「まず……魔神を宿すには特定の条件があっての。紫水晶アメジストの魂を持っておらねばならんのじゃ」

「魂に色があるとは初耳だな」 

 早速イサムが茶々をいれる。

「まぁ科学的な色とは違うの。そうじゃな……象徴というか例えと言うか」

「ふむ、『しょうちょう(・・・・・・)』考えた例えなのか」

「…………」

「…………」

 イサムのダジャレで重苦しい沈黙が流れた。そして――その沈黙を破ったのもイサムだった。

「気の効いた軽いジョークで笑わんジジイには年金を払わんぞ!」

「お前はまだ払っとらんじゃろうが! それにここのわしはアストラル体じゃ!」

 言われて思い出したのか、イサムは腕組みをしてあらぬ方を向いた。

「それもそうだな」

 と一人でぶつぶつ言っている。

「まったく厄介な適合者じゃな。それと、学校と言う特殊な環境もあるんじゃ」

 社会人は日々の仕事や生活に追われ、「FAITH(信仰)」というものが意識から消えやすい。だが学校と言う閉鎖された環境では、日常的に意識しやすいのだ。

 実際、「誰と誰が付き合っている」とかヤンキーグループの存在など、学校という特殊な環境だからこそ意識して生活している事は多々ある。故に学生である事も大きなファクターなのだ。

 そしてEibonが既に定義したように「日常的に意識される」だけでよいのだ。別に崇められる必要はない。恐れられる存在であっても構わない。むしろ恐怖による精神的エネルギーの方が大きいから、助かるとさえいえるのだった。

「怖がる方にとっては迷惑な話じゃろうがの」

「ヤンキーグループにも『魔神使い』がいるのはそういう理由があったんですね」

 現在のところ「魔神使い」は十人。生徒会執行部の五人は全員が使える。不良グループに三人、一般生徒に二人。この二人は完全に自由気ままな勢力である。生徒会と不良グループはそれぞれで一団を形成している。

 生徒会と不良グループは当然対立関係にあり、一触即発の状態であるが、まだ直接的な戦いは起きてはいない。生徒会側が数の力で押さえこんでいる。そして何よりも生徒会長の前原が圧倒的な実力を以て制しているという噂だ。

 だがそこに二人が入れば――パワーバランスが大きく変動する事になるだろう。もしかすると大きな争いが起きるかもしれない。

 その反面、世界を救う力になるという大目的と、一種の陶酔感もある。

 とは言え、それだけでリスクは冒せない。

「じゃから褒美を用意した。もっともFAITHを集めた者は、ワシの魔術で願いを一つだけ叶えてやろう。ワシに可能な範囲で……じゃがな」

 イサム達の目が輝いた。世界征服だの億万長者だのは無理だが、宝くじで一等を引くだの恋愛運アップだのはわけは無いという。

 これまでの不可思議な体験が信憑性を裏打ちした。

 そして何より――ケンカ屋と空手家の血が騒ぐ。魔神での戦いなら、警察のやっかいになる事もないのだ。

 だがこの時点では、二人とも事を甘く考えていた。周囲への影響を考える視点が欠けていたのだ。故に若さに任せた決断をしてしまった。

「で……どうするかの、お二人さん。やってみんか?」

 イサムとリュウキは顔を見合わせて頷いた。

「面白そうですね」

「刺激は幾らあっても構わん!」

 Eibonは満面の笑顔を浮かべた。

「では決まりじゃの」


書いてから気が付きましたが、私の作品にしては会話が多いですね。

リラックスして書いてるからなのか……。

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